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108.ぼうけんしゃのじせきをたどる。

 ガラガラガラガラガラ……。


「特別実習って、何かと思えば……」

「空の、台車つき大箱を手で押して……」

「……ふぁ。

 迷宮のお片づけ、ねぇ……。

 わたしぃ、見てただけで手を出してないんだけどぉ……」

「見てただけで止めなかったし……」

「それどころか、相手を煽るようなことをいってただろうが!」

「目撃者が大勢いるから、言い逃れはきかん。ククリル」

「でもよ、ものは考えようだ!

 こんなに早く迷宮に入れると思わなかったしな」

「他人があらかたのモンスターを倒したあとの迷宮だがな、ハイネス」

「興ざめするようなことをわざわざいうんじゃねーよ、マルサス!」

「そんなことよりぃ……はやく終わらせて、戻って教本でも読みたいんだけどぉ……」

「教本?

 お前、そんなに勉強熱心だったか? ククリル」

「あれは別腹よぉ。

 かなり面白いしぃ」

「含蓄があるな、確かに」

「そっか……。

 二人がそういうんなら、帰ったら、おれも眼を通してみるかな……」

「誰だか知らないけど……あれ書いた人、かなりわかっている人ね。

 戦い方や勝ち方というものを……」

「そこまでのものなのか?」

「深いぞ、ハイネス。

 辺境のギルドが用意したとは思えないほどだ」

「しっかし……どこまで進めばいいんかね、ごろごろと台車の車輪ならして……」

「午前中のほんの短時間に、一つのパーティが攻略した通路だと聞いたが……」

「ってことは、まだ今朝のはなしなのか……」

「でも、武装するようにいわれているし、なにが起こるからわからないから、くれぐれも油断はしないように」

「そう……教官も、いっていたな。

 比較的安全ではあるけど、それも程度の問題にすぎない、って……。

 しかし、まだ歩くのか?

 いい加減、飽きたんだけど……」

「……あっ。

 あれじゃない?」

「第一の死体、みっつけ。

 ……って、近寄ると、でかっ!」

「豹……ね。

 一応」

「豹って……こんなにでかかったっけ?」

「迷宮に出現するモンスターだ。

 これくらいのことは普通なのだろう。

 大きさよりも……みろ。

 頸動脈と気管を一刀のもとに斬り伏せている。

 これをやったのは、相当の手練れだぞ」

「わたしぃ、この程度のことはできると思うけど……でも、このくらいの傷を負っても、野生動物ってしばらく暴れるのよねぇ……。

 どうして……この致命傷以外に、争った跡がなんだろ?」

「やったやつに聞け。

 ええと……大きいやつは、この札を貼る……とかいってたな。

 はい、ぺた、っと……」


 しゅん。


「わ、消えた……」

「説明された通りであろう」

「いや、でも……実際にみると、やっぱ感動するわー。

 おれ、魔法をみるの、初めてのような気がする……」

「ここに来るとき潜ったのも、立派な転移魔法なんですけど……」

「あれは魔法でも、見慣れた魔法だから別腹なの!」

「で、一つ目終了。

 こんなのが、あと九つあって……どんずまりの大部屋に、大量の甲冑やら武器やらがあるそうだ」

「この分だと、最終目的地はかなり遠くなりそう。

 先を急ぎましょう」


 ガラガラガラガラガラ……。


 迷宮内、某所。

「……ん?」

「どうした、シナク」

「なんか……空気が、ひんやりしているような……」

「そういわれれば……そんな気が、してくるの」

「なんらかの異変に真っ先に気づくのは、たいていシナクじゃな。

 用心してかかるに越したことはない」

「その通りだな、帝国皇女。

 しかし、冷気か。

 通路にも……特殊な攻撃を行うモンスターが、よく現れるようになったの」

「昨日の蛙の例もありますしね。

 念のため、子鹿を出して起きますか?」

「式紙子鹿、起動!

 先にいけ!」

「ふむ。

 これでよし」

「お……そっそく、なにかみつけたみたいだ」

「みつけたはいいが……なにも見えぬのだが」

「……子鹿は、反応しているようだがの」

「予想以上に小さなもので、ここからでは見えないのかも知れません。

 もっと近寄ってみましょう」


「……苔、か」

「苔のようだな」

「苔じゃな」

「つまり……この、床といわず壁といわずびっしりと生えている苔が……」

「どういう原理だか知らないが、周囲の熱を吸い取っているようじゃの」

「案外……食料の貯蔵庫の壁や床にこいつを植えつけておけば、日持ちがするようになるのではないか?」

「では、いくらかはいで持ち帰りますか?」

「それは、あとでもよかろう。

 みたところかなり遠くまで生えておるから……そのほとんどをどうにか始末しないと、先に進めんぞ」

「凍えますか……。

 それは始末するのはいいにしても……具体的に、どうしましょうか?

 人力で剥いでいくにしても、この量ではかなりの時間が必要となりますが……」

「この子鹿、食べないかの?」

「こやつは術式で出てきた実体のない映像みたいなものであるからの。

 物は食べぬ。

 しかし……冷えるな」

「では、魔法でどうにかなりませんかね? リンナさん」

「では、試しに……燃やしてみるか?

 延焼焦土!」


 ごぉぉぉぉぉ……。


「お、おい!

 炎を……」

「吸い取った……ように見えたな。

 この苔が……」

「これは……思ったよりも、手強いのかも……」

「では、逆に……。

 氷結結露!」


 ビシビシビシビシ……。


「今度は……どうなんだろ?

 効果のほどが、みただけではイマイチわかりづらいんだが……」

「見てわからなければ、さわってみるだけじゃ。

 槍の穂先で……お。

 軽くこすっただけで、ぱりっと剥がれたの」

「凍った……というより、周囲の空気もろとも凍りついて、乾燥して取れやすくなったか……」

「これでよさそうでるな。

 拙者が、魔法で凍らせる。

 おぬしたちが片っ端から苔を剥いでいく。

 しばらく、そうしながら進んでいくか?」

「それよりも……一度戻って、増援呼んできませんかね、これ……。

 こんだけ先までびっしりと生えているとなると……人数揃えないと捗らないと思うんすが……」

「それもそうか。

 こればかりは、冒険者としての実力よりも人手を揃えた方がはやいの。

 この苔自体も、ところを得れば利用価値がありそうではあるし……」


 迷宮内、某所。


 ガラガラガラガラガラ……。


「……あ。

 薄明かりが見えてきた。

 あれが……部屋ってやつかな?」

「渡された地図に書かれていた死体は、すべて転送したからな。あそこを片づけて、この実習も終わりだ」

「思えば……長い道のりだったぜ」

「まったくねぇ。

 歩き飽きたわぁ」

「冒険者ってのは、とんでもない距離を短時間で走踏するもんなんだな」

「このパーティだけ、特別なのではないか。すべての冒険者がこれほどの機動力を持っているとは思わないが」

「どーでもいいよ、もう。

 さっさと終わらせて帰ろ……って、なに!

 この、武具の山!」

「鎧類は、すべて叩き潰したあとがある……」

「ひょっとして……これ、全部……動く鎧とかで……」

「三人! たった三人で、これやったってか?

 これ全部……純粋な、物理攻撃だよなあ!」

「魔法を使ったのなら、また別の痕跡が残ろう」

「それよりぃ……後かたづけ、早くはじめなぁい?

 この量だと、ことによるとぉ……持ってきた三台の台車に、乗せきれないんだけどぉ……」

「……なるべく山積みにして、この三台に納めるようにしよう」

「いやいやいや。

 無理! とうてい無理でしょう、この量は!」

「では……積めるだけこの台車に積んで転送し、残りはもう一度、あの長距離をまた台車をここまで転がしてきて、積むわけか……」

「いずれにせよ、はじめなけりゃあ、終わらないし。

 さっさと手を動かしてぇ」

「「……はぁ……」」

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