105.きょうてきとぴすぞく、とりあつかいちゅうい。
「魔法とかでずばーんと蹴散らせないものなんですか、ああいうの?
敵の数が多いときは、それが一番手っ取り早いと思うんですが……」
「敵にもよるなあ、それは。
シナク、おぬしも生物以外には瓜坊の追尾性能が著しく落ちると指摘してっておったろう。
拙者が使うのは主に制精霊術系の術式なのでな、燃やしたり凍らしたりは得意でも、金属の固まりが相手ではそんなことをしてもたいしたダメージにならん。
あの手の生きていない連中に有効なのは、やはり単純な物理攻撃よ。
とはいえ……この三人だからなんとかなったものの、他のパーティにこの手の大軍を相手にさせるのは、ちと酷であるか……。
何か手だてを考えておくことにしよう」
「そう考えてみると、生物が相手なら、どんなに強大なのでも、まだマシなのかも知れませんね。
急所があるし、どこかしらを壊せば機能が大幅に低下するし、傷をつけて一定以上出血をさせれておけば、時間がたてば自然に死ぬし……」
「シナクの得意なパターンじゃな。
最近、アンデット系とか幻獣、半ば空想上のもおんと思われていた超自然的なモンスターが増えてきた気がするの。
こうなってくると、これまでの方法論がどんどん通用しなくなるわけじゃ」
「……また、怪我人とかこっちにケツを持ってこられるパターンが増えてくるかな?」
「どうであろうな。
他の冒険者たちも、それなりに経験を得て対応力や応用力が身についている頃合いであろうし……それに、地の民に加えてリザードマンの冒険者も、昨日今日で一気に増えておる。
ギルド全般の攻撃力も、総体としてみてみれば、ここ数日でかなり増強されていることと思うが……」
「リザードマンか。
昨日、一緒にパーティを組んだが、確かにあれらは物理攻撃力に特化した種族よな。
体格や膂力に恵まれている上、体中で敵にぶつかっていき、動きや反応もそれなりに早い」
「……うちのパーティにも一人か二人、リザードマンか地の民を迎えることを考えてみますか?」
「いずれ考えるにしても……今はまだ、早いと思うの」
「そうじゃ。
この分だと、まだまだモンスターも強力になっていくであろう。いずれこのメンバーではとうてい対応できぬ日が来てから改めて考えればよい。
今のうちに弱音を吐いているようだと、先が思いやられるぞ、シナクよ。
おぬしとて、ついこの間まで長いことソロを続けてきた身であろうに……」
「ソロなら、昨日もやったばかりですけどね。
確かに……まだまだ少人数でやっていけそうですけど……」
「こうしてみると……ルリーカとバッカスの組み合わせは、たった二人でありながら、こと戦闘に関しては短所があまりない、バランスの取れたパーティなのじゃな」
「あの二人は……攻撃力だけなら、ソロでも十分にやっていけますしね。その二人が組んでいるんだから、むしろ攻撃力が過剰であるといってもいい。
ただ、どちらも足が遅いから、探索業務に関してもあまり効率がよくありませんが」
「こちらのパーティは、移動力はあって、応用力や柔軟性にも富んでおるが、欲をいえばもう少し攻撃力が欲しいところじゃの」
「魔法も使えるリンナさんを含んでいるとはいえ、軽戦士のおれと女性二人だもんな。
瞬発力的には、確かに弱いか」
「その分、機転と機動力でこれまで乗り切ってきたし、これからもまだしばらくはやれるであろう。
とりあえず……これまでの札が通用しにくい相手や、大量の敵と遭遇したときに役立つような新たな術式を、考案してみることにする」
「お願いします、リンナさん」
迷宮前、入り口広場。
「……はい、ここまで、ですね。
もう少し、馬車を前にだしてください。
荷台が迷宮に入ると、お札を貼った木材が転送されますから……」
「はいよぉ……っと、いきなり軽くなった!
本当に、荷物が消えたよ!」
「では、こちらが受領書になりますね。
右周りに回頭してお帰りください」
「……はいよう。
迷宮ってのは、本当に魔法が使える場所なんだな……」
「それにもいろいろ条件があるんですけどね。
またこっちに来ることがありましたら、そのときはまたお願いしまーす。
次の馬車、どうぞー……」
迷宮内、管制所。
「資材はどんどん到着してくるけど、職人さんの手配の方は……」
「義勇兵の方々の希望で、王都から呼び寄せるためにいましばらくかかるとのことです」
「数日の猶予があるということですか?」
「そうなりますね」
「では、義勇兵向けの高級宿舎の前に、各種族公館や、王国大学ないしは帝国大学から派遣されてくる先生方のための施設を整備しちゃいましょう。
高級宿舎向けの建材を調達する際、かなり余分に資材を調達しています。地元の職人さんがいる今、どんどん作り始めちゃいましょう」
「いいですか? ギリスさん。
今搬入しているのは、かなり高級な品だと聞いていますが……」
「ギルドとしてどちらを優先すべきかは一目瞭然ですし、外から来るお客様に下手なものをはお貸しできません。今後の、ギルドの沽券にも関わってきます。
それに、こちらの職人さんが先にいいものを作ってしまえば、後発の王都の職人さんたちも手が抜けなくなるでしょう。
資材は品不足で値上がりすることも考慮してかなり大量に仕入れてきているので、思う存分、使っちゃってください。足りなくなったら、また買いつけてきます」
「はい。
では、そのように……」
「キャヌさんとマルガさんの引継作業は順調ですか?」
「昨日から開始していますが、今のところ問題はありません。
分業化した上で、引継をされる側の人たちが新たに手順書を作成しはじめています」
「誰か特定の個人がいないとうまく機能しないようだと困りますからね。
今後も手を抜かないでしっかりと手順書を作成するよう、念を押しておいてください」
「はい。
次に、ピス族関連についていくつかお伝えします。
きぼりんさんがすでに地の民の言語データを大量に蓄積していたため、ピス族と地の民、ピス族とヒト族との翻訳精度はかなり向上しているみたいです。日常会話なら、ほとんど問題がでないくらいだとか。
若干、データの蓄積量に劣るリザードマンとは、現在、いささかぎこちない部分がありながらも、実用上困らない程度には翻訳できています。
ピス族は他にも地の民の工房、モンスターの死体処理場や保存食工場などを見学してもらって、きぼりんさんたちと相談しながら、各作業の効率化作業を開始しています。
彼らの機械や技術と迷宮の魔力を使った魔法のいいとこ取りをしたシステムを開発しはじめています。
彼らの大半は、兵士といってもこちらでいう工兵か、もっと専門的な知識を身につけた研究者らしくて、彼らにとっては未知の存在である魔法にとても興味を持ち、その利用法を開発するのに夢中になっている様子です。
種族的な特徴として、知的な好奇心が強いのかも知れませんが……」
「……長いこと戦争に従事させられていた人たちですから、上から抑え込まれていた重石がなくなったとたん、はしゃいでいるのでしょう。
それが一段落して、少し落ちつてからが彼らとの本当の交渉がはじまると思っておいてください。
こちらからみれば進みすぎている彼らの科学技術は、諸刃の刀です。
うまく利用できればいいですが、一歩間違えるとこちらが自滅する可能性も多々あるのだと肝に銘じ、くれぐれも慎重に取り扱ってください」