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104.ぎゆうへいのほんかい。

 迷宮内、第二食堂。

「おい、聞いたか?

 あのへたれ王子、カスクレイド卿に続いてパスリリ家の姉の方を取り込んだとかいうぞ」

「おれは、あの姉の方が王子の元に自分を売り込みにいったと聞いたが」

「いずれにせよ、同じことよ」

「だが……王都より当地に参って成功しているのは、あの三名のみ。

 最近では、迷宮に恐れをなして王都に逃げ帰るものも少なくはない」

「ああ……」

「それは……」

「帰りたい者は好きに帰らせればいいではないか。

 帰ったところで、なにが待っている。

 夜毎の夜会に貴族同士の鞘当て、領地の管理……そんな毎日に戻るより、よほどマシではないか」

「確かに、王都は退屈な場所であった」

「が……ここのように、命の心配をすることがなかったのも事実」

「そうはいうがな。

 最近では、義勇兵は口ばかりの腰抜けだと、すっかりここの者らに思われているようだぞ。

 ここの研修生とて、年端もいかぬ女子どもが平然と混ざっておる。噂では、すでに冒険者として活躍しておる者も少なくはないとか。

 われら全員がここで退いたら……平民や、女子どもより劣っていると、暗に認めるようなものではないか」

「おぬしのいうことも、わからぬでもない。

 だが……こうした場で、安全な場所にいることができることこそ、貴族の特権というものではないのか?

 戦場でも、われら貴族は下士官以上の地位を持って遇せられる」

「戦場とこことでは、まるで違う。

 きけば、このギルドでは、冒険者の前歴は不問だそうだ。

 だからこそ、われらのような貴族や王子などが平然と一冒険者として扱われる。

 裏を返せば、生まれ持った家格によって厚遇されることもない、ということだ。

 金が払えるうちは、表面上慇懃に頭をさげて、

わがままを聞いてくるがな。

 昨日、迷宮に入った者たちの醜態を、おぬしたちもみたであろう、聞いたであろう。

 ギルドは確かにやつらを救ってくれた。

 だが、救われたやつらに貴族としての威厳はあったか?」

「そうはいうがな。

 あれは……いってみれば、おのれの力量をわきまえなかったゆえの、自業自得よ。

 貴族がどうこういう以前に、もっと身の程を知るべきだったのではないか?

 その証拠に、みよ。

 今、残っているわれらは謙虚にも、研鑽につとめることを選択したため逃げ帰る必要も感じず、正々堂々この場に残っておる」

「謙虚結構、研鑽もいいだろう。

 だが、そうしていて……実際に迷宮に入れるようになるのは、いったいいつになる?

 半年後か? 一年後か?」

「そこまでいうのであれば、おぬしはとっとと荷をまとめて王都に逃げ帰るべきであろう。

 一歩でも迷宮に入ったわけでもなく、臆病風に吹かれるままにそうすればよい」

「ああ、そうするとも。

 おれは大貴族の子弟であればみな平等であると思っていた。戦乱から遠ざかったこの世では、食うに困らぬ財産を受け継いでおれば、身分の大小なぞ問題にはならないとな。

 しかし、この地へ来て、おのれの考え違いを悟った。

 特性持ちだ。あいつら、特性持ちにはどうあがいても勝てん。

 いい例が、あの王子だ。

 変人よ虚言吐きよと白眼視されておったあの王子が、ここでは真っ先に活躍していて、おれたちにはそれができぬ。

 これは……あまりにも、不公平ではないか?」

「笑止千万もいいところだな。

 平民やそれ以下の身分に生まれた者は、もっと声を大にしていいたいことであろう。

 これは……あまりにも、不公平ではないか?

 とな」

「……うっ」

「生まれにより、不平等が存在する?

 当然のことではないか。それで、なにが悪い。

 そのような世であればこそ、われらはこれまで不自由なしに暮らしてこれたのだ。

 たまさか、祖先のなにがしかが大功をたててまとまった領地を賜った、そんな家系に生まれついたことが、そんなに偉いとでも思っていたのか?

 貴族とはいうがな、おれたちの大半は、山賊や海賊のなれの果てだぞ。戦乱の時代に領地を切り取って保持していたということは、ようするにそういうことだ。

 豊かであることと偉いということは、根本的に異なるであろう。

 われらが飢えないですんでいるのは、祖先が偉かったからだ。偉いといっていいだろう。なにしろ戦場に身を投じて、自他の血でその地位を購った連中だからな。翻っておれたちはどうだ? その地位にふさわしい仕事を、なにか一つでも完遂したことがあったか?

 われらは貴族であるゆえ、豊かであることは否定できん。だがそれは、祖先の功であって、われら自身の功ではない。よって、われらは偉くもなんともない。

 違うか?

 違うというのなら、その根拠をここに提示してみよ」

「おぬしは……われら貴族が、無意味だと……そのようにもうしたいのか?」

「意味、無意味なぞ、おれの知ったことか。おぬしらが、それぞれの見識と価値基準で勝手に決めればよろしかろうよ。

 おれがいいたいのは、貴族に生まれついただけでは、偉くはないということだ。

 だが、その身分にふさわしく偉くなれる方法なら、教えてやれる」

「そ、それは……」

「この迷宮で、一匹でも多くのモンスターを討伐してみせればいい。

 そうした実績がありさえすれば、誰に対しても胸をこういえるだろうよ。

 おれは、民草のためにこの身の犠牲を厭わず命を張って戦った、とな。

 そのようにいえることこそ、義勇兵としての本懐ではないかのか?

 そのことが理解できないようであれば、さっさと荷物をまとめて王都に逃げ帰るがよい!」


 迷宮内、某所。

「よりによって、動く甲冑かぁ……」

「面倒ではあるが、個別に無力化していくよりほかないの。

 残念なことに、拙者はあれによく効く魔法を知らぬ」

「昨日も、武装した白骨の一団と遭遇した。

 最近、死霊系のモンスターも増えておるのかの」

「白骨なら、間接部を壊していけばいずれ動かなくなる。

 中身がない甲冑なら……」

「バラバラにするか、押しつぶして動きを封じるか」

「それはいいが、数が多いのが難点であるの。

 この分であると、百体以上いるのではないか?」

「術式を駆使して片づけるしかないようですね」

「では……いきますか?」

「「……応!」」


 迷宮内、某所。

「……女だ、女!

 髪の毛が蛇になっている女!」

「それは邪眼持ちです!

 眼があうと石になるので、王子の後ろから攻撃してください」

「おう!

 この変形剣であれば……とりゃぁぁぁっ!」


 ずっ、ごぉぉぉぉぉぉっんっ!


「……カスクレイド卿。

 今、王子様ごと、吹っ飛ばしませんでしたか?」

「問題ない。

 あやつは、これしきのことでは毛ほどの傷も負わん」

「……問題あるよ、カス兄ぃ!

 その変形剣なら、この余の体躯をよけて攻撃することも可能であるはずではないか!」

「そう憤るな、ルテリャスリ。

 確かにそうすることも可能ではあったが、そうすると、こう、勢いというものが減じるのでな。

 世の中、ノリと勢いは意外に大事だぞ、うん」

「ノリと勢いで毎回吹き飛ばされていたら、こっちはたまったもんじゃないですよ!」

「しかし、ルテリャスリを先行させて、おれとパスリ嬢で攻撃を担当する、というのは……意外と、いけるもんだなぁ。

 第一、たいがいのモンスターが一発で片づくのは爽快感があっていい」

「そのたびに余が吹き飛ばされるけどね!」

「……まったく、あなた方は……。

 さあさ、時間が惜しいから、さっさと先を急ぎますよ!」

「「……はい!」」


 迷宮内、某所。

「……意外と、いけましたねえ……」

「多少、骨ではあったがな」

「昨日の白骨よりは手こずったが……信頼できる仲間がいる分、気は楽じゃったな」

「少し休憩しますか」

「それがよい。

 シナクよ、店で冷たいお茶を水筒に詰めてもらったぞ。

 一口飲んでみるか?」

「ああ、では、せっかくだからいただきます」

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