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103.しょうたいみたり。

 商人宿、飼い葉桶亭。

「……んっ」

「おお、目がさめたか、シナクよ。

 ほれ、きつけにこのお茶でも飲んでみよ」

「ああ……ティリ様……なんで……」

「昨夜、魔法剣士にこんこんと諭されての。

 根負けして、以後、シナクに無体な真似はせぬことになった。

 一種の協定であるな。

 代わりに、毎朝魔法剣士と交代でシナクをお越しにくることにした」

「……ふぁ。

 失礼。

 わざわざそんなことしなくても、時間になれば目をさましますけどね、おれ……。

 このお茶……薄荷と生姜の香りが……」

「目ざましにはちょうどよいであろう」

「確かに。

 独特の風味が鼻から抜けて……。

 それでは、そろそろ着替えますので、ティリ様は外にお願いします」

「裸で抱き合った仲であろう。

 今さら遠慮することもあるまい」

「いいから、外に出てください」


 街路。

「……宿のおばさんも、おれを訪ねてくる女性全部、フリーパスにするのいい加減、やめさせなけりゃあなあ……」

「それはかなり手遅れなのではないか、シナクよ」

「いわないでください。

 やっぱ、あの宿を出ることも考えるべきかなあ……」

「いよいよ邸宅を構えるのか?

 収入からすれば、とうの昔にそうしているべきだといわれておったが……」

「寝に帰るだけだからいいかなー、って思ってたんですが、これだけ身辺が騒がしくなってくると、落ち着ける場所が欲しくなります。

 あの全裸は……こちらの都合は考えてくれないけど、強引に迫ってこない分、あれはあれで害のない方だったんだなあ……」

「それではまるでわらわたちが有害であるとでもいわんばかりではないか」

「いや、実際、おれ、被害にあってますし」

「むう。

 だからこうして、妥協をしておるであろう。

 今朝のシナクは意地悪じゃ」


 迷宮内、入り口付近。

「今日は、いつもにもまして雑然としているなあ」

「どうやら、内装工事用の資材を運びこんでいるらしいの」

「あ。

 リンナさん、おはようございます」

「到着する端から札を使って行き先別に転送をしているようだが……」

「よくよく考えてみると、今の迷宮って魔法の使い放題ですもんね」

「今さら、であるがな。

 工具などの職人が使う道具も魔力で動かそうとか、それにモンスターの死体を処理する際にも魔法を使って効率化しようという動きもあるそうだし……。

 この迷宮も、どんどん様相を変えていっておるな」


 迷宮内、管制所。

「では、シナクさん。

 今日は、以前のとおりの三人パーティで」

「ええ。

 お互い、頭が冷えたようですので」

「はあ。

 今朝は、他のパーティのやり残しはありませんから、通常の探索業務ということで。

 それからこのお札のセット、一人一つつづ、迷宮に入る際には必ず携帯するようにしてください。

 特に脱出札は、いつでも取り出せるようにしておいたください」

「ああ、例の、緊急用のね。

 脱出札、もう売店でも売っているの?」

「はい。

 十枚と三十枚と五十枚、三種類のセットを扱っています」

「了解。

 おれたちは多用しそうだから、五十枚セット買っちゃいましょうかね」


 迷宮内、某所。


 ……しゅっ……。


「……ん?」

「どうした、シナクよ」

「防御術式が、なにかを弾きました」

「飛び道具か?」

「もしくは、それに類するもの。

 部屋待ちではなく通路で、というのは珍しいですね」

「しかも、シナクが相手に気づく前に、相手が仕掛けてきおった」

「ま、気を引き締めていきましょう」


 ……しゅっ……。

 …しゅっ………。

 ………しゅっ…。


「なるほど。

 かなり遠くから……こちらを狙って来ておるようじゃな」

「ええ。

 防御術式で身を覆っていなけりゃ、今頃穴だらけだ」

「一番術式の多いシナクが、このまま先頭をいけ」

「もちろん、そうします」


 ……しゅっ……。

 …しゅっ………。

 ………しゅっ…。


「……かなり前進したけど、まだ相手が見えないとか……」

「どんなモンスターかのう」

「これまでは、虫とか種を飛ばす植物であったが……」

「あと、ピス族の機関銃とかね。

 また知的種族に遭遇、ってのは偶然にしてもちょっと出来すぎな気がしますが……」

「わからんぞ。

 なにしろ、シナクと一緒であるからな」

「いずれにせよ、出所を辿っていけばはっきりするでしょう」


 ……しゅっ……。

 …しゅっ………。

 ………しゅっ…。


「……あれかな?

 よっ!」


 ざしゅっ。


「倒した……のか?」

「どれ、正体を検分してみるかの」


「……蛙?」

「蛙のようじゃの」

「蛙であるな。

 みよ、舌をこんなに延ばしたまま、息絶えておる」

「飛ばしてきたのは、個体ではなくて液体……つまり、こいつらの唾だったのか……」

「たとえ液体であっても、速度が乗っておればかなり硬い個体をも貫通する。

 あの飛距離を考慮すれば、こやつらはかなりの高速度で唾をとばし、それにより獲物の肉を貫通させておったのだろう」

「蛙って、肉食でしたっけ?」

「主として虫類食べるはずであるが……あるいは、こやつらの世界では、虫類もかなりの高速で飛ぶのかも知れんな」

「はあ、それで、こんな特技を身につけたのか……」

「こんなので倒されてロストでもしたら、それこそ浮かばれんの」


 迷宮内、某所。

「今日こそはいわせてもらいます!」

「はは。

 やはり、昨夜のしおらしさは仮初めのもの、そちらの威勢の良さがおぬしの本性か!」

「なんとでもいってください。

 あなた方の戦い方は、なっていません!」

「余、余は王子であるぞ。

 そ、そんな……頭ごなしに怒鳴らなくともいいではないか……」

「そんなことより、戦い方を少しは考えてください。

 特に、カスクレイド卿!

 何かというと、その剣で王子様をぶっ飛ばして敵にぶつけて……。

 超レアアイテムの無駄遣いもいいところです。

 第一、剣は敵を斬るためのものであって、味方を弾き飛ばすためのものではありません!」

「おお、。意外とまっとうな意見だ」

「カスクレイド卿のやり方がまっとうでなさすぎるだけです!

 あんな戦い方では、無駄が多すぎます。

 もっとそれぞれの持ち味を有効活用した戦い方があるはずです!」

「王子様の防御、カスクレイド卿の攻撃力、わたくしの魔法。

 それぞれ、一流の特性であり特技なのですから、それをもっと生かすべきです!」

「して……具体的には?」

「王子様を先頭にし、最低一度は敵の攻撃を受けて、モンスターの特性を理解します」

「ふむ。

 それで?」

「その後、モンスターの性質によって、カスクレイド卿なりわたくしなりが反撃を行います。

 敵が単体ないしは少数ならばカスクレイド卿が、大勢ならばわたくしが魔法を使用した方が早いでしょう。わたくしが出ることになった場合は、お二人で魔法を詠唱する時間、防御を固めていただくことになります。

 昨夜、ハァピィの大群に遭遇したおりも……王子様が先行しておいででなかったら、わたくしの大規模攻撃魔法で一網打尽にしてさしあげたところです!」

「ははぁ。

 さては、それでフラストレーションが溜まっておったのか……」

「カスクレイド卿、なにか?」

「いや、なにも」

「だが、それでは……余の活躍の場が、ないではないか……」

「なにをおっしゃいますか、王子様。

 王子様はわがパーティの貴重な壁役にございます」

「パーティの壁役というのは、普通もっと能動的に動くものだと思うのであるが……」

「オールDがなに生意気なことをいっているんですか!」

「……ひぃっ!」

「そういうごたくは、もっとランクをあげてからいってくださいませ、王子様。

 幸い、王子様にあられましては、たぐい稀なる特異体質をお持ちなんですから、自力で活躍できるようになるまでは、せいぜい有効活用していきましょう」

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