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14.しゅうへんの(じしょう)もさたちがめいきゅうにきょうみをもったようです。

「……なんじゃこりゃ?」

「煮込みー。煮込みはいらんんかねー。寒い朝には暖かい煮込みはいかがー。迷宮入りの前に腹ごしらえをどうぞー。今日は根菜とワニ肉とヘビ肉入りだよー。高蛋白低脂肪ビタミンミネラル豊富美容と健康に煮込みー」

「毒消しを忘れた人はいないかー。いざというときこれがないと困るよー」

「……なんで、迷宮の入り口前にこんな人がいるん?」

「取り出したるはこの直剣。そんじょそこら安物とはクオリティーが違う。名工グラハルの工房で鍛えた逸品。切れ味と耐久性に定評あり。本来なら金貨十枚はするところをいまなら手入れ用の砥石一ダースをセットにしてわずか金貨五枚で! あたっ!」

「コニス、なにやってんだよ」

「あら、シナクくん。おはよー。

 なんかねー、今朝から冒険者志望の人たちが増えてきたんで、在庫整理にちょうどいいかなー、って……」

「武器を売るのはいいが、詐欺はいかん。

 それ、グラハルの工房で下働きをしていた見習いが練習用に鍛えた剣だったろ? 名工の元で働いていただけあって、見習いとはいえそこその出来ではあるけど……相場でいやあ、せいぜい金貨一枚程度の出来だ。

 金貨五枚は、いくらなんでもボリすぎだろう……」

「あああっ。

 シナクくん、大声でそんな身も蓋もないことを……お客さんが、お客さんが離れてくぅー……」

「あっ。

 シナクさん、こっちこっち」

「あー。

 受付嬢か……なんなんすか、この人出……」

「ええっと、ですね。

 大半は、周辺の村とか町とかから流れてきた冒険者志望の方々、ですね。

 前々から迷宮はお金になるって噂は流れていたんですが、本格的に農閑期になったことと、それにここ数日、迷宮から高額なアイテムが出てきたことで、一気に押し寄せきた……というところです。

 遠方からわざわざここまで来て、吹雪で数日足止めを食らっていた方も、若干名いらっしゃるようですが……」

「で、その人手をあてこんだ物売りまで出はじめた、と……。

 どうすんだよ、この人数。

 全部迷宮にいれても大半はロストするのがオチだぞ」

「門前払いをするのもなんですし、いきなり冒険者と扱われるのもきついでしょうから、最初の数日はお助け人夫として働くことをおすすめして、迷宮の現実を見て貰うことになります」

「……数日、迷宮の現実をみれば、大半は考えを変えるか。

 いやでも負傷者やロストした死骸が搬出されるのを見ることになるだろうし……」

「問題は、それなりの前歴があり、腕にも相応の自信がある方々の処遇なんですけど……」

「どうしてもやりたいっていうんなら、やらせりゃいいんじゃねーの?

 あくまで、自己責任で。念書でも書かせて……」

「それも考えたんですけど、ギルドとしてはこれ以上、ロスト率を上げたくないんですよね。

 それなりに自信がある方というのは、地元ではそれなりに名が知られた方でもあるわけで、そういう方々が次々にロストして迷宮の怖さが過大に噂されましても、人手不足に拍車がかかりますし……」

「……面倒なことになっているなあ……いろいろと。

 ん? ちょっと待てよ……。

 コニス、ちょっと来い!」

「なんだい? 人の商売を邪魔してくれたシナクくん!

 できれば今はそっちに行きたくない気分なんだけれどもぉ……」

「儲け話だ。

 不良在庫が一気に整理できて割がいい商売の方法を、タダで伝授する」

「今いくすぐいくほら来たよ、シナクくん!

 ささ、そのうまいもうけばなしを吐け吐け吐けさっさと吐くんだっ!」


「で、こちらの方々が、その冒険者志望者、ねえ……」

「「「「「ういっすッ!」」」」

「(ボソッ)田舎のヤンキーじゃねーか……」

「ええっと、人数は、っと……ざっと二十名ってところかな?」

「なんすか、このチビとメスはぁ?」

「ええと、おれとこっちのコニス嬢とは、一応ここで冒険者をやらせて貰っています。

 で、今日は、ギルドの職員さんに頼まれて、君たちの適正試験をさせて貰うことになった。

 ルールはいたって簡単、君たち全員でこのコニス嬢と喧嘩して、最後まで立っていることができれば、その人を冒険者としてギルドに登録する。武装してかまわないし、飛道具もあり。そのかわり、こちらのコニス嬢も武装させて貰う」

「しつもーん。

 そうすっと、人数いるおれらの楽勝になんすけど……おれらが勝ったら、そこの人、おれらの好きにさせて貰ってもいいっすかぁ?」

「だ、そうだ。

 どうする? コニス」

「もちろん、かまわないよ!

 そのかわり、わたしが勝ったらこちらの手持ちの商品を言い値で買って貰うよ!」

「説明しておくと、こちらのコニス嬢はな、今は人手に渡ってしまったが、何代か続いた老舗の武器商の娘さんでな。

 手持ちの武器の処分に難儀していらっしゃるわけだ」

「ちょっち、相談させてください」

「おう、ご自由に」


 「どうする?」

 「はなしがうますぎないか?」

 「あんな小娘ひとりになにができる」

 「こんだけいるんだから、全員で武装して押し包めば……」


「あ、あの……シナクさん。

 本当に大丈夫なんですか?」

「あー。

 受付嬢はコニスの戦い方を知らないのか……。

 まあ、見ているといいよ。全然、心配いらないから」


「うぃっすっ!

 そのはなし、受けさせて貰いやすっ!」

「じゃあ、用意して、それが終わったら知らせて。

 コニスもなー」

「はいよー!」


 ごそごそ。


「えっとー……。

 あんまり強くしすぎると、不公平だしなー。

 魔力抵抗値と敏捷はあげなくてもよさそうだから、重装甲モードで行くか……。

 これ、可愛くみえないから、あんまりやりたくないんだけどなー……」


 ゴン。

 ガン。

 ドン。


「なー……。

 小さな鞄から、大きな兜とか鎧とか手甲が……」

「あの鞄、コニスの家に伝わってたマジック・アイテムだそうだ。

 大きさ重さにかかわらず、どんなアイテムでも9999999個まで収納できると聞いたことがある」

「よっ、と……。

 着付けが面倒なんだよな、フルアーマーって……。

 こっちは準備できたよー、冒険志望者諸君っ!

 いつでもどこからでもかかってきたまえー」


 「なっ……」

 「なんだよあのダルマストーブ……」

 「本当に人が入っているのか?」

 「いや、あんだけの重装甲だとろくに動けねーだろ?」

 「と、とりあえず、弓を射てみるか?」

 「じゃあ、おれは槍で……」

 「いいか、念には念をいれて、ぐるりと取り囲んで、合図していっせいに、だな……」


「「「よしっ!」」」


 ざざざっ!


「「「いけぇ!」」」


 キンッ!

 ガンッ!

 ダンッ!

 ドムッ!


「……んっ。

 今、何かした?」


「「「……び、微動だにしてねー……」」」


「じゃあ、こっちからいくねー!

 STG+9999999補正パァーンチッ!」

「STG+9999999補正キィーックッ!」

「STG+9999999補正……」


「そんくらいにしておけ、コニス。

 もう全員、白目剥いているから……」

「じゃあこの人たちから身ぐるみははいで……じゃなかった、最初の条件通り、正当な商取引をやって終わりだねっ! 現金の持ち合わせがなかったら、ばっちり取り立て堅実安心な金貸しの人も紹介してあげるから安心だよっ!」


「……コニスさんがなんでブラッディ・コニスと呼ばれているのか、よくわかりました……」

「そういえば、受付嬢さん、コニスちゃんのこういう姿を見るははじめてでしたっけ?」

「おれとしては、今にいたるまでまったく口を挟まずににこにこして見守るだけだったレニーが一番怖いよ……」


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