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13.よるのべっどのうえならめいきゅうのことをかたるよりももっとべつのことをしろよ。

「……ふぅ」

「なんか今日は、へんな一日だったな……」

「これでもおれは、冒険はしない冒険者で売っているつもりなんだがなあ……。

 どうしてこうなった」

「……帰るか」


「あら、シナクさん。

 今日は早いわね。いつものように飲んでこなかったのかい?」

「ああ。うん。

 仕事の関係でちょっとごちゃごちゃあって、疲れて直帰してきた」

「じゃあ、ごはんはいるかい?

 簡単なものならすぐにでも用意できるけど……」

「うん。

 お願いするわ、おばさん。

 あと、お湯もいっしょにね……」


「……ふぅ」


 どさっ。


「なんか、あれだよな。

 今日なんかは、肉体的にはいつもよりむしろ楽な方だったんだけど、慣れないことばっかやって妙に気疲れしている、っつうか……」

「異人に、帝国法に、派遣官吏……か」

「面倒なことをごちゃごちゃ考えずにすむのが、この仕事の数少ないいいところだったんだがなあ……」

「転職しようにも、おれ、商売とかそういうの絶対無理だし、他人に使われるのはもっと無理だし……」

「……どっかに、他人の顔色うかがわずにすんで、マイペースでできる就職口って転がってねーかな……」


 どさっ。


「やあ」

「よう」

「今夜はお前さんの上に落ちなかったぞ」

「得意そうな顔をするなよ。

 そもそも毎晩おれの上に全裸で降ってくること事態が異常なんだから」


 がちゃ。


「シナクさん、ご飯とお湯……おや、彼女さん、また来てたのかいのかい?

 入ってきたの、全然、気づかなかったけど……」

「お邪魔させていただいている。

 それは気にするな、ご主人。この宿の防犯体勢にはなんの問題もない。わたしはちょっと、その、特殊な例でな。

 どれ、これも今夜は疲れているそうだから、あとの面倒はわたしがしておこう」

「そうかい?

 そうだねえ。二人っきりのところ、邪魔しちゃ悪いもんね。

 食器なんかはドアの前に出してけばいいから、あとはよろしくお願いね」


 ばたん。


「全裸の相手にも動じないあたり、あのおぼさんも妙なところで肝が据わっているし」

「そんなことより食事をとらなくていいのか?

 それともお湯が冷めないうちに、体の方を先に拭くのか?」

「だから、勝手に服を脱がせようとするなよ。

 まあ、それじゃあ、食事の方から先に……」


「それで、今日の出来事についてはおおむね聞こえていたのだが……」

「筒抜けなんだよな。おれが聴いた音は全部」

「うむ。

 迷宮に、異人がでたそうだな」

「そうそう。

 ギルドでも、しつこく特徴とか聞かれたし。

 とはいっても、暗いなかで遠目にしか見ていないから、大したことはいえなかったけど……」

「今さらだけど、あの迷宮も、おかしいといえばかなりおかしいんだよ。

 ほんの数ヶ月前までは、廃鉱だったはずなんだけど、いつのころからか、あそこからモンスターが現れるようになって、その対策と調査をここのギルドが請け負うようになって……で、実際に調べてみると、坑道の形が昔とは違っているし、際限なく出てくるモンスターの出所はいまだに不明だし……」

「それを調べ、どうにかするのが今のお前さん方の仕事であろう」

「そりゃ、そうなんだけどな。

 ルリーカのいうことには、こういう、なんていってたっけか。あー。そうだ、局所的迷宮化現象、ってやつだ。その現象っていうのは、何十年とか何百年の間隔をおいて、大陸各地で起きているって。うん。少なくとも、ものの本には、そう書かれているっていってたな」

「原因についてはよくわかっていないんだが、ひどいときは迷宮から溢れ出たモンスターに国ひとつが滅ぼされることもあった、って

 で、さすがにそうなるのは困るから、今回の件も国からギルドへかなり多額の補助金が出ているんだそうだ。

 それを抜いても、迷宮から出てくるものを売りさばくだけで、ギルドには多額の仲介料が入る仕組みにはなっているんだけど……」

「マスターもいってたけど、この町、鉱山からいろいろ出てきたころにはそれなりに賑わっていたそうだけど、山が枯れてからこっち、ここ数年はすっかり寂れていた。

 けど……迷宮ができてからこっちは、かえって景気がよくなってきているそうだ。

 おれたち冒険者が迷宮から持ち帰るものってのは、レアなもんだったりで大金に化けることが少なくない。そいつを加工して付加価値をつけたり、換金したり、流通したりする段階でも、少なからず金が流れてく。

 鉱山だったときと同じく、こいつもまた一種の産業になっているんだよな、ここでは。

 まあそいつは、おれたち冒険者を消耗品とすることで成り立っている産業なんだけどさ」

「で、ギルドとこの町しては、もっと冒険者の頭数をそろえて景気をよくしたい、ってのを望んでいるんだけど、それだってただ数を増やしてもロストする人数が増えるだけ。即戦力になる冒険者ってのはそんなに多くないし、たいていはそれぞれの縄張りの中で頑張っているから、わざわざここまで出向いてくる人ってのも、そうそういない」

「じゃあ、希望者を募ってから使えようになるまでギルドが支援しましょう、ってはなしも、でている。

 実際にやってみないと、うまくいくかどうかはわかったもんじゃないけどな」

「そういや、局所的迷宮化現象の原因ってのは、大きく分けて自然発生説と人為説の二種類があって、このうち自然発生説はもっともらしいけど、その実、なんで迷宮が発生するのかまるで説明していない……とか、前にルリーカがいってたな。

 人為説……何者かが大規模な魔法を使用した結果だ、という方が、まだしも筋が通っている、とか……」

「……そこでなんで人の顔をじっと見つめる?」

「あんたの仕業じゃないよな?」

「幸か不幸か、違うな。

 空間操作系の魔法には、あまり興味がないんだ。

 その手のことに興味がありそうなやつとか、実際に迷宮をつくれそうなやつには何人か心当たりはあるのだが……今となってはそいつらに連絡をする手段も失われているので、確認のしようがない」

「……そんなのに何人もゴロゴロ候補者がいる交友関係というのも……いろいろとイヤだなあ……」

「だから、長いこと引きこもりをしていたのだよ。

 高位の魔法使いには変人が多いのだ」

「納得」

「だから、人の顔をまじまじみながら一人で頷くなと」

「今度は帝国からお偉いさんまで派遣されてくるっていうし、なんだかどんどん面倒くさくなってきているんだよなあ、ここも……。

 おれは、細かいことごちゃごちゃ考えるのあんまり好きじゃないんだがなぁ……」


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