91.ぐりふぉん。
迷宮内、某所。
「魔法炉、なー」
「魔法を用いた熱源を使用した鍛練用の炉でございます理論上温度上限がなく使用者や材料が耐えられる限りの高温を得ることができますこの炉で暖めた材料をこちらの台座にて叩きあげ加工することになります出力の調整は使用者の意のままに制御できます」
「ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ!」
「ええすべては魔力に困らないこの迷宮という環境のおかげ本来なら魔法とはこれほど無制約に使えるものではないのですがここでは使い放題なのでございますまた鍛冶仕事に高温を発する燃料の存在は不可欠でございましたが魔力を使用することにより他の燃料を消費することなく金属を鍛え上げることができるようになりましたこちらが地の民がこれまでに鍛え上げてきた逸品の数々になります鍛練だけではなく切断し磨き刻むお金属加工に必要な作業はおおよそカバーできておりどれも高い水準にあることがご確認できるかと思います」
「ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ!」
「この魔法炉を小型化でございますか? それは具体的にどのようなサイズにまで? ああそのような用途ならば可能でございます基盤に回路図を焼きつけるわけですねことによるとそれには焼きつけよりも印刷の方が効率がよろしいかと少々設備投資が必要となりますが精密で同一なものを大量に生産したいのであればええやはり印刷がよろしいかと場所と材料の入手に関してにギルドと相談することになるかと存じます」
迷宮内、某所。
「ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ!」
「このタービンを回転する勢いで電気を得ているわけですねそれでタービンを回転させるために原油を精製した液体燃料をしようしていらっしゃるとなるほど魔法を用いない文明というものは煩雑な手続きを得てエネルギーを獲得しているわけですねそれでこれが電力を蓄えるバッテリーなる機械になるわけですか?」
「ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ! ピイ!」
「それではこれより魔法で電気を発生させてご覧にみせます測定機械の準備はよろしいですね? はいどうぞ」
ばっばっばっばっばっ……。
「電圧? でございますかそのような概念はこれまでのわたくしたちには必要がありませんでした電機関連の魔法はほぼ攻撃魔法に限られており威力の大小の区別はございますがそれがみなさまのいう電圧というものに相当するのかどうかはとんとわかりませぬそれではこれよりも威力の大きい魔法を使用してみましょう」
ばちっ! ばちっ! ばちっ! ばちっ! ばちっ……。
「はいもっと細かな調整は可能でございますその結果を固定して一様な電気を長時間発し続けることもなにしろ魔力はこの迷宮から供給されておりますから事実上ほぼ無制限に使用できます」
迷宮内、某所。
「こちらがモンスターの解体所となっております冒険者が各所で討伐したその死体を集めてくるわけでございますね見ての通りモンスターの種類は多種にして雑多多くは既知の動物とほぼ同じものですが最近では徐々に未知の奇怪なことによると生物であるかどうかも怪しいモノも増えておりますここで解体して金属殻毛皮肉体液内蔵などの部位に分けてそれぞれの加工所に運び出すわけでございます最近ではずいぶんと大型のものも増えてきておりますので省力化のため倒したモンスターのいる場所から直接こちらまで転移魔法を使用して転送してきておりますこれにより人夫さんたちの労力を大幅に減じることに成功いたしました」
迷宮内、管制所。
「……ピス族の見学、ですか?」
「ええ。
シナクさんなら、まず間違えがないかと……」
「でもおれ、今日は一人ですよ?」
「それで……攻撃力ならギルド登録の冒険者一、二を争うこの方々と、臨時に組んでいただこうかと……」
「……よりによって、こいつらかよ……。
確かに、攻撃力だけは無茶苦茶高いんだろうけど……」
「ご挨拶だなあ、おい、ぼっち王よ。
お前、女に振られてまたぼっちに戻ったってはなしじゃねーか……」
「うるせえ、おっさん。
別に振られたわけじゃねーよ。
ちょいといろいろあって、目下戦略的な撤退を強いられているだけで……」
「はっ。
逃げてきたわけだ。
情けなー」
「……よろしくーっす!」
「人狼と吸血鬼、か……。
いいか? お前らは戦力にはいれないからな。
あくまで見学の人たちの護衛として、うしろに控えていてくれ。
そういうことでも、いいですよね?」
「え? ……ええ。
シナクさんが、それでいいのでしたら。
ギルドとしましては、見学者の安全が確保さえできれば、それで文句はありません。
それでシナクさん。
こんどいっていただきたいのは、この場所になります」
「部屋に待機しているモンスター……ですか。
こりゃあ……」
「おそらく……シナクさん並の速度を持っていないと、しとめるのは難しいかと……」
「幻獣、グリフォン。
現在知られている中で、もっとも高速で移動するといわれているレアモンスター……。
確かにこれは……頭数を揃えるだけでは、どうしようもならないな……。
部屋の広さは、わかりますか?」
「シナクさんたちが倒した、六体のジャイアントオークとか犀モドキの部屋、あれが現在まで迷宮内で発見された部屋の中では最大級のものなのですが……それよりも、かなり大きいようでして……」
「つまり、グリフォンは……縦横無尽に飛び回ることができる、ってわけね。
速度はともかく……こっちは、飛べないからなあ……かといって、ルリーカとかつれてきても、反応速度的に対応できないし……リンナさんでも、ぎりぎりってところか……」
「リンナさんに頼むことも検討したのですが、グリフォンは防御面をみれば、決して堅固なモンスターではありません。やはり、打撃力よりも速度重視の人選になってしまいますね。
その点、リンナさんは、魔法で補正をおこなって、ようやくあの速度を維持しているわけで……」
「なるほど、わかった。
やっぱここは、おれ単独でいくべきでしょうね。人数だけ多くても、あんまメリットがなさそうな敵だし。
おれが失敗したら、ティリ様にでも頼んでください」
「縁起でもないことをいわないでください。
モンスターも倒し、無事に帰還もする方法をなんとか考えてください」
「はいはい。
まずは、売店で……速度補正アイテム買っていくかな。
あれ確か、二割前後、補正がかかるってはなしだし……」
迷宮内、某所。
「……ってことで、来たけど……。
さぁーて、このだだっ広い場所のどこに、グリフォンはいるんだろうなぁ……」
……ばぁさっ。
『呼んだか、矮小なるヒトよ』
「うおうっ!
出た!」
『騒ぐな。
用があるから、呼んだのではないのか?』
「あー。
この間のドラゴンさんと同じで、人語を解するのかあ。
流石は、幻獣」
『ドラゴンだと!
ヒトよ。
おぬしはドラゴンにまみえて生還したというのか!』
「とはいっても、別に戦った訳でもないんですがね。
一種の取り決めをして、なんとか穏便にすませることができたってだけのはなしです」
『ドラゴンを相手に、穏便に……か。
ふざけたヒトだな、おぬしは』
「自分でもそう思うことがあります。
幻獣とはなしてても動じていない今とか」
『それで、ヒトよ。なにをしにここまで来た』
「本来なら討伐……なんですが、はなしが通じるのなら、その必要もないか。
グリフォンさん、取引ってできます?」