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89.しなくのふざい。

 迷宮内、管制所。

「なに、シナクは先にソロで中に入ったとな」

「ええ。

 しばらく頭を冷やした方がいいとかなんとかいってましたけど……」

「魔法剣士よ。

 これはやばいのではないか?

 せっかくうまくいきかけていた三人パーティーが……」

「いや焦るな、帝国皇女よ。

 少し前までとは違い、今の迷宮はいつまでもソロでやっていけるほど甘い場所ではなくなっておる。そのことは、シナクも重々承知のはずだ」

「あの……さしでがましいことをいうようですが、シナクさんと喧嘩でもしたんですか?」

「そういうわけではないぞ。

 ちょっとした、見解の相違というやつじゃ。

 先のことはともかく、今日の仕事はなんとする?」

「遺憾ではあるが、二人でパーティを組むのが賢い選択というものであろう」

「……まて。

 今、遺憾というたか、魔法剣士よ」

「「「……ティリ様!」」」

「お、おぬしらは……」

「はい。

 わたしたち、昨日、無事に教練所を放免になりまして、今日からデビューの運びになりました」

「でも、三名とも後衛向きなんで、別に前衛の方を探していたところなんです」

「今のおはなしですと、今日のティリ様は、あのぼっち王と組まれないご様子。

 今日だけでも、わたしたちとパーティを組んでもらいえませんか?」

「ふふん。

 それはいいな。

 明日以降のことはまた別に考えることとして……今日は、おぬしらとパーティを組むことにしようかの。

 どうじゃ? 魔法剣士よ。

 こちらもまだ前衛がたりん。

 そなたも一緒に……」

「結構だ、帝国皇女よ。

 魔法が使える拙者は、いざとなれば引く手あまただ。

 パーティを組む相手に事欠くことはない」

「では、決まりですね!

 では、この四人で迷宮に入りましょう!」

「お。おい……。

 この組み合わせであると、少々火力が不足しているのではないか……」

「攻撃力は、特殊弾頭や魔法のお札でカバーします」

「さあさ、はやく受付をすませて中にはいりましょう。

 ティリ様、冒険者カードを……」


「……さて、拙者は……。

 組む相手を、探すか……」


 迷宮内、羊蹄亭支店。

「……それで、朝からここに居座るはめになったわけですか、リンナさん」

「いざ、探すとなると……どうも、しっくり来るものがいなくての。

 引く手あまた、というのは決して間違ってはいないのだが……いかせん、やつらの拙者を見る目つきがいかにも値踏みをするようにみえて、こちらから断ってしまう。

 こうしてみると、仕事をしているときはスッパリと頭を切り替えられるシナクのようなのは、他にはなかなかおらんものだの」

「シナクさんみたいなのはねー。そりゃ、滅多にいないわー。

 お店がなかったら、わたしが組むんだけど……。

 で、なんでシナクさん、いきなりソロでいこうとしているわけ?

 あなたたち三人、それなりにうまくいってたでしょ?」

「ああ……それが、な。

 今朝、ちょっと……」

「……はぁ?

 裸で抱きついて強引に迫ったら、逃げ出したぁ?

 ……馬鹿じゃない!」

「イ、イオリア……そんな大声で……」

「そもそも、その状況をホイホイ受けいるようなシナクさんだったら、あなたたちだって追いかけていないでしょうに……」

「そ、そうはいうがな、イオリア。

 普段のあれの無反応ぶりに接しているとだな、だんだん、女としての自信が……」

「確かにね。

 女性に限らず、あの子のちょっと他人と距離を置こうとする態度は、少々問題があるとは思うけど……ぼっち王の異名は伊達ではないっていうか、軽度の対人恐怖症傾向があるとさえ思うけど……。

 でも、だからこそ、アプローチするにしてももう少し慎重にいくべきなんじゃないの?

 主人から聞いたはなしを総合すると、距離感がきっちり定まっている相手に対しては、あの子、安定した態度を取れているわけだし……」

「そ、そうなのか?」

「そうなの。

 思い返してごらんなさい。

 あの子の交友関係って、だいたい仕事関係か、距離感的にはっきりこうだと定まっている人たちばかりじゃない。

 冒険者仲間でしょ。ギルドの人たちに、仕事道具を買いにいく商店とか、宿の人とか……全部、これこれな関係、ってはっきり説明できる人ばっかりで、純粋な友人っていうのがいないし、作ろうとしていないの」

「いや……確かに、いわれてみれば……。

 でも、大人なら、そういう者も決して少なくは……」

「では聞くけど……あの子、本当に大人なの?

 見た目、二十歳前後かそれより少し若い感じだけど……リンナさんも、あの子の生い立ち、聞いたでしょ?

 あんな育ち方をした子が、ビジネスライクではない人間関係なんて、まともに築けると思う?

 他人との距離感をしっかり把握して、相手の思惑を想像して出方を伺って……なんて高等な技能、学ぶ機会があったと思う?」

「……あっ。

 そういう……ことなのか……」

「そういうことなの。

 あの子はね、曖昧な関係にはどう対応していいのかわからなくなるし、不意に距離を詰められたりするとパニックを起こして逃げていく、そういう子なの。

 焦りたくなる気持ちも分からないでもないけど……リンナさんの方が年上なんだから、しっかりとリードしてあげなけりゃ……」

「……もう少し時間をかけて、じりじりと間合いを詰めるべきであったか……。

 昨夜のあれは、魔女の毒気にあてられたところも大きかったが……」

「その魔女さんなんだけど……いったい、あの子のなんなの?」

「それは……こちらの方が聞きたい。

 魔女の方はともかく、シナクの方は、あれの存在を極力気にかけないようにしている様子であるが……」

「でも、拒絶をしているわけでもないわけね。

 ふーん……。

 ルリーカちゃんと同じく、あの子にとっては、家族枠ってわけかぁ……」

「家族枠……であるか?」

「うん。

 内心ではともかく、表面的には、これは妹みたいなもんだからー、とか、必死で自分を納得させて、異性としては意識しないようにつとめているわけね。

 ルリーカちゃんもかわいそうに。

 体が小さいから幼くみえるけど、あの子もあれでうちの長女よりも年上だし、世間的には縁組みのはなしも出てこようって年頃なのに……」

「……あ。

 あー……」

「心当たりあるでしょ?

 シナクさん、ルリーカちゃんのこと、なにかというと子ども扱いしたり、幼いっていったりするし……。

 ルリーカちゃんも、悪気があっていっているわけではないことは理解しているけど、シナクさんにそういう態度をとられるたびに、地味に落ち込んだり拗ねたりしているし……」

「……しかし、イオリア。

 よく見ているものだな。

 流石は、年の功というべきか……」

「十七歳です」


 迷宮内、某所。

「「「……式紙瓜坊、軌道!

 いけぇーっ!」」」


 どどどぉぉぉぉぉぉぉ……ん……。


「「「……やったぁー!」」」

「待て!

 まだ確実にしとめたものかどうか、確認して……」

「「「……きゃあぁっ!」」」

「だから、不用意に近寄るなと……。

 くっ!

 いいからさっさと、後ろにさがれ!

 わらわは前に出る!

 以降は遠投武器で対処せよ!

 わらわを攻撃するなよ!」


……ぉぉぉぉぉぉ……。


「白骨兵士……よりによって、こんなときにリビングデッド系か……。

 片端から関節部分を粉砕し、動きを取れなくするより他、なさそうだの。

 こうなると、打撃力のなさが恨めしい……。

 ……いやぁぁぁぁっ!」

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