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88.ぴすぞくのちしきと、いぞくのこうかん。

「それは彼らが腕輪にはめた文字盤とかの個人が携帯する末端機械でも読むことができるのですが、最終的には紙に書いて保存した方がよい、ということになりまして……そのための紙を、当面はギルドから買い取りたいとの意向もいただきました」

「それはいいですが……いくつもの図書館がすっぽり入るだけの知識をすべて書き出すとなると……紙の手配の方が、間に合うかどうか……」

「これについては、あくまで長期的なはなしになりますね。

 一度にすべての情報を書き出すわけではなく、優先順位の高い順に、翻訳しつつ書き出していくわけですから、さほど心配はないかと。

 それに、例の立ち上がったばかりの製紙工場のネットワークは、まだまだ生産可能な上限量に余裕があります。

 あまり心配はいらないかと思います」

「それでは、紙の手配については引き続きフェリスさんに一任します」

「その他にもピス族は、金属、木材などの各種資材原材料、化石燃料などの実物と産地についての情報などを帝国に要求しています。帝国としてはピス族の情報を高く買っていますので、今後の交渉の焦点になるかと……」

「資材や原材料はともかく……化石燃料、ですか?

 彼らはなぜ泥炭などを欲しているのでしょう?」

「泥炭ではなく……地中や海底に埋まっている油があって、それを精製したもので彼らの機械の多くは動いているそうです。

 彼らの帝国がほぼ世界中を敵に回して長い戦争に突入しなければならなかったのも、その資源を求めてのことだとか……」

「油……ですか?

 魚脂や菜種油では代用できないんでしょうか?」

「さあ? どうなんでしょうね。

 代用といえば……きぼりんさんから、迷宮内の魔力を電力その他のエネルギーに変換して、しばらくは彼らの機械を動かしてはどうかとの提案がありました」

「……そんなことが、可能なのですか?」

「どうやら、可能であるらしいです。

 電力は、変圧とか多少の余分な仮定が必要となるそうですが、魔法で発生させたものをそのまま利用できるそうです。

 彼らの機械は、電力で動くものも多いとか。

 彼らもこの提案は前向きに受け止めたようで、魔法という彼らにとっては未知の知識体系への興味もあるようで、きぼりんさんはさっそくピス族との共同作業に向けて十体の予備ボディを召還、昨夜からピス族の居留地に詰めていろいろ動きはじめているそうです」

「もう?

 言葉は、大丈夫なんでしょうか?」

「きぼりんさんが複数のボディ間で情報を即時共有する方法と、彼らの機械が各種情報を蓄えて共有する方法は、魔法と機械という違いはあるものの、根本的な原理としてはかなり似通っているようで……お互いの知識を参照しながら猛スピードで翻訳プロトコルの構築をしているそうで……」

「フェリスさん。

 それ、意味が分かっていていってます?」

「ほとんど受け売りで、半分くらいしか理解できていません。

 ようは、お互いの言葉を学びあいながら、きぼりんさんたちが彼らのために魔法を利用するための準備を開始した、ということですね。

 ピス族は帝国との取引以外にも、地の民の金属加工技術にも興味を示しました。

 機械の予備部品や消耗品などを地の民に作ってもらえるのではないか、という期待込みの興味です。

 たとえば、これを見てください」

「なんですか、これは?

 金属でできていることは、わかるのですが?」

「銃弾、というのだそうです。

 彼らの個人用メインウエポンは、これを高速で打ち出すための機関銃だそうです。

 原理的にはいたって単純で、その銃弾についている円筒状の部分、薬莢というのだそうですが、そこに入っている炸薬を金属製の円柱の中で爆発させ、弾頭部分を撃ち出して標的を破砕する、というもので……」

「なるほど。

 大砲を小型化して、個人でも持ち運びできるようにしたわけですか」

「ええ。

 しかも、連発式です。

 その銃弾くらいは、こちらの世界の技術でも十分製造可能なのではないか……と、彼らは期待しているわけです」

「さほど複雑な構造でもなさそうだし、金属の部分くらいは地の民なら簡単に作れてしまいそうですが……炸薬の方も、わたしたちのものよりもかなり進歩しているのでしょ?」

「そうです。

 炸薬についても……可能な限り、向こうで製造していたものに近いものを再現したいそうです」

「その製法なんかも、売るわけですか。

 なるほど。

 帝国が多大な関心を抱くわけですね」

「その帝国側から、異族関連で打診されていることがあります。

 正式な提案は、のちほどあると思いますが……」

「打診、ですか?」

「ええ。

 迷宮内で発見された知的種族はこれで三つ目。

 特に今回発見されたピス族の知識は、今後、大陸の姿を大きく塗り替えるだけのインパクトがあります。

 そこをふまえて……迷宮の中に、各異族と取引を行うための窓口を、設置してはどうかと」

「帝国の公館みたいなものでしょうか?

 異族の人たちも、今後、帝国以外の相手と直接交渉する機会が増えれば……確かに、窓口は必要になるでしょうね。

 これからも、迷宮の中で知的種族が発見されるのでしょうし……。

 そうですね。

 各異族ごとの公式な窓口となる施設は、早速手配しましょう。

 幸い、最近になって大きめの部屋がいくつも発見されていますので、候補地にことかきません。用途が用途ですから、賃貸料も格安に……いえ、無料でも構いません。とにかく、さっさと作ってしまいましょう。

 フェリスさん、候補地の選定と内装の手配、各異族との交渉をさっそく開始してください。

 同時に、ギルドでも各異族の選任担当者を数名づつ配置し、今後に備えた方がいいですね。

 いつまでも帝国やきぼりんさん頼みではいけません。それでは、ギルドの取り分が目減りします。

 それから、各異族との直接取引を望んで迷宮に来るお客様に備えて、迷宮全体の設備やレイアウトの見直し……。

 まったく、お仕事というのは、際限なく増えていくものですねえ……」


 帝国公館。

「さて、みなさまもすでにご存じの通り、今回迷宮内で発見されたピス族は、知的種族といってもかなり特殊な例になるようです。

 彼らの特異性は、推定で数百年分、われらの先をいっている、という一事につきます。彼らから見たらわれわれなど、野蛮人にしか見えないのかも知れません。

 野蛮人であるわれわれとしては、せいぜい礼節を尽くして公正なる取引をおこない、取引に関わるすべての人に利益をもたらす幸福な交易を支援していきましょう。

 とはいえ、数百年分の叡智が目前にある今、それが差し出されるまで、漫然と口を開けて待っているのも芸がないはなしです。

 まず、帝国大学に、彼らの知識を翻訳し、解析するために必要な人員を手配し、送ってくるように通達してください。特に、科学技術関連の学部にお願いします。こんな特殊な例は滅多にありません。彼らも学問の徒、通達さえすればおっとり刀で駆けつけてくるはずです。

 放置しておいても、遠からずこの地は、先進技術の聖地となることでしょう。

 折衝官本省へは、帝都と公館を直結する転移魔法陣の設置、選任魔法使いの派遣、大幅な増員を要請、今後に備えるよう連絡を。

 あの迷宮は……想像以上に多くのものを、大陸と帝国にもたらしてくれそうです」

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