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87.そろ、さいかい。

「……暑い……重い……

 はっ!

 ……。

 …………。

 ………………。

 なに、これ。

 ……ひどいピンク色をした夢をみてめざめたら、現実はもっとピンク色であった件……。

 どうしてこんな状況になっているのか……誰か、説明して……。

 左右に、魔女とリンナさん、上に、ティリ様……。

 逃げ場がない。

 それ以前に、身動きができない……。

 ……。

 ひどく浅ましい夢、みてたんだけど……おれ、夢精とか、してないよな? 今の状況で寝ている間に暴発したりとかしたら、かなり悲惨だぞ。

 身動きできない、確認のしようがないけど……。

 股間にへんな感触もないし……大丈夫だとは思うのだけど……」

「大丈夫であるのか?」

「うわっ!」

「し。大声をたてるな、シナク。

 みなが起きるであろう」

「リンナさん、起きてたんですか?」

「おぬしがぶつくさ独り言をいいはじめるから、目がさめた」

「それより、この状況……」

「ああ、ガールズトークの結果こうなったまでのこと。

 おぬしの貞操は無事なままであるから、気にするな」

「気にしますよ!

 それに貞操って、普通男女の立場が逆じゃないですか?」

「ヘタレ童貞がなにをいうか」

「……うっ」

「こんだけあかるさまに好意を寄せられておいて態度をはっきりしないおぬしが一番悪い」

「……ううっ」

「今さらおぬしの人格的欠陥を責めても詮無きこと。

 それよりも……大丈夫なのか?」

「……なにが、ですか?」

「暴発とかしてないか? しかかってないのか?

 この魔女も、体だけをみればこれでなかなか見事な肢体の持ち主。

 そんなのに夜毎絡みつかれて……おぬし、よく我慢しておるな。できておるな」

「……やけに絡みますねえ、リンナさん」

「昨夜は不完全燃焼だったのでな。鬱屈も溜まろうというものさ。

 それよりも……毎晩こんな目にあっているのに平然としているおぬしを、拙者はかなりいぶかしがっておる。

 若い男として……よく耐えてきたな。

 おぬしの場合、気散じに精を放つ機会とてなかろうし」

「ちょ……そんな、直截的な……」

「こうして裸で抱き合っておって、今さら直截的もなかろうよ。

 おぬしの指先にも、拙者のが触れておるはずだが……」

「……リ、リンナさん」

「どうだ……シナク……。

 拙者は……そこまで魅力がないか……」

「そこまでじゃ、魔法剣士よ」

「……起きましたか、ティリ様」

「耳元でごしょごしょ不穏な会話をされれば、いやでも目をさますわ。

 それよりも、魔法剣士よ。

 抜け駆けは、なしにしてもらおう」

「……ふぅ。

 はい、二人とも、そこまで!」

「わっ!」

「きゃっ!」

「目がさめたんなら、さっさと服を着て朝の身支度。

 今日も、しっかりお仕事に励みましょーねー……」

「しまった……。

 ぐずぐずしているうちに、シナクがヘタレモードから冒険者モードに……」

「ああ。

 てきぱきと、服を着て……」


 ばたん。


「……部屋を、出て行ってしまった……」


「……ふぅ。

 こういうことがあると……この宿を引き払って、迷宮内の寝台を借りることも検討しなけりゃなあ……。

 流石に人目のある場所なら、昨夜みたいな暴挙にはでないだろうし……なにより、そろそろ身の危険を感じるし……」

「おやシナクさん、おはよう。

 昨夜はお盛んだったようだね」

「お盛んだったのは、おれ以外の人たちです。

 おれは一人でぐっすり寝ていましたよ」

「今朝の朝食は、やっぱり精のつくものの方がよかったかい?」

「いや、いつもの、普通の朝メシでお願いします」

「へんな遠慮をすることはないんだよ。

 シナクさんはかなり稼いでいる冒険者だっていうし、何人だって養える甲斐性があるんだから」

「いやだから、そういう関係ではなくて、ですね……」


 迷宮内、管制所。

「え?

 シナクさん、今日はおひとりで?」

「ええ。

 ちょっと、頭を冷やす必要もあるので……今日は、ひさびさにソロでいきます」

「……そうですか。

 シナクさんなら、滅多なことはないと思いますが……」

「これでもついこの間までずっとソロでやっていたんだ。心配はいらないでしょう。

 ま、以前にもまして、慎重を期していきますよ。

 じゃあ、今日はまず、この指示書から開始ということで。

 迷宮に入る前に、札を余分に買い込んでおくかな……」


 ギルド本部。

「王都からミスリル・プラチナ三本分の入金がギルド指定両替商に届いたとの報が入りました」

「昨日の義勇兵関連ですね。

 もう少しごねるかと思いましたが、予想よりも素直でしたね」

「王都組の渉外さん経由の情報によりますと、向こうでは塔の魔女の恐ろしさが派遣軍経由でいささか過剰に喧伝されているらしく……。

 昨夜の社交界も、手強い魔女の手下と果敢に戦って無事帰還した義勇兵の話題で持ちきりだったそうです」

「ものはいいようというか……それが、貴族流の体裁の取り繕い方というものですか。

 それで、こちらの義勇兵には、なにか目立った動きはありましたか?」

「小さな喧嘩や騒動がいくつかあった程度ですね

 どれも、義勇兵の方から手を出して反撃にあい、手痛い教訓を得て終わる形となっています。

 こういってはなんですが、チンピラが身の丈に合わない虚勢を張って火傷を負った程度のささやかな騒動ですので、そのひとつひとつをこちらに報告をする必要を感じません」

「彼らのほとんどは、昨夜、新人さん用の宿舎に宿泊したはずですが、問題はありませんでしたか?」

「環境に順応する派と過剰に反発する派、きれいに二つに割れたそうです」

「それで、過剰に反発する派が、小さな騒動を起こし続けているわけですか……」

「ええ。

 同じ立場の研修生たちを、使用人かなにかと勘違いしているようで……手痛い教訓を得ている者が続出中です」

「たとえ女子でも真っ先にカスカ教官の護身術を習っているわけですし、曲がりなりにもうちの研修を受けている人たちが遅れをとるとは思いませんし、基本、よほど悪質なものでない限り、ギルドは冒険者同士のトラブルには不干渉の方針です。

 今後もその方針を堅守しましょう」

「教訓を得た人たちは、他の研修生からは白い目でみられ、同じ義勇兵からも一段下にみられているようで、放置しておいてもすぐに王都に帰りそうな様子です」

「……きぼりんさんに、王都直通の転移陣を設置してもらってもいいかも知れませんね。

 彼らが、いつでも好きなときに帰れるように」

「次に新種族、ピス族との交渉の進捗状況ですが、過去の二例とは比較にならないほどの速度で進行しています。

 これは、彼らがこちらの世界に順応することに対して意欲的であること、それに、彼らは売り物になるものを潤沢に持っているため心理的な余裕があるのが原因ではないかと」

「彼らは……およそ千人ほどの漂流者であると聞きましたが……それほど、豊かなのですか?」

「彼らが持つ機械類も魅力ですが……レキハナ官吏をはじめとする帝国官僚との交渉の結果、判明したところによると、彼らの科学技術はこちらの水準より数百年以上進んでいる模様です。

 それだけの格差があれば、ちょいとした知識や工夫から生産性を向上することができます。

 つまりは情報がお金になるわけで……。

 帝国の人たちもそうした考えになじみがあるわけではなく、最初のうちは戸惑っていましたが、紡績、航海技術など、いくつか例を挙げて彼らがその場で具体的な先進知識を披露するにつれ、彼らが蓄積してきた知識の価値を高く評価するようになりました。

 彼らはいくつもの巨大な図書館がすっぽり入るほどの膨大な情報を機械の中に蓄えているそうす」

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