86.さんにんけんようだきまくら。
街路。
「なんで、二人してついてくるんですか?」
「別におぬしの後をつけておるわけではないぞ、シナクよ。
拙者、たまたまこちらの方角に用事があるだけのこと」
「わ、わらもじゃ!」
「……こっちの方角って……もう、町はずれじゃないですか……。
それじゃあ、今夜はこれで……」
商人宿、飼い葉桶亭。
ばたん。
「おや、シナクさん、おかえりなさい。
今夜はきれいなお連れさん二人をお持ち帰りで……」
「……なんで、二人してついてくるんですか?」
「だから、こっちの方にたまたま所用があるだけだ」
「……この宿屋で、おれに用があるわけじゃないって、いったい……」
「いいから、ほれ、シナクよ。
先に進んでくれぬと、拙者らも進めぬではないか……」
「お、おい……リンナさん……。
押さないで……」
がちゃっ。
「……とうとうおれの部屋までついてきたよ、この人たち……。
それでも、おれに用事じゃないんですね?」
「然り。
拙者が約束をしたのはだな……」
しゅん。
「……この全裸だ。
ほれ、全裸よ。
約定通り、酒を持参したぞ!」
「東方の酒はうまいぞー!」
「そうきたか……。
一人はすでにできあがっちゃっているし……」
「ふむ。
では、今夜はたっぷりと飲み明かそうではないか!」
「なに全裸で格好つけているんだ、おまえは……。
それ以前にだな、勝手に人の部屋で酒盛りの約束しているんじゃねーよ!
騒ぎたいんだったらな、魔法で自分の塔にでも転移して、そこで騒げ!
そんなら、誰にも迷惑がかからないから!」
「それでは、酒の肴に事欠くではないか」
「……酒の肴?」
「お前さん以外に誰がいる、抱き枕よ」
「……知らねーよ!。
ああ、もう寝る。
おれはさっさと寝るからな!
あとは勝手にやってくれ!」
どさっ。ばさっ。
「着替えもせずに寝台に入って布団をかぶったか……」
「女ばかりの空間で気後れしたのであろう。
なにしろあれは、ヘタレな童貞であるからな」
「……やっぱり、そうなのか?」
「十中八九、まず確実に」
「以前より、人づき合いを避ける傾向があるとは思っておったが……想像以上に不器用なやつよの」
「それよりも魔女様よ。
全裸になると、よりいっそう大きさと形が目につくな、それは。
……少々、手を触れてみてもよいか?」
「女同士だ。
別にへんな遠慮もいらんだろ……んっ。
へんな触り方をするな。
声が出てしまうではないか」
「……母上様の乳房もそれはもう見事なものであったが、魔女様のこれも負けず劣らず……」
「確かに、見ていて腹がたってくるな、これには」
「ふふん。
魔法剣士はともかく、わらわはまだまだ成長の可能性が残されておるからの。
親類もみな大きいから、将来が楽しみじゃ」
「ふっ。
胸はだな、大きさだけを比較するのが浅慮というもの。
第一、殿方の好みも一律ではなく、小さい方を喜ぶ者も、相当数、おる」
「つまり、魔法剣士はこれまでその小さい方を喜ぶ者に出会う機会に恵まれなかった、と」
「自慢ではないがな、これでもいいよる男は少なからずおったぞ。いいや、どこへいっても事欠かなかったといってもいい。
ただな、拙者の気に入る者が現れなかったというだけのはなしだ」
「まあ、そんなはなしは後回しだ。
東方の珍しい酒を飲ませてもらえると聞いて今夜の会合を決意したのだぞ、わたしは」
「ああ、そうであった。
これこれ。
清酒ショタ萌え。
郷里の酒どころで、年に数百本しか市場に出さぬという幻の逸品だ」
「わらわも飲んでみたがな。
これが甘露というものかと感嘆する極上の酒であった。
果実のような芳香を放つものをすっと一口吸いこむとふわっと口の中に独特の、くどさがまるでないさらりとした甘みが広がり……」
「どれどれ。
さっそく、いただくことにしよう。
しかし……ショタに萌えるのか……」
「ショタなる語の意味がわかるのか? 魔女よ。
昔っからそう呼んでいるので、蔵元でもとうに意味が分からなくなっている語だと聞く」
「わかるが……秘すれば花ということもある。
ここで開示することはかえって興ざめというのものだ」
「……そのようなものか?」
「そのようなものだ。
ん。
これは……東方の列島は、大陸とは水の質からして違うからな。こっちは硬水で、あっちは軟水だ。
いい水といい米、それにいい職人が手間をいとわず丹精を込めた、実にいい酒だ」
「で、あろう。
こちらにもいい酒は多いが、郷里のものもそれに負けず劣らず……」
「……こうか?」
「そうそう。
どうだ?
こいつは一度寝入ったら滅多なことでは目をさまさんからな……」
「ふむ。
確かに、しっとりとして吸いつくような感触が……」
「手で触るだけではなく、抱きついてみればさらに実感ができる」
「では、抱きついてみるかの。
おお!
確かに!」
「ほれ、帝国皇女よ。
ぼちぼち、交代だ」
「……ふむ。
しかたがないの」
「……ふふふ。
では……」
「あっ!
いきなり下を脱がすのはなしじゃ!」
「魔女は毎晩こうして抱きついているのであろう。
今さら、騒ぐことがあるか」
「……そういわれれば、そうじゃの」
「では、改めて……。
ふむ。
縮こまっていると、だいぶん、可愛いものだの」
「可愛いのには同意するが、そのように乱暴にこねくりまわすな。
シナクが目をさましたらなんとする」
「こう……抱きつけばいいのか?
おお……確かに、吸いつくような肌理の細かさ……。
確かに、これは癖になるやも……」
「も、もう終わりじゃ魔法剣士!
次は……」
「次は、わたしの番だな。
いいか、こいつはだな。
こうして……顔を抱いて胸に埋めてやると、とたんに……」
「あっ」
「大きくなったな。
これでも、起きぬのか?」
「起きぬな、この程度では。
で、さらに正面から全体に多い被さって、こう、密着すると……ふっ!」
「こ、こら。
どさぐさに紛れて腰を動かすな」
「こ、これはつまり……そこの部分は、密着しているのか?」
「密着しているな。
密着したまま、あからさまな自慰まではいかず、あくまで自然に動いてしまった……という程度のゆるやかさで動かしていると、この曖昧さが癖に……」
「交代じゃ! 交代じゃ魔女様よ!」
「……ふぅ。
ほっ。
さっそく、試してみたくなったか、皇女よ。
その手のことに興味津々な年頃ではあるしな」
「そ、そのようなわけでは……あ、あくまで後学のためにだな……」
「帝国皇女よ。
ぐずぐずしているのなら、順番を飛ばして拙者がやるが?」
「ま、待て!
今すぐ、跨がるから……ひっ!
なにか……シナクの部分が、湿っているような……」
「あっ。それはおそらく、わたしの分泌液だ。
害はないから、問題はない」
「そういう……ええい。
こうして……ひっ! ゆっくり動かす……。
……ほっ……んっ! んっ!」
「こ、こら、帝国皇女よ!
そんなに気をいれて動かしたら、シナクが目をさますではないか!
交代だ、交代!」
「……あっ?
ああ……交代……じゃな?
ふむ……」
「……こうして……はぁぁ……。
なんか……密着しているだけで……癒されるぅ……」
「なんか、年寄り臭いの、魔法剣士」
「そうであろう。そうであろう。
やっぱりそうして抱きつくのが一番しっくりくるのだな。昂揚はないかわりに、ゆったりとくつろげるし……」
「そうなのか? 魔女様よ」
「皇女ももう少し経験をつめばわかる。
瞬間的なたかぶりよりも、肌と体温を楽しんでるだけの方が安心できるし……なにより、どこまでも持続する」