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84.まねかれざるもの、らちがいのもの。

「招かれざる客、ねえ……。

 ま、わからないでもないが。

 ギルドにとっては、扱いが難しい義勇兵は、なにか口実ができさえすれば、すぐにでも追い返したい相手だってわけだな」

「そして、この一件で、義勇兵側もギルドが自分たちを必ずしも歓迎しないことをしってしまった、と……」

「あ。パラスさん」

「ルリーカちゃん、いらっしゃい。

 ご注文はなんにしましょう?」

「ガラム、生のまま、大ジョッキで」

「ごめんねー、ルリーカちゃん。

 酒場のお時間まで、もう少し間があるの」

「では、ホットミルク」

「はい。

 ホットミルク、ひとつー!

 義勇兵の人たちねー、昼間もここでいろいろあったのよー」

「昼間も、ねえ」

「噂は、小耳に挟んだ。

 王子と新しくきた義勇兵とが、軽く口論したとか」

「あの王子と?

 お偉い人同士、馬が合うかと思ったが、そうでもないんだな」

「王子はむしろ、貴族や特権階級を敵視しています」

「お、レニー。

 こっちに来てたのか」

「ええ、今着いたばかりです。

 義勇兵の件について急ぎ、お知らせ来たのですが……少々、出遅れたようですね」

「お帰り、レニーくん!

 いくらレニーくんでも、王宮の中とか社交界の動きまでタイムラグなしに知ることができるわけでなし、相手も転移魔法をかなり自由に使える立場だし、今回ばかりは出遅れてもしかたがないね!」

「そういってもらえると、いくらかでも気が楽になりますね」

「ま、出遅れたことについてはあんま気にするな、レニー。

 それより義勇兵について、なんか気をつけた方がいいことあったら、こっちにいるうちにいっておいてくれ」

「義勇兵といっても、ピンキリ……この迷宮に対するモチベーションも、能力的な面からみても人それぞれで、一概にこういうものだということはできません。

 共通することは、特に現在来ている人たちは、王子の書状を回し読みできる……つまり、王宮や社交界に出入りできる身分であることのみ。

 あ、あともう少し、共通していることがありました。

 軽はずみにこんな場所にまで来てしまうほどに軽挙で、即座に来れてしまうほどに暇を持て余している」

「お偉いさんの暇人が、興味本位で押し寄せてきた……ってわけか。

 はは。

 そりゃ、ギルドも追い返したくなるわな」

「より正確にいうのなら、押し寄せてくる、でしょうね。

 今日到着したのは、あくまで第一陣だと思ってください。

 迷宮とそれに挑む王子の噂は、王宮からより広い貴族社会へと、徐々に広がっているところです。社交界へは国外からの来賓も多数いらっしゃるので、そちらの方への波及効果もそのうち出てくるかも知れません」

「なんというか……いろいろ面倒臭そうな連中であるな」

「あなたがいわないでください、ティリ様」

「今日来た全身甲冑は、まだしもましな部類だったのかもな」

「……全身甲冑だって!」

「どうした? レニー。

 いきなり大声をあげたりして……」

「その甲冑の方の名は!」

「ええっと、なんていったっけ……王子とはなしているとき、遠くから聞いただけだったからなあ。

 あの人、結局おれたちは名乗っていなかったし……」

「カスクレイド卿、とか呼んでましたよ。

 王子様とか、義勇兵の人たち」

「……パメラさん、よく知ってますねえ」

「ええ。

 昼間口論してたっていうのが、王子様と義勇兵の人たちで、そのどちらにも荷担せずにあとで義勇兵の人たちを諭していたのが全身甲冑のカスクレイド卿。

 あんだけ大声で印象的に残るやりとりをしていれば、いやでも記憶に残ります」

「カスクレイド卿……よりによって、あの方が……」

「……おーい……。

 レニー……」

「珍しい。

 あのレニーが頭を抱えておる」

「あ、リンナさんはこれが初めてですか?

 おれは、王子の襲撃に失敗したとき、ちょうど今と同じようなレニーをみたことがありますが……」

「……王子の襲撃?」

「気のせいですよ、パメラさん。

 よりによっておれたちが、王子様の襲撃なんて考える訳ないじゃあないですか、はははは」

「……ふーん。

 なんだかわからないけど、聞き間違えってことにしておきます」

「はい。

 是非、そのようにお願いします」

「それよりも、拙者はレニーの反応が気になるのであるが……」

「はぁ。

 カスクレイド卿、王子様からみれば外戚……母方の従兄にあたります。当然、大貴族」

「王族とも血縁があるくらいだからの。

 それなりに権勢を誇る家柄であるのだろう」

「それだけではなく……うちの王国は、王子様が変人というか、あの性格ですから……」

「「「「「……あぁ……」」」」」

「国王が子宝に恵まれず、直系は王子様のみ。

 それで、一時は王位継承権をカスクレイド卿に……という意見も出るほどでした」

「あの全身甲冑も相応に変なところあったけど、あの王子様よりはかなりましな気がしましたしね」

「そうですかあ?

 昼間の騒ぎをみる限り、カスクレイド卿も素敵でしたけど、王子様もそれなりに格好よかったですよ。

 ……どちらも、変人ではあると思いますけど」

「そうなの? パメラさん」

「そうです。

 その他の義勇兵の人たちは、論外ですけど」

「パメラの評価はそれでよしとして、カスクレイド卿とやらのなにが問題なのだ、レニーよ」

「ええ、それなんですけどね、リンナさん。

 王家と縁続きで、王子よりも世間受けがいいカスクレイド卿が、なぜ、王位継承権を得られなかったかというと……彼は、徹頭徹尾、傍観者なんです。

 王子とは別の意味で無敵な特性を持って生まれたせいなのか、度を超えた怖いもの知らずでして……公然と王家や王政の批判を行うこと数えきれず、兄弟同然に育ったせいもあり、王子様を子分扱いしてはばからず、気にくわない者があれば相手の家柄や身分、職務に関わらずに私的制裁を加えて恬然としている。むろん、それが原因で何度となく蟄居や謹慎などの処分を受けているのですが、それで挙動が改まる様子はありません」

「つまり……どういう人なの?」

「今のはなしをわかりやすくまとめると、やりたい放題の暴れん坊、といったところかの。

 昼間あったおりには、多少空気が読めない風ではあったが、さほど無法な印象も受けなかったが……」

「たんなる無法者であるのなら、はなしは単純なんですけどね、ティリ様……。

 まず、カスクレイド卿はいたずらものです。

 いたずらに権威を振りかざす者の鼻は明かす。

 平然と城下町を歩いて通りかかった博徒と喧嘩する。

 強引に女性に迫った貴族を裸にして門前に吊す。

 法外な利率を取っていた金貸しを脅して無理矢理証文を焼かせる。

 そりゃあもう、ええ、好き放題してくれる方です。庶民には人気があるものの、やっていることはといえば半分くらいは法に触れる、それでいてやっている本人は悪びれるところがまるでない……そんな方です。

 たぶん、カスクレイド卿の中には独自の確固とした基準があり、カスクレイド卿は、国が定めた法でも世間体でもなく、その自身の中の基準に従って行動を決定しています。

 しかも、体力や筋力など、身体能力に特化した補正能力の持ち主。

 防御に特化した特殊能力を持つ王子を、手を出せない者と呼ぶのなら、こちらのカスクレイド卿はさしずめ、手のつけられない者ということになりますか……」

「確かにそのはなしを聞く限り、あの王子様とは別の意味で、あまりお近づきにはなりたくないタイプではあるの」

「遠目にみている分にはおもしろいという点も、王子と共通しているよな」

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