12.きんきゅうしょうしゅう いん ぎるどほんぶ。
「受付嬢に詳細を報告したら、ギルド本部に拉致られた件」
「拉致したんじゃありません!
ほかのおもだっった方々にも召集をかけていますから、しばらくそこで待っていてください!」
「……と、いわれたまま、かなり長いこと放置されている気がするんだが気のせいということにしておこうそうしよう」
「シナク」
「おう。ルリーカ、来たか」
「人型のモンスターと遭遇したと聞いた」
「そうそう。
ルリーカよりも小さなやつらだったが、何より人数がいてほぼ全員弓矢で武装していたからな。ソロじゃあ対応できないと思って、さっさと逃げてきた」
「逃げたのは問題ではない。
問題なのは、相手が人型で道具を使用していたということ」
「手強いのは認めるけどさあ、こっちもそこそこ腕がたつの、何人揃えていけば十分に対処できると思うぞ。
戦力的には……」
「勝ち負けとかそういう問題ではなくて、ですねえ……」
「やっほー。
シナクくん、ルリーカちゃん」
「おお。レニーとコニスも来たか」
「話しを元に戻しますと、ですね、シナクくん。
相手が人型である程度以上の知能を持った存在であるということになりますと、不用意に交戦すれば、大陸法に触れるおそれがあるわけです」
「大陸法? なにそれ、おいしいの?
……冗談だよ。
それくらいおれだって知っている。あまりにも縁遠いから、今の今まですっかり忘れていただけだよ。
そっかあ……。
人型で知能がある相手だと……異人、ということになって、単純にモンスター扱いもできないわけか……」
「ええ。
ご存じの通り、大陸法には、知能のある種族が一方的に奴隷化されたり絶滅されたりするのを防ぐための条文があるのですが……」
「それによると、未知の種族に遭遇した際は、はじめっから交戦的な態度で臨ますに、まずは交渉の場を設けなければならない、ということになっているんだよねー」
「そのための専門官吏も、養成されている」
「ましてや、今回の場合はギルドの調査業務を遂行している最中の出来事です。
双方に深刻な被害がでる前に引き返してきて、正解でした」
「ギルドのお仕事中だと、個人同士の喧嘩沙汰として処理できないからねー」
「ええ、ええ。
シナクさんが無事でいたことが一番ありがたいのですが……彼らと接触したのがもっと交戦的な冒険者の方だったら……とか思いますと、あまりぞっとしませんな。
その意味でも今回は幸運でした」
「ギルド長まで来た」
「それは来ますよ。ことがことなんですから。
ええ。みなさん。
事態はすでに把握していらっしゃるようですが、今回の件は、すでに詳細を帝国に報告いたしました。おっつけ、帝国から専門の教育を受けた官吏、折衝官が当地に派遣されてくることでしょう。
当ギルドといたしましては、以後、折衝官が到着するまでの間、該当人型との接触を極力避けるという方針を採用させていただきます」
「妥当な線ですね」
「それは、いいんだけど……。
そうか。この件、帝国預かりになるんだな。
帝国っていうのは、あれ、国よりも上の存在なんだよな?」
「理屈の上では、そうなりますね。
われわれ庶民では、直接税を納める相手である国までしか、普段、意識することはないと思いますが……」
「今の帝国も、その昔、西の方で羽振りがよかった遊牧民が何代かかけて諸国を併呑していった結果、できたものだって話しだしねー。
出自が出自だから交易に力を入れていて……未知の異族とかは、有力な商売相手候補なんだわ」
「相手が蛮族だった場合でも、未知の魔法や技術など、具体的な形を持たない商品を持っている可能性もある。
商売熱心な帝国は顧客候補を粗略に扱うことをよしとしない」
「そういうことで、シナクさん以外の方はもう帰っていただいて結構です。ほかの冒険者の方々には、ギルドが責任を持って同じ内容を通達します。
シナクさんには残っていただいて、その異族の方々について、もう少し詳細に……」
「おらぁ! シナク!」
「ひひひ、ひどい目にあったんだぞぉ!」
「家ほどもある三首の犬にはオモチャにされるは、ゴーレムには追い回されるは、ししし、死霊の群にもみくちゃにされるはぁ!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ええっと……どちらさんで?
おれ、ぼろきれ纏ったホームレスさんを知り合いに持った覚えがないんだけど……」
「……うーん」
「どした、レニーくん」
「この人たち……なんとなーく、見覚えがあるような気がするんですよねえー……。
ぼくも、ホームレスさんに知り合いはいないのですが……」
「おお。
そういわれてみると、どことなーく見覚えがあるような気がしてくるから不思議だ。
当然わたしも、ホームレスさんに知り合いはいないけどな!」
「ルリーカは、隻腕のガシュウに似たホームレスさんは知らない。メタボのブニョに似たホームレスさんは知らない。狡猾のメヌイに似たホームレスさんは知らない」
「「「知ってんじゃねーか!」」」
「え? なに?
こいつらあの三人なの?
元傭兵とかいってたあの三人なの?
服はぼろぼろだし、顔も体もどろどろに汚れてっから、まるで見分けがつかなねーな。
へー。
しばらく顔をみてないからどうしてたのかなー、とか思っていたところだよ。
で、お前ら、今までどこにいってたの?」
「とぼけるなぁ!」
「……ん?」
「おおお、お前のせいで、お前のせいでなぁああああっ!」
「おれたちは、おれたちは、よぉおおっ!」
「な、泣きはじめた。
なんだか知らないけど、三人そろってわんわん声をあげて泣きはじめたよ!」
ぽむ。
「わけは聞いてくれるな、シナクくん。
大の男がここまで取り乱しているんだ。
よっぽどのことがあったんだろう……」
「そ……そうなのか?」
「ええ。
ここはなにもいわず、なま暖かい目で見守ってさしあげるのが賢明な処置かと」
「レニーまで、そういう。
……そういうもんなん……なのかな?」
「自業自得因果応報。
より詳細な事情を詮索しても、彼らの墓穴を掘るだけの結果にしかならない。
ここでは見て見ぬ振りをしておくのが吉」
「そ、そうか。
ルリーカまでそういうんなら……だんだん、そうするのがいいような気がしてきた」
「で、では、シナクさん。
別室に移って、さっきの件のより詳しい報告を……」
「はいはい。
そうですね。ギルドに報告するまでが冒険者のお仕事です」
「わたしらは、お暇しようか」
「そうですね」
「これにてごめん」
「あの、ギルド長。
こちらの三人は……」
「しっ。
そのまま、そっとしておきなさい。
この部屋には、しばらく誰もいれないように……」
「は、はあ。
いえ、そうではなくて、ですね。
ギルドの中でいつまでも大声で騒がれると、非常に迷惑なんですけど……」
「ルリーカは、転移魔法を詠唱した」
しゅん。
「静かに……なりましたね」
「今度は、三ヶ月くらいかかる場所に飛ばした。
彼らがここに帰ってくる気があれば、のはなしだけど」
「ひょっとして……彼ら、ルリーカさんをすっごぉーく怒らせるようなこと、しでかしました?」