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82.だいさんしゅぞくのじじょう。

 迷宮内、羊蹄亭支店。

「……とまあ、こんなところかな?

 あと、言い残したことないっすよね、リンナさん、ティリ様」

「それで全部かと思われる」

「そもそも、ついさっきの出来事じゃからな。

 時間にしても短かったことであるし……」

「はい。

 では、この書類に三名様の署名をお願いします」

「はいはい。

 ……ふぅ。

 これでようやく、ギルドへの報告も終了。

 今日も、なんだかせわしなかったな……」

「はい、シナクさん。

 ホットミルク」

「あ。ありがとう。

 気が利くね、えーと、長女の……」

「パラスです」

「パラスさんね。

 マスターじゃなく、イオリアさん似てよかったね」

「よく言われます。

 リンナさんも、ティリ様も、おかわりをどうぞ。

 功労者に店のおごりということで」

「いいのかい?

 勝手にそんなことをして……」

「いいんですよ。

 当分、昼間の間はわたしが店長をやることになりましたから……」

「あ。そうなの?」

「パ……マスターが、酒場にでるのはどーしても許してくれなくて、そのかわり無理いって、昼間の間はわたしたち姉妹とバイトの人で仕切らせてもらうことにしました」

「そうなんだ。

 それで、やってけそうなの?

 かなりお客さん、入っているようだけど」

「わたしたち姉妹のうち誰かが厨房にいれば難しい注文も捌けますし、給仕はバイトさんにしてもらう形になりますね」

「ふーん。

 大丈夫そうなら、それでいいのかな?」

「大丈夫ですよ。

 わたしたちには、いざというときに頼れる人たちがいますから」

「そうだね。

 それは、とてもいいことだ」

「それに……ここにいると、いろいろな人たちのいろいろな面がみれて、面白いんですよ」

「だろうねえ。

 今日も、いろいろあっただろうし……」

「シナクさんたちの、今のおはなしも面白かったですけど……ほかにも、いろいろありました」

「そうかいそうかい」

「やあやあやあ、シナクくんたち、元気にやっておるかね!」

「おおう、コニス。

 新種族の方は、うまくいきそうか?」

「ぜんぜん、うまくいきそうだね!

 とりあえず、この前の大量発生の残りを彼らに全部あげることにしたよ!」

「リザードマン方面からとかはものいいがつかないのか? それ」

「あっちはあっちで、もう食べきれないほどのイナゴを持って行ってるからね!

 リザードマンといえば、彼らも暫定で冒険者登録を開始するそうだよ!

 それから、住居も今の場所ではなくて、鍾乳洞に移すそうだし……」

「リザードマン、力が強いってはなしだしな。

 鱗も固いし、冒険者には向いているか。

 それに……鍾乳洞だって?

 あの、ギルマンたちがいまだに調査してる、だだっ広いところか?」

「その鍾乳洞だよ!

 彼らリザードマンは、どうも水場の方が都合がいいらしいね!」

「そっかぁ……。

 ま、頼りなる冒険者が多くなってくれるのは、心強いかな」

「それから、今日シナクくんたちが発見してきた第三の種族、彼らの泣き声からピスとかピイス族と呼ばれることになりそうなんだけど、その人たちについてもいろいろと判明したよ!

 彼らの世界には魔法はなかったんだって! あったにしても、それは空想の中の概念で、実際に使用できる人はいなかったみたいだよ!」

「そこの部分は、地の民に似ているな」

「それで、魔法のかわりに発達したのが科学や技術。

 特に機械に関しては、こちらの世界より数百年以上進んだ技術を持っているといえるね!」

「機械?

 機械ってえと、あれか。

 細工物を組み合わせて、複雑な働きをするやつか?」

「そうなんだけど、そんなものじゃないんだね!

 彼らが腕輪にはめていた文字盤、おぼえているかね!

 あれ、時計と通信機、その他諸々の機能がぎっしり詰まった多機能機械だったんだよ!」

「ああ、そりゃあ……それが本当だとしたら、確かにこっちより数百年、進んでいるのかも知れないな」

「彼らが持っていた武器は、機関銃といって秒間に数十もの細かい金属片を打ち出す機械。これなんかは、大砲を小型化して連発式にしたもんだね! それから、一発で大きな都を蒸発させるくらいの爆弾なんかも持っているみたいだよ!」

「戦術級超大型攻撃魔法なみの破壊力ってわけか……。

 機械文明、ぱねぇなあ。

 そういや、彼ら、向こうの世界では戦争中だったってはなしだもんな。どうやら、世界中を敵にまわしてかなりの劣勢を強いられていたようだけど……」

「シナクくんたちが指揮官クラスのお偉方をまとめて吹っ飛ばしてくれたおかげで、ほっとしているようだったよ!

 よっぽど、抑圧的な軍隊だったんだね!」

「下っ端にとって抑圧的でない軍隊なんてないさ。

 おれ自身は直接軍隊に関わったことはないけど、軍隊にいた経験のあるやつのはなしを総合すると、それだけは確かみたいだ。

 でも、そんだけ強かったら、彼ら、おれたちのこと征服したりとかしたくならないのかな?」

「いざとなったらこっちには魔法もあるし、十分対抗できるんだけどね!

 それ以前に、彼らには食料も燃料も、その他の補給物資にも事欠いているありさまだし、なにより全体的に厭戦気分に取りつかれているようだったから、よけいな心配はしないようさそうなんだね!」

「なるほどなあ。

 彼らの帝国がどんだけ長く戦ってきたのかはしらないが、ずっと負け戦を強いられてきたようなら、確かにいろいろ、嫌気がさしてくるか……。

 こっちは少なくとも、当面の食料はあげます、そのあとは対等の取引をします、といっているわけで……負け戦のあとならなおさら、悪い話じゃない」

「彼らにしてみても、今回の接触は九死に一生を得たようなものだったみたいだね! なにせ、別の世界に島流しにされて、飢え死にする寸前だったそうだからね!」

「世界だか次元だかをどうこうできるだけの高度な機械文明なら、帝国にとってもうまみのある交易相手になるだろうし……手持ちの機械だって、うまくすればこちらの世界で燃料や補給物資の代わりになるものが見つけられるかも知れないし……」

「燃料や補給物資、その他のなんやかんやも、もちろん手を着けるようだけど、その前に翻訳機械を作りたいそうだよ!

 いつまでも、ドラゴンのコインときぼりんだけをあてにするのも効率がわるいし、語彙や文法を整理、収集して機械におぼえ込ませれば、だんだん精度の高い翻訳が自動的に出来るようになるそうだよ!」

「へえ。

 そんなことまでできるのか、機械文明」

「あの腕時計にどんどん会話を記憶させて、遠く離れた場所にある演算装置で解析をおこない、翻訳文を腕時計に送信してくる仕組みだっていっていたよ!

 例文や語彙を一定数以上蓄積できれば、どんな種族の言語も原理的には翻訳可能になるっていっていたね!

 すごいけど、これ、ようするにきぼりんがこれまでやってきたこととほとんど同じ仕組みなんだね!」

「……そうなの?」

「そうだよ!

 機械仕掛けか魔法仕掛けの違いはあるけど!」

「そっかぁ……。

 きぼりん、思ったよりもすごいやつだったんだなあ。

 じゃあ、その翻訳機械ってか翻訳機構が、彼らの最初の売り物になるわけか」

「このままいくと、そうなりそだね!

 それ以外にも、細々としたものがいろいろと売れそうだけどね!

 例えば、地の民の技術で彼らの機械を複製してみたり、あるいは、原理だけを学んで別の形で再現してみる……とかいう計画が、これまで出てきているよ!」

「ははは。

 地の民にとっても、やりがいがありそうな仕事だ。技術的には、数百年分も先行している種族だ。こっちも、学び甲斐がありそうだな」

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