81.だいさんの、ちてきしゅぞく。
迷宮内、某所。
……ちぃぃぃぃぃ……ん……。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……
「……また、弾幕型ですか?」
「そのようじゃな!
以前と同じやつかどうかまでは、判然とせぬが!」
「式紙胡蝶、起動!
欺け!」
「……しかし、三人が防御術式をそろえた後でよかった。
見通しが、効かないのは……」
「向こうで、煙を吐いておるらしい」
「敵の姿がみえぬので、対策がたてにくいのだが……とりあえず、音を頼りに反撃を試みてみるかの?」
「それよりも、式紙瓜坊、叩き込んで様子を見てみましょう」
「それもそうか。
式紙瓜坊、起動!
いけぇいっ!」
「ぴぎぃ!」
「さて……やつが無事爆発したら……一度、一斉に、反撃してみましょう」
「多少は、煙が晴れてくれるといいがの」
「わらわは、爆裂弾頭の矢でいいかの?」
「おれたちは、左右に、術式の横殴りで」
「ふむ。
音は、横一列であったからの」
どぉぉぉぉぉぉんっ!
「よし、今だ!
よっ!」
「はっ!」
「えいっ!」
ざぁぁぁぁぁっ!
どぉぉぉぉぉぉんっ!
ずしゃぁぁぁぁぁっ!
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「……ん?」
「どした、シナクよ」
「頭の中に、声が……」
「また、あのコインか?」
「の、可能性が……」
「なんといっている?」
「痛い痛い、とか……まあ、悲鳴ですね。
今のでだいぶ仲間を亡くして、完全に戦意を喪失しているようです。
どうします? 声をかけてみますか?」
「……そうするべきであろうな……」
「大陸法があるからの」
「んじゃあ、まあ……。
えー。
こちら、冒険者のシナク。
あなた方の攻撃を受けて、やむなく反撃を試みました。
あなた方は、これ以上の交戦をお望みか?」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「なんだって?」
「……今ので指揮官が全員、死んだらしい。
残った戦闘員の総意をまとめるから、少々、時間が欲しいと……」
「指揮官? 戦闘員?
それでは、やつらは軍隊なのか!」
「ああ……コインが誤訳していなければ、そうらしいですね……」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「われら偉大なる***……ここのところは、うまい音が当てはめられない……とにかく、どっかの大帝国の、索敵部隊だと称しています」
「大帝国、か……。
今、大陸に、うちのとは別の帝国があったかの?」
「別の時代の帝国、かも知れませんよ」
「別の世界の、かも知れんしの」
「こちらはギルド所属の冒険者、シナク。
ギルドとか冒険者、わかりますか?
国益によらず、自らの意志で迷宮を探索する者と、それを補佐する団体です。
そちらの部隊は、なにを目的としてこの迷宮に入ったのか?」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「なんというておる?」
「……向こうの帝国さん、四方八方にいくさを仕掛けて、挙げ句の果てに資源も人材も使い果たして、亡国の危機にあるそうです。
それで……次元? っていってましたけど、まあ、世界の壁を突き破って、逃げ場なり新しい資源なりを求めていたそうですが……」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「……その次元の壁を破る機械だか魔術だかも完全なものではなく、千名近くの人員が、ここに迷い込んだ状態で戻れなくなり、立ち往生していた……ところだそうです」
「千人、か……。
指揮官クラスは、全滅しておるのだな?
もう一度、確認せよ。
その後、大陸法にのっとって……」
「今、説明してみます。
こちらには、そちらの千名前後の部隊員をすべて受け入れることができる制度が存在する。
大陸法という、異種族間の貿易を促進するための法律だ。
著しく欠乏している物資があればいって欲しい。緊急避難的に、ここまで持ってくることが出来る。
しかし長期的には、取引をおこなうことを前提とした、対等な関係を築くことを希望している。
物資、技術、あるいは、労働。
なんでもいい。
そちらで提供できるものがあるのならば、こちらは相応の貨幣により応じることが出来るであろう。その貨幣はそちらのみなさんが好きに使うことが出来る……」
「真剣に聞き入っておるようだの」
「千人分の漂流者、その今後の身の振り方に関わることじゃ。
熱も入ろう」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「……とりあえず、食料が欠乏している。
交易うんぬんに関しては、これから全員で話し合って決めるつもりだが、このままこの場にいても将来がないことはわかりきっているから、おそらく受諾することになるであろう。
食性を確認する必要もあるから、数名、こちらに同行して、外の世界をみてみたいと……」
「落としどころとしては、妥当かの」
「では、同行させてかまわないですね?」
「かまわぬだろう。
ただ、武装は護身用のもの、必要最低限にするよう、いっておいてくれ」
「それは……いっておいた方が、いいですね。
……同行は、許可する。
しかし、武装は最低限の、護身用のもののみに制限してくれるとありがたい!」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「来ます。
五名、ついてくるそうです」
「五名か」
「おれたちが殺されれば、困るのはやつらだ。
用心するのはいいですが、用心しすぎないようにしましょう」
「で、あるな」
「シナクよ。
冒険者カードのコール機能を使って、管制に一報、入れておいた方がよくはないか?」
「そうですね。
ティリ様、お願いします」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ!」
「なんだって?」
「大帝国所属のナントカ……発音を再現することはできないけど、とにかく、名乗ってくれてます」
「こちらは、聞き分けられぬからの」
「おれは、シナク。
こちらは、リンナさん。
こっちは、ティリ様。
……っても、向こうも、わからないか……」
「ぴぃ! ぴぃ!」
「なんだって?」
「おれたちは、猿顔の種族だ……そうです」
「おぬしたちは鳥顔だ、といってやれ」
「あなたがたは、鳥に似た顔をしていますね」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! くけぇー!」
「違いない、猿顔に鳥顔といわれた……一応、受けているのかな?」
「ひょっとすると、最後の、くけぇー! は笑い声か」
「外には、蜥蜴顔や魚顔の種族もいますよ」
「ぴぃ! ぴぃ! ぴぃ! くけぇー!」
「ええ、本当本当。
外に出れば、会う機会もあると思いますが……」
迷宮内、管制所。
「……ということで、連れてきました。
レキハナ官吏、コイン、いります?」
「お貸しいただければ助かります、シナクさん」
「一応、大陸法の概略は伝えたつもりですが、とりあえず彼らは、食料がかなり欠乏してきているようです。
なにが食べられるのか確認して、援助物資を渡してからの方が交渉が円滑になるかと……。
あ。
これ、コインです」
「どうも、シナクさん。お預かりします。
第三の種族は、第二の種族発見からさほど間をおかず、しかも、まったくの未知の種族ですか……」
「それが迷宮ってものですよ、レキハナ官吏」
「みなさんは、普段、どのようなものを食しているのですか?
種、草、虫……ですか。
それでは、あのイナゴがまだかなり余っているはずですから、それを見てもらいましょうか。
すいません。
コニスさんを呼んでもらえますか? え?
もうこっちに向かってる?」
「……あとは、任せちゃってもいいかな?」
「いいのではないか?」
「やっぱり、三回目も、シナクさんが発見しましたね」
「どうも、そういう星回りの下にいるようだね、おれ」