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78.みえないてきとそのしょうたい。

 迷宮内某所。


 ザバッ! ザクッ! ズシュ! ズバッ! ザカァッ!


「迷宮とはよい所だなあ、ルテリャスリ!」

「そりゃ……暴れたいだけのカス兄ぃにとってはそうだんでしょうよ!」

「なんだ、ご機嫌斜めだな。

 ただ突っ立っているだけで、おぬしにも賞金の半分がいくというのに……はっ!」

「……ひぃっ!」


 GUOOOOO………。


「も、モンスターの口の中に、無理矢理押し込められれば……誰だって、機嫌が悪くなりますよぉ!」

「ほいっ!」


 ザシュッ!


「まあ、そういうな。

 おぬしの能力であれば、万が一にも傷つくことはない。

 モンスターの攻撃はかなり防げるし、それがしも攻撃に専念できる。

 実によい手だてではないかっ!」

「余の恐怖と戦慄を度外視すればね!」

「さて、この部屋とやらで、この通路は終わりかな? これより先は……ない、か。

 では、先ほどの転移陣まで引き返すことにしよう」

「だいたいですね、カス兄ぃは王族への敬意というものが……」

「王族というが、従兄弟同士でもあるしなあ。

 お互い兄弟同然に同じ王宮で育った身、公の場でならともかく、こんな場所でまで敬意となんのと建前を並べても得るところがないしなあ……」


 迷宮内某所。

「……シナクよ。

 攻撃されたことに、気づかなかった……だと?」

「ええ。

 どこに敵がいるのか、今もわかりません」

「式紙を使ってみるか。

 式紙子鹿! 探せ!」

「……近くをうろうろするだけですね……」

「気配が掴めぬ……ということであるな。

 こうしていても、仕方がない。

 軽くシナクの傷の手当てをしてから、先に進むことにしよう」

「臑に……小さな傷があるな。

 傷口は小さいが、意外に深い。

 貫通はしていないようじゃが……」

「麻痺符を使ってから、傷口の奥になにがあるのか、確認してみましょう。

 少々、気になりますし。

 蒸留酒も用意して……」

「符を貼った。

 どうだ? 感覚は?」

「……もう、なにも感じませんね。

 酒をかけてください」

「では……。

 出血は、少ないな。

 太い動脈は、破損しておらぬようだ」

「不幸中の幸いですね。

 では、この短剣で……」

「待て、シナクよ。

 そっちからでは角度的にやりにくかろう。

 その短剣を貸してみよ」

「それじゃあ、頼みます、リンナさん」

「帝国皇女は、周囲を警戒しておいてくれ」

「承知した」

「……ん……。

 思ったよりも、深いな……まだ痛くないか? シナクよ」

「ああ。

 片足の膝から下がすっかり感覚がありません」

「できるだけ、傷口を広げぬように注意はしてみるが……」

「あまり、お気になさらず。

 筋や腱を切らなければ、影響もあまりでないでしょう」

「だといいがな。

 シナクよ。

 指を酒ですすいでから、この部分を持っていてくれ。

 明かりが……小照灯!

 お。

 みえた。

 一番奥に、なにかの塊が……箸でもあれば、すぐに取れそうであるが……」

「はし?」

「郷里の食器よ。

 国では、二本の棒で食事をおこなう。

 仕方がない。

 シナクよ、もう少し、傷口を広げてもよいか?」

「任せます」

「では、拙者の小刀とこの短剣とで、挟んで取り出すことにしよう。

 痛くはないな、シナクよ。

 もう……少しだ。

 と……取れた」

「……これは?」

「羽虫……であるかの?

 見たことがない種類であるが……」

「どれどれ。

 ……こんな小さな虫が、厚い布地を突き破って、シナクの臑の肉をえぐり、奥深くまで食い込んだ、と……」

「それも、シナクにさえ気取られぬほど、高速度で……な。

 まったく、迷宮という場所は、油断がならないものじゃな」

「これ……一匹だったからよかったようなものの……何十とか何百って数が、一斉に飛んできたとしたら……」

「気づく間もなく、抗する術もなく……あっさりと、穴だらけになってロストしかねんな」

「実際には、防御術式で守られている部分には被害を受けないんでしょうけど……。

 帰ったら、臑当て、買おう。

 防御術式も、刻んで……」

「どれ、シナクよ。

 出血は大したことないが、念のため、傷口を縫っておこう。拙者もやったことはないが、手順書通りにやれば問題はなかろう。

 まだ、麻痺の符は効いておるな?」

「まだ感覚がありません。

 このままだとしばらくはまともに走れそうにありませんから、そのまま縫っちゃってください」

「心得た」


 迷宮内、羊蹄亭支店。

「「「「「……かんぱーい!」」」」」

「冒険者登録は、無事終了したな」

「終わってみると、あっけなかったね。

 もっと揉めるかと思ったけど……」

「いや、だって、王子だって登録できたんだろ?

 だったらおれたちだって、問題ないっしょ」

「そうなんだけどねー」

「しかし、迷宮と聞いて、もっと薄暗くじめじめした空間を想像していたが、意外に清潔で過ごしやすそうな場所だな、ここは」

「ただ、あの寝台とか簡易浴室とかは、ちょっとねーな。

 機能一点張りで、優雅さにかけるっていうか……」

「プライバシーもねーしな」

「そうはいうがな、あれでも庶民にとっては至れり尽くせりの施設であると思うぞ」

「おれたち、庶民じゃねーし」

「ちょっとおれ、案内されている最中に、気になること小耳に挟んだんだけど……」

「なになに?」

「なんでも、地の民ってのが迷宮内の土地借りて、工房兼店舗みたいなの、今度オープンするんだって。今、準備中だとか。

 ギルドの職員が、そんなことをはなしてた」

「おれは、教練所の教官が、王国軍に練兵所を貸すってはなしていたの聞いた。

 もちろん、迷宮内」

「ってことは……さ」

「ギルドを通せば、おれたちも部屋、借りれそうじゃね?

 幸い、軍資金はたっぷりあるし……」

「足りなくなりゃ、王都なり実家なりからいくらでも持ってこれるし……」

「ついでに家具や調度なんかも、王都から取り寄せな!」

「ちょっと!

 水回りとかどうすんのよ!」

「そんなの、下々の者に依頼してやらせりゃいいだろ!

 共同の浴室があるってことは、それを作って設置したやつがいるってことだ!

 そいつを探しだしてやらせりゃいい!」

「……それも、そうか……」

「だが、まずは……」

「ああ。

 迷宮の中の、まとまった広さの場所を借りなけりゃな。

 そういうのって、やっぱここのギルドに頼めばいいのかな?」

「そうなんじゃね?

 他に思いつかねーし……」

「例え違ってても、ギルドに一度相談にいけば、交渉先を教えてもらえるだろう」

「ですな」

「では、今の一杯を飲み終わったら、ギルドに交渉にいってみますか?」

「そーねー。

 あ。

 あと、何人か使用人も雇いたいねー」

「家事なんか、自分でやりたくないもんな」

「こっちって、魔法使いとかいんのかなー」

「いるんでねーの?

 だって、あちこちに転移陣あるし……」

「あ、そうか。

 じゃあ、王都とこの迷宮……いや、おれたちの部屋を結ぶ直通の転移陣、敷設してもらおう。

 往復が気楽になると、なにかと便利だろ?」

「王都から迷宮への直通転移陣も、手配しなけりゃな」

「あとは……内装とか間仕切りの手配も必要か……」

「その程度は、こちらで手配できるだろう」

「それよりも、まずは部屋の確保が先だな。

 でないと、図面も引けん」

「そんなこまごまとしたものも、できれば下の者に丸投げしたいし……。

 今の一杯が飲み終わったら、さっそくギルドに相談しにいこう」

「そうしよう」


 ギルド本部。

「今度は……義勇兵、ですか……」

「ええ。

 王都からやってきた偉い人の子弟が、迷宮内の土地を間借りしたいとか、好き勝手に言い放題な要求をしてきていますが……」

「フェリスさん!」

「はい!」

「一任します。

 ただし……料金や仲介料は、目一杯、ふっかけてください」

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