75.きょだいなひとがた。
……うぉぉぉぉぉぉん……。
「……やっぱり、ジャンアイントオークだった」
「予想通り、オークであるの」
「予想通りではないのは……六体もいることだな」
「こっちは三人だし、一度引き返して体制を立て直しますか?」
「それは、笑えない冗談だな、シナクよ」
「この三人であれば、恐れるまでもないと思うが」
「でも、全員、石の棍棒ってか、あそこまでいくと石柱持ってますし、足首なんかおれの体より太いし……」
「……はっ!」
「あっ!」
どかーん。
「もう怒らせてしまった。
後には引けぬぞ、シナク」
「……だーかーらー、ティリ様!
いきなり、爆裂弾頭で顔面一発なんてことは……」
「わらわは弓で援護するゆえ、二人は好きに暴れてくるだよい」
「式紙瓜坊、起動!
いけぇっ!」
「「「「「「ぷぎぃ!」」」」」」」
「リンナさんまで!」
「なに、はじまってしまたことは取り消しようがない。
ほれ!
あのオークをみてみよ。
爆裂弾頭が顔に直撃しても、さほどダメージになったようすもない。ずいぶんと頑丈に出来ておるのう」
「あの弾頭まともにくらって、軽く頭を振る程度の反応しかないのか……」
どん。どん。どん。どん。どん。どん。
「瓜坊は全部、石柱で防がれるし……これだから、半端に知能が高くて道具が使えるモンスターは……」
「ぐずぐずいっている場合ではなかろう!
やつらに囲まれる前に一体でも多く討伐してみせい!」
「あー、もう! しかたねーなー。
いくよ、いきますけどね!」
ひゅん。
「おお!
術式があるのに、あえて近接戦闘にも持ち込むか、シナクよ!」
「攪乱もかねてじゃな。
オークとオークの間を駆け抜けざま、一体の臑を切断した」
「それでは、バランスを崩したオークが隣のオークにもたれ掛かったところに……。
火葬槍!」
だがん。だがん。だがん。だがん。だがん。だがん……
……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……。
「……よっ!
はっ!」
「……やるではないか、シナクよ。
倒れ込んだところオークニ体、うち一体は首を落とし、もう一体は背後から心臓を一突き……」
「うかうかしておられんぞ、帝国皇女よ。
このままでは全部、シナクのやつに狩り尽くされてしまう!」
「ふふん。
……はっ!
やっ!」
……うぉぉぉぉぉぉん……。
「槍の術式で急所を突く場合、重量はあまり関係ないのでな。
かえってあのような大物の方が、狙いを定めやすいというものじゃ」
「喉笛を斬ったあとに、心臓一突き、か……。
拙者も……赤龍縁!」
「……いやあ、みんな無事でよかった」
「「シナクよ!」」
「はい?」
「「なぜ……ニ体以外のとどめを、自分でささなかった!」」
「たまたまですよ、たまたま。
どうせ賞金は三等分になるわけですし、誰がとどめをさしても同じじゃないですか」
「おぬしは途中からもっぱら手足の腱をねらい、オークどもの移動力や攻撃力を削ぐことに専念しておったが……それが出来るのであれば、最初のニ体にしていたように、いきなり急所を攻撃することも可能であったはず」
「ここは迷宮じゃぞ、シナクよ。
可能な場合は、常に最短の時間でモンスターを葬り不測の事態に備えよと、わらわは教練所で習ったのじゃが、なぜかおぬしはそうせなんだの」
「……おっ? おお?」
「どうにも、無理に勝ちを譲られたようでしっくりと来ぬ」
「同感じゃな。
わらわは、どうやらシナクに被保護者として扱われているらしい」
「……おいおい……どうして、そうなる……」
「「シナク!」」
「はいっ!」
「おぬしは先陣をきってことによればそのまま敵を平らげてしまうだけの実力を持ち合わせておる。
今後、拙者らに遠慮して全力を出しきらず終えようとするな」
「さよう。
わらわらとて無能ではない。それがもっとも理にかなった戦い方であるとするのなら、シナクを除いた二人が援護にまわることさえ厭わぬゆえ、今後は真っ先に動きそのまま全力をふるえ。
以後、ゆめゆめ力の出し惜しみはせぬように!」
「おぬしが他人に合わせようとするとかえってパーティ全体の総戦力が減じるということをよくおぼえておけ」
「魔法剣士、よいことをいった。
今の戦い方をみていると、たかがジャイアントオーク六体くらいでは、今のおぬしの敵ではなかったということだな。
口では慎重論を唱えつつ、実際に動いてみればあの様子じゃ。
以前のようにソロであっても、シナクはそのままあっさりと狩りを終えていたのではないか?」
「……あー。
わかりました! わかりましたから、もう、そのへんで勘弁してください!」
「「わかればよろしい。
以後、手を抜かぬように!」」
「……そんなことをいって、自分たちが楽をしようって魂胆でしょ?」
「「無論!」」
迷宮内、羊蹄亭。
「……ふぅ」
「あら、シナクさん、お疲れのご様子」
「ああ、ちょっと精神的に……。
えっと……マスターのところの娘さんの……」
「次女のターレン。
レンと呼んでください」
「ああ、レンさんね。
蜂蜜入りのカフェオレ、お願い」
「はい。
ハニーカフェオレ、ひとつ……。
今日は、他のパーティの人たちは?」
「今、軽く湯浴みと着替え中。
女性は、なにかと気を使うらしい。
おれも、女性に気を使わなくてはならないらしい」
「もっともらしいけど、当たり前のことしかいってないような……」
「そういや、今日から店員さん増えているね」
「おかげさまで、お客様も予想よりも多かったし、家族だけでは廻しきれないもので……。
あ。
お連れさん、来ましたよ」
「やあ、シナク。
今度はここの店員と仲良くなっているのか?」
「注文ついでにニ、三世間話をしていただけですが……」
「シナクの場合、無意識だからよけいに怖いの」
「ティリ様、人をそんなモンスターみたいにいわないでください」
「ところでシナクよ、管制の様子はどうであった?」
「今のところ、落ち着いているようですね。
リンナさんの式紙が効いているのか、追い返されたパーティもいないようだし……。
このまま、落ち着いてくれるといいんですけど……」
「それはどうかのう……。
しばらくは落ち着いたにせよ、すぐにまたモンスターの方が優勢になるような気もするし……」
「現に、先にわらわたちが遭遇したジャンアントオークの集団をしのげるパーティが、あといくつあるかといったら……」
「はい、シナクさん。
ハニーカフェオレ、お待ちどうさま」
「はい、どうも。
アイテムとかで攻撃力を増す他に、もっと戦い方を洗い直した方がいいのかなあ……」
「と、いうと?
例えば?」
「……んー……。
例えば、探索と戦闘をきっぱり分業する、とか……。
探索中に遭遇する程度のモンスターなら、今、稼働しているパーティで十分対応できているし……それに、きぼりんが何体も動けるようになっているから、転移魔法も以前よりかは気楽に使えるようになっている。
探索専門パーティには部屋とか大物モンスターがいそうな場所の手前で座標を記録して転移陣を敷設してもらい、すぐに引き返すようにする」
「それで、大きな戦闘は、戦闘専門のパーティに任せる、か……。
冒険者の安全性を考慮すると、そういう方法も一案である思うが……そうなると、パーティの管理をする管制所の負担が増えそうじゃの」
「それと、戦闘に特化してやっていけるだけのパーティが、現状でいくつかるのが問題であるな……」
「あと……機会の不均衡という不満も、冒険者の間から出てくるであろうな。
そのような分業をおこなうとなると、巨額な賞金は戦闘専門パーティがだいたいさらってしまう形になるから……」