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73.あらしのまえのしずけさ、かな?

「そういや、王国軍の偉い人は、なんか軍規にうるさいってはなしを聞いてたな。

 レニーから」

「か。

 軍規だけではなく、あれは堅物ゆえに扱いに困るタイプだな」

「そうなの?」

「とにかく、正論で押してくる。

 なまじ私心で動いていない分、奸臣佞臣のたぐいよりも、敵に回すと厄介きわまりない」

「敵に回すと、ねえ。

 果たして、敵になるのかなあ、あの王国軍。

 今のところ、静かなもんだけど」

「不気味なくらいにな。

 本格的に動き出すにはまだまだ準備が足りぬ、といったところだろう」


 王国軍、グリハム小隊詰め所。

「人の選定は終わった、場所は確保した。

 あとは……」

「誰が誰を指導するのか。

 具体的な班分けが残ってますよ。

 五百人以上を、われわれグリハム小隊総員二十名だけで面倒をみようっていうんです。

 小隊長にも、余分に担当してもらいますからね」

「おお、やってやろうじゃねーか。

 ただ……すぐに半数以上は脱落するんじゃねーかなあ。おれたちの訓練は、半端なく厳しいから……」

「軍隊、それもおれたちの小隊みたいな実戦主体の部隊は、冒険者さんたちのように呑気ではいられませんからね」

「ああ。

 おれたちの訓練が冒険者の教練に劣っている部分といえば、座学ぐらいだしな。

 いいか、お前ら!

 半分以上を脱落させてもよいというつもりでいけ!

 おれたちのいつもの訓練通りのメニューをやらせるんだ!

 まずは体ができていなくちゃ、どうしようもない!

 一月以内に一人一つのパーティを実戦に投入できるところまで仕上げるつもりでいけ!」


 王国軍、魔法兵詰め所。

「単刀直入に聞きます。

 あなた方が少人数で迷宮に入って、うまく生き残っていく自信はありますか?」

「い、一日や二日なら、なんとか……」

「パーティを組む、相手によります」

「何日か迷宮に入れば、コツを掴めると思いますが……」

「では、あなたがたがあのギルドに所属する魔法使いであったと仮定します。冒険者の数は多いが、魔法を使えるものは数えるほどしかいません。

 この前提において、あのギルドが現在やっている以上に効果的に戦力を増大する、ないしは保全する方法を、なにか思いつく人はいますか?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「では、次の質問。

 あなた方が冒険者としてあのギルドに加入したと仮定して、ギルド全体としては、どれくらい戦力が増大することになりますか?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「では、次の質問。

 王国軍が現状のまま、数にまかせてあの迷宮に入った場合、今のギルド以上の戦果があげられる可能性はどれほどありますか?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「その際、わずかに十余名を数えるのみのわれわれ魔法兵が、王国軍に貢献できる具体的な方法は?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「さて、困りましたね。

 それらの改善案をまとめることが出来れば、報告書にして司令部にも提出できるのですが……なにも案がでないとなると、まるでわれら魔法兵が無能者の集まりであるかのようではありませんか……。

 ここは……素直に認めてしまいませんか?

 作戦立案は上層部にかませ、火力のみを唯々諾々と提供してきたわれわれ魔法兵は……攻撃力こそあるものの、その実、自分の頭で考えることをずっと以前にやめてしまった愚者である、と……。

 そこから再出発しないと……われわれ魔法兵はこれからもずっと、誰にか使われるだけの駒であり続けることになります。

 これではまるで……われら魔法兵は、たまたま魔法が使える特異体質に生まれ、その事実に胡座をかいてきただけの生ける砲台ではないですか。

 たとえ高禄で召し抱えられていても、こんなていたらくでは……実質、上からやれといわれたことをやるだけの、道具にすぎない。

 このままでは、魔法使いの沽券なんてどこにもないと、自ら触れ回っているようなもんです。

 そうならないためにも……あの迷宮での魔法兵なりの戦い方を、少し本気で考えてみませんか?」


 迷宮内、羊蹄亭支店。

「……クエスト依頼?」

「ええ。

 魔法を使える人に、と。

 どうやら、書状をどこかに転送したいそうですが、その場所については依頼を受ける人にしか教えることができない、とか……。

 報酬は、口止め料込みで金貨一枚」

「あれが……依頼人?」

「ええ。

 ルリーカさんもすでにご存じかと思いますが……」

「知っている。

 修練所の、有名人」

「それでは、はなしが早いですね。

 口止めが必要な理由も、想像がつくだろうし……。

 それでこのクエスト、お受けしますか?」

「……受ける。

 依頼人、ここへ来る」

「おお。

 はなしはまとまったようであるな。まずは、重畳。

 これが転送してもらう書状で、転送してもらう場所の座標は……少し、そちの耳を貸してもらうぞ」

「……了解した」


 しゅん。


「送った」

「早いな。

 では、これが報酬の金貨だ。

 ところで幼い魔法使いよ、おぬしの名はなんと申すのか?」

「ルリーカ」

「そうか、ルリーカと申すのか。

 今後も世話になることもあろうからな。

 しかとおぼえておくぞ。

 ことによればこれも……」

「フラグはたたない」

「っく……そ、そうであるか。

 では、次の機会があればまた会おう、幼き魔法使いよ!」

「わはははははははははは。

 なんだ、ありゃあ」

「冒険者には、変わり者が多い」


 王国軍司令部。

「それで、ギルドの修練所に送った人たちの報告は……」

「はっ。

 続々と届いております。

 しかし、以前にグリハム小隊から報告された内容と重複する部分が多く、目新しい情報はほとんどありません」

「魔法兵たちは、あの後、なにか動きがありましたか?」

「特になにも。

 見学を終えて帰ってきた後、詰め所にこもってなにやらはなしこんでいる模様です」

「魔法兵の今後の動き方によっては、グリハム小隊に組み込んでしまうのもありですかね。

 基地建設の仕事を最優先してもらうつもりですはいますが……それが一段落してからなら……。

 これについては、もう少しよく考えて置きましょう。

 グリハムくんのことですから、案外、そのまま独力で戦える部隊……いや、パーティと呼ぶのでしたね。そのパーティを陸続と育てあげてしまうのかもしれませんし……。

 魔法兵の大火力はむしろこの地では、最後の砦に控えさせておく方が効果的ですかね。

 あ、それから、グリハムくんの部隊ですが、そろそろ事務処理に堪能な右筆が数名、欲しくなる頃合いなはずです。

 それとなく打診した上で、参謀の方から数名、手助けにいってあげてください」


 王国軍、将校用天幕。

「あれ?

 姉さん、もう起きて大丈夫なの?」

「ええ。

 いつまでも寝ついていられないわ。

 顔はまだ、こんな皺だらけだから、外に出て人前に出す勇気はないけど……」

「それでも、少しでも元気が出てきたようでよかった。

 何日ぶりだろうね、姉さんが寝台を離れたのは」

「そんなことより、今日は簡単な食事を作ってみたの。

 軍の官給品に少し手を加えただけだから、味は保証できないけど……」

「姉さんが料理だって!」

「料理というほど、手をかけてはいないけどね」

「あ……ああ。

 正直……姉さんがそんなことをするとは思わなかったので……」

「ひぃっ、どぉい。

 ほら、はやく席について」

「うん」

「それでテリス、今日は遅くまでなにをやっていたの?」

「ああ。

 迷宮の……冒険者ギルドの施設とか、戦いぶりを見学させてもらって……そのあと、魔法兵のみんなと反省会みたいなものを……。

 そんなことより姉さん!

 迷宮で、とんでもない人とあったよ!

 なんとあの軍を抜け出した王子様が、ギルドの新人向け冒険者修練所にいたんだ!」

「……………………ぶはっ!」

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