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10.まじょとそのだきまくらのぐだぐだなかいわ。

「……寒い寒ぃ……」

「あら、おかえりなさい。シナクさん。

 洗濯物、できてますよ」

「おばさん、いつもどうもねー。

 あと、体拭くお湯、あとで部屋に持ってきといて」

「はいよ。

 お湯は沸いているから、すぐに持って行くね」


「ふう」

「洗った服は、こっちに置いて……っと。

 虫除け、かなり盛大に使っちまったんで、残り少ないな。明日の朝にでもじいさんから買おう。あと、爬虫類除けも、それになりに効果あったから買い足しておくか……。

 矢は……まだあんまり消耗していないな。

 それよりも、発破と閃光弾補充しないと。あと、予備の投げナイフもいくらか増やしておくか。ここ最近、矢が刺さらないやつ、多すぎるんだよな。

 紙は……まだ大丈夫か。

 でも、ぼちぼち、雑貨屋にも寄らないとやばいかな……」

「シナクさん、悪いけど、開けてくれる?」

「あっ。

 はいはい。お湯ね」


 ばたん。


「はい、どうぞ」

「はい、どうも」

「桶と布は、いつも通り、部屋の前に置いてくれればいいから」

「はい。あとはいいです。

 おやすみなさい」

「はいよ。おやすみ」


 ばたん。


「これで、明日の準備はよし、と……」

「体、拭くかな」

「こうしてみると、塔のあれ、風呂とかシャワーは、かなり便利で快適だったよな。

 でも、ああいう便利なのに慣れすぎると、こっちでまともに暮らせなくなるからなあ……」


「ふう。

 桶と布を、部屋の外に出して……っと」


 ばたん。


「ふぁ……。

 あとは、寝るだけか。

 ああー……あの魔女の件はどうすっかなぁ……どうせ、あの人のことだから酒場でのやりとりも筒抜けなんだろ……ごふっ!」


「来たぞ」


「来たぞ……。

 じゃねぇ!

 おま……人がものおもいにふけっているところに、いきなり全裸で降って沸いてきやがって……。

 ごほっ。

 くそっ。今の、もろ腹にはいった……ん?

 どうした?

 ずいぶん、顔色が悪いようだが……」

「な……なんでもない。

 け、決して、朝方まであの娘と飲み比べして、二日酔いになったりしていないんだからねっ!」

「おま……ルリーカと飲み比べなんかしたんか?

 無謀な。

 あいつ、幼くみえるし実年齢もかなり幼いけど、うわばみもいいところだぞ」

「そ、そういうことは、先に行っておいて欲しかった」

「っていうか、あんた、偉大なる魔法使い様なんだろ? 二日酔いくらいぱっと直せないもんなのか?」

「なんとなく……自分で治療したら負けかな、と思って」

「意味のねー意地、張るなよ」

「うるさい。

 それよりも先ほどの酒場でのやりとりはすべて聞かせて貰ったぞ。途中で乱入しようとも思ったんだが、あのときはまだ吐くに忙しくて……」

「そのへんは詳しく説明しなくていい。むしろ、説明しないでください。お願いします」

「それで、だな。

 うむ。

 あの場にいた連中と、それに話題になっていた夫婦を塔の中に招待するという件だがな。

 別にかまわないぞ。

 仮にも、お前さんの知り合いなわけだし、みられて困るものがあるわけでもないし。

 べ、別に、塔の中の設備を誰かに自慢したいわけじゃあないんだからねっ!」

「さっきから気になっているんだが、なんで今日に限っていきなりどもったり感情的な口調になったりしているんだ?

 らしくないってぇか……」

「最近、若い娘の間でこういうのがこういうのがはやっているんじゃないのか?

 昨夜、あの娘からそう聞いたのだが。

 本心とは正反対のことをいって直後に撤回するツンデレの作法というのが……」

「少なくとも、おれは初耳だな。

 それ、いったいどこの流行だ?

 ルリーカに騙されたんじゃないのか? あいつもまた、時たま表情ひとつ変えずにへんな冗談をいうことがあるから……」

「な、なんとぉ!

 うっ……」

「は、吐くなよ!

 おれの上に馬乗りになったまま吐くんじゃないぞっ!」

「だ、大丈夫だ。問題ない。

 さっきまではかなりひどかったのだが、今ではかなりましになった……うぇっぷっ!」

「ぜんぜん大丈夫にみえねー!

 ってか、そんな状態なら帰れよ! 帰ってあの木製のメイドにでも看病してもらえよっ!」

「そ、そうはいうがな。

 なんだかんだで昨夜もお前さんと同衾してないし、二晩続けて一人寝ということになるとどうにも人肌が恋しくて……」

「……第三者が聞いたら絶対に誤解するような言い方をあえてするなよ……。

 あんた、不眠の魔女とかいう異名をとっているん人なんだろ?

 それくらい別に、気にしなくていいじゃないか……」

「確かにわたしほど高位の魔法使いになれば食事も睡眠も別段必要ともせず、自分の身体のひとつやふたつ軽く維持できるのだが……必要がないからまるっきりなくてもかまわない、というわけでもなくてな。

 食事だって別に栄養素を摂取するだけのものではなく、食材の味や匂い、それに、同席した人との会話やふれあいなどの滋味があってこそのものだ。わたしが不眠の異名をとるほど長年寸暇を惜しんで研究活動に勤しんできたという事実は事実として、単純に睡眠をとるだけならそこまで拘泥しないのだが、こうしておまえさんの体温を感じながら眠るとどうしたわけかとても安らかに眠れ、目覚めたときに頭がとてもすっきりしている。どうした加減か翌日の作業効率も当社費三十パーセント増しで……」

「ぐだぐだと難しいこといわれても理解できねーよ。

 こちとら、自慢じゃないが学はないんでな」

「まあ、わかりやすくいえば、お前さんは黙ってこうして抱き枕に徹していろ、ということだ。

 そうすればわたしは安眠できるし、お前さんが気にかけているわたしへの借りを多少なりとも返せる」

「へいへい。

 別に異論はありませんけどね。

 くれぐれも、ここで戻すのだけはやめてくださいよ」

「大丈夫だ。問題ない。

 他愛のないおしゃべりをしていたら、いつの間にかかなり気分がよくなった」

「そいつはようござんした。

 それでは、明かり消して寝ますからね。

 こっちは生身の人間で普通に寝なけりゃ身が持たないし、明日も朝が早いんですから……」

「うむ。

 そうだな。

 こっちも安心したせいか、眠気が……ふぁ……」

「はいはい。

 ランプ、消して……ほら、毛布もかけて。

 ただでさえ全裸なんですから、毛布くらいちゃんとかけないと風邪引きますよ。

 ……風邪、引けますよね?」

「引けますよね? とはどういういい方だ。

 これでも基本構造は人間のままでいじっていないから風邪も引けば腹も壊すし二日酔いにだってなる。肉を斬れば血だって出る。

 ただな、回復力を増強するための方法を、世間一般より詳細に心得ているだけのことだ」

「そうですか、そうですか。

 そんじゃあ、まあ……ふぁ……おやすみなさい」

「うむ。

 おやすみだ」

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