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62.むこうとこっちの、まほうつかい。

「王都の魔法使いから、訪問の約束を取りつけたいと伝言があったって?」

「そう。

 昼間、家の使用人から連絡があった」

「んで、リンナさんとおれにも立ち会って欲しい、と」

「どちらも魔力を体内に蓄積する体質」

「リンナさんはともかく、おれは……魔法について、はなすことなんかできないぞ?」

「向こうにはそんなことはわからない。

 シナクは黙って座っていればいい」

「員数あわせというわけか、ルリーカ。

 拙者は、別に構わぬぞ。

 その、テリスといったか、王国軍魔法兵の頭領だとかいう男は、確か、この国随一の名門、パスリリ家の嫡男だとかいうはなしだろう?

 拙者にしても、どんな男か、興味がないわけでもない」

「リンナさん、王都の魔法使いの名前とか、知っているのか?」

「ただの魔法使いなら、いちいち名前なぞおぼえてはおらん。

 ただ、パスリリ家といえば、他国にも聞こえる名門であるからなあ。

 同じ魔法を使うものとして、無関心でもいられんわ」

「……ふーん。

 そんだけの有名人が、わざわざ王国軍に編入されて、こっちに来ているってわけか……。

 その家の魔法使いは、姉と弟の双子の兄弟だと聞いているけど……」

「お。

 おぬしこそ、よく知っておるな、シナク」

「以前、レニーに聞いた」

「姉のことは知らない。

 書面によると、テリス単独での訪問と面会を望んでいる。

 日時は、夜であるのなら、いつでもいいとあった」

「で、ルリーカとしては、面談してもいいと思っているわけだ」

「そう。

 面談自体は、別に不都合があるとも思えない。

 しかし、裏があるかもしれないから、護衛は欲しい」

「それで、拙者とシナクか。

  確かに普通の魔法使いであれば、拙者はともかく、シナクの速度には対応できぬな」

「それと、きぼりんのうち、一体も、同席させる」

「きぼりんは……その存在自体が、魔法使いにとっては驚異であるな」

「詠唱がはじまるかどうかという瞬間に、もうバッサリ」

「お誂え向けに、シナクは体内に魔力がある。

 魔法を使えるものなら、実際に対面すれば、誰でもそれが実感できる」

「シナクが口を挟まないかぎり、ボロがでることもない」

「魔法使い同士の会話に、わざわざ口を挟む気ないけどな」

「問題は、なさそうだな」

「いいんじゃね?

 不都合がなければ、今夜にでも」

「そう。

 では、家にはそう伝える」

「……手紙?

 ここからルリーカの家までなら、歩いて帰った方が早いんじゃ……」

「転送する」


 しゅん。


「……なるほど」


 レスピル家門前。

「ここに来るの、二度目だな。

 最初の、ルリーカを送ってこの家まで来たときは確か、使用人だとかいう元気なじいさんがいきなりブロードソードで斬りつけてきて……おわっ!」


 がきんっ!


「これはこれは、シナク様!

 ご無沙汰しております。

 いつもいつもいつも!

 うちのお嬢様がお世話になっているようで!」

「いきなり他人に斬りつけながらいうセリフがそれか!

 あんた、以前にルリーカを送ってきたきたときも、まったく同じことをやっているだろう!」

「今は亡き先代様からルリーカお嬢様のことはくれぐれも頼むと仰せつかっておりますゆえ、この程度のことで根をあげる害虫もとい殿方との交際は控えさせていただきたく!」

「あー、もう!

 進歩のないじーさんだなぁ!

 ってか、せっかく預かったリンナさんの野太刀、最初に使ったのがこんなシュチュエーションかよっ!」

「じい。

 控えて」

「はっ!」


 ざっ!


「この二人は、お客様。

 くれぐれも、粗相のないように」

「はっ!」

「……ルリーカの前でだけは、殊勝なんだよな、この人……」

「リンナ様も、当家にいらっしゃるのは久しぶりになりますな。

 ごゆるりとご逗留なさってください」

「ふむ。

 世話になる」

「じい。

 王国の魔法使いから、返答は?」

「こちらに」

「あと、一時間くらいでこっちに来ると書いてある。

 その間、軽食と飲み物を用意して」

「ルリーカお嬢様。

 こちらに、ご用意しております。

 王国一の魔法使いが来るということで、最上級の菓子もご用意いたしました」


「そんで、ルリーカ。

 聞きそびれてたけど、その王国軍の魔法使いって、なんでわざわざルリーカの家にくるの?」

「これ」

「お札?」

「これのことを、聞きたいらしい」

「それって……魔法使いにとって、画期的な新技術とか使ってるのか?」

「使ってない。

 むしろ、使い古された、枯れた技術で構成されている」

「ただ……発想が、なあ。

 魔法使いにとって、魔法とは、自らの魔力を使用して発動させるのが普通のことだから……」

「周囲に濃厚な魔力がある迷宮のような環境は、普通ではない」

「ことに……魔力の供給源と術理とを、完全に分離させる発想は、並の魔法使いにはできん。

 仮に思いついても、実際にこうして結実させようとはすまい」

「そいつはまた……なんで?」

「プライドとか沽券とか、そんな問題だな。

 シナクからみれば馬鹿馬鹿しいのかもしれんが……自分の魔力に頼らず、外部の魔力で魔法を発動させることを、普通の魔法使いは恥じる傾向がある」

「シナクにもわかりやすくいうと……ズルしている、と思われる。

 使用できる魔力の大きさまでを含めて、その魔法使いの実力であるとされているから」

「なるほどなあ。

 魔法使いの実力……かあ。

 やつらにしてみりゃ、この札とかは……堂々とズルを決め込むための道具にみえるわけか……。

 まてよ?

 するってえと、これからくる王都の偉い魔法使いって、こんなものを作ってけしからんとか怒鳴り込んでくるのか?」

「文面から察するに……その逆だと思われる」

「逆?」

「どうやって、このようなアイテムを作るに至ったのか、その過程について教えて欲しいといってきている。

 かなり、丁寧な文面で……」

「なんか……レニーから聞いた印象と、だいぶ違う気がする……」

「ルリーカお嬢様。

 テリス・パスリリ様がいらっしゃいました」


「ルリーカ・レスピル様。

 お初にお目にかかります。

 王都より参りました、テリス・パスリリという魔法使いです」

「レスピル家当主、ルリーカ。

 この場に、知り合いの魔法使いらを同席させても構わないだろうか?」

「ここは、ルリーカ様のお屋敷です。

 ご存意のままに」

「では、紹介する。

 冒険者のシナク。

 同じく、冒険者のリンナ。

 ウッド・ゴーレムのきぼりん」

「ゴーレム……このサイズで、自力で動けるのですか?」

「おかげさまで会話も不自由なく可能でございますテリス・パスリリ様」

「なんと精妙な!

 まさか当地が、このような高度な技を伝えていようとは……」

「それは、テリス様の勘違い。

 当地の技だけではきぼりんのようなゴーレムは制作できない。

 このきぼりんは、ある高名な魔法使いから借り受けているだけ」

「……まさか!

 いや……ありえないわけでは、ないか……。

 なにしろ、彼女も……この付近に居を構えていることは、確かだ……。

 ルリーカ様。

 もし差し支えなければ、そのゴーレムの制作者のお名前を頂きたいのですが……」

「差し支えは、ない。

 このゴーレム、きぼりんの制作者は、塔の魔女。

 またの名を、不眠のタン」

「……ああ。

 やはり……得心いたしました、ルリーカ様。

 この土地の魔法使いは、不眠のタン様の薫陶を得ておられるのですね?」

「薫陶?

 それは、違う。

 あの魔女は、われらに必要以上の干渉を与えることを厭うている。彼女の目的と理想は、自然な状態の観測。

 彼女とわたしたちとの関係は……知り合い、ないしは友人。

 それ以上でも、それ以下でもない」

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