61.じつえんはんばい。
「最初に冒険者になったザルーザ、地の民の誉れなー。
勉強してやるなー」
「はいはいはい。
ガールズパーティも、シナクくんたちほどではないけど注目されているパーティだからね! 宣伝効果と、それにこの大楯、地の民の手による真鋼製だし、たとえボコボコになっていたとしても地金としての価値は十分にあるんだね!
下取りに出すのなら、かなりのお値段になるよ!」
「どうする、ザルーザちゃん?」
「買い換えるなー」
「では、これと、これと、これ。
サイズと性能を考えると、手持ちの商品の中でおすすめできるのはこの三つ。この中から選んでもらって、そのあと防御用の複合術式を……」
「あの、その複合術式って、わたしたちの防具にも刻めますか?」
「素材にもよるけど、だいたいの防具には刻めるよ!」
「それでは、ここにいる全員の防具に、お願いします」
「おお!
それでは、総額がかなりいくことになるし、団体様割引も加味して……こんなところで……」
「……どうする?」
「思ったよりも高いけど……」
「払えないこと、ないよね」
「ちょうど、鎧兜の買い換えを検討していたところだ。自分も、今の防具一式を下取りにだして、新しい物に買い換えよう。その上で、術式を刻んでいただく」
「ハシハズちゃん……いいの?」
「自分は、ザルーザちゃんと並んでこのパーティの前衛、防御の要だ。われら二人が崩れてしまったら、パーティ全体が崩壊する。
このようなときでも全力を尽くすのが、自分ら前衛の務めだ」
「ハシハズさんの防具も、みたところ手入れが行き届いているものだし、そのまま補修もせずに売りに出せる状態だね!
買い取り金額は、ざっとこんな見積もりで……代わりの防具はこの中から……」
「その、防具に刻む呪文とやらを、渡すなー」
「グーレルさん、その鏨とハンマー……」
「職人の心得なー。
簡単な工具は、持ち歩いているなー。
片っ端から、この場で刻んでやるなー。
手間賃は、そこの商人のいい値でいいなー」
「おお!
グーレルさん、助かりますよ!
術式は、こちら。
そっくりこのまま、防具のどこかに刻んでもらえば……」
「まかせろなー」
「では、先に注文があった、リンナさんとティリ様の分から……こちらの鉢金とサークレットになるね!
それと、リンナさんの脛当てには、こちらの敏捷性補正の術式も!」
「なんだ、なんだ」
「コニス、またなんか売ってるのか」
「……人が、集まってきた。
ぼちぼち、他の冒険者も引けてくる時間か……」
「防御術式のお披露目もかねた実演販売だね!
それも、地の民一の鍛冶師、グーレルさんの手によるものだよ!」
「「「「「なにぃ!」」」」」
「あれ、地の民の武器や防具、解禁になったのか!」
「おい!
おれ、前々から地の民の装備が欲しかったんだ!」
「はいはいはい!
見本品はここに置いておくから、興味がある人は自由に触っていってね!
予約も受けつけているよ!」
「おお!
今、地の民が使っている物よりは、よっぽど軽くて扱いやすそうだな!」
「きっと、おれたちみたいなヒト用に作ってあるんだ!」
「これなら、おれたちにも扱えそうだ!」
「おい、コニス!
防御術式ってなんだよ!」
「矢や弾丸、砲弾の軌道まで逸らす対飛翔体用の術式と、たいがいの魔法攻撃を無効化か緩和する対魔法攻撃用術式と、対毒性とか対呪術とか、その他諸々の防御術式が一体化したお得な複合セットだね!
それぞれの術式単体だけをばら売りもできるよ!」
「あっ!
それで、ぼっち王のパーティと、ガールズパーティかぁ……」
「砲台みたいなのと、弾幕を張るのに遭遇したってはなしだしな」
「今後のことを考えると……」
「ああ。
備えあれば、ってやつだ……」
「命あっての……だしな」
「正直、金は惜しいが……」
「背に腹は代えられんか……」
「このままいくと、魔法を使うモンスターなんかも、早晩、出てきそうだしな……」
「直接、魔法を使わなかったって、昨日の、火蜥蜴みたいなのも……」
「ほい、出来たなー」
「はいはいはい!
リンナさん、ティリ様、お待ちどう様までした!」
「おお。
どれ、今、小切手を切る。
ここの両替商で換金できるものでいいな?」
「いいっすよ、リンナさん!」
「しばし、待て。
わらわは、ギルドで賞金を受けだしてくる」
「はいな、ティリ様!」
「これなー!」
「自分は、これに」
「はい、ザルーザさんは大楯、ハシハズさんは防具一式、お買い上げー!
グーレルさん、術式、お願いします!」
「任せるなー」
「ハシハズさんは……この組み合わせに術式だと……うーん。
大負けに負けて、これでどーだぁ!」
「……予想よりも、だいぶん……」
「長いつきあいになりそうだからね!
かなり勉強させてもらったよ!」
「自分も、ギルドで賞金を引き出してきます」
「おい、コニス!
決めた! おれはこれを買うぞ! 複合術式ってのをつけてな!
予約ってのはどうするんだ!」
「はいはいはい!
いますぐにいくよ!」
「はは……。
商売繁盛。結構なことだ……」
「……なー……」
「ようやく一息、つきましたね。
コニスもグーレルさんも、お疲れ様です」
「これも、商売だからね!」
「いい品を手にして期待に顔を輝かせるなー。
これ、地の民も、ヒトも同じなー。
職人冥利に尽きるなー」
「では、そんなお二人に、こちらは店からの奢りということで」
「あ。
イオリスさん」
「人が大勢集まってくれたおかげでうちのお店の売り上げもよくなったし、そのお礼もかねて」
「途中からティリ様とかガールズパーティの連中が、今日の特殊モンスターについてみんなに説明しはじめちゃったしな……」
「冒険者同士が自然と情報を交換することは、悪いことではないでしょ?
聞く側も、明日はわが身と思って聞いているから、自然と熱が入っているわけだし……」
「その通りで」
「どうだ、ルリーカ。
その術式は?」
「自走早期警戒式紙、仔鹿。
猪突猛進自爆式紙、瓜坊。
標的分散幻惑式紙、胡蝶。
状況により使い分ければ、冒険者の危険性はかなり減少する」
「現在の迷宮の魔力濃度であれば、十分に使い物になるかと思うが」
「使える。
リンナ、ルリーカよりも攻撃魔法に長けている」
「拙者のはな、攻撃魔法に長けているというより、ルリーカよりもずっと思考が硬直しているというのだ。
特定の目的に特化しておる分、とっさの機転が効かん」
「なに、さっきリンナさんがいってた、新しい術式ってやつ?」
「そう。
ルリーカも、手直しする箇所が見つけられない。
見事」
「世辞はいい。
では、早速……コニス、ちょっといいか?」
「はいはいはい!
なんですか! リンナさん」
「新しい術式を作った。
それぞれ、早期警戒、攻撃補助、敵の攪乱を目的とした札用の術式だ。
ルリーカのお墨つきももらった。
試用してみて具合がよかったら、売り出すよう手配してもらえるか?」
「……うーん。
早速、印刷にまわして、何組かのパーティに声をかけて、使わせてみてから判断するね!」
「慎重だな。
だが、それくらいでちょうどいい。
これも冒険者が命を預けるアイテムの一種。
万が一、不具合があったとしたら大事だ」
「それから、リンナさん!
例の、みかけの質量を操作する術式、明日にでも売り出していいかな?」
「拙者はかまわぬが……今日、防御術式のお披露目をしたばかりで、冒険者の財布の紐は、かなり引き締まっておるぞ」
「あの術式は、ちょと使う人を選ぶからね!
一気にブレイクするより、じわじわと口コミで売れていくのが似合うと思うよ!
ゆっくり浸透していく方が、事故も少なくなるし!」
「そのようなものか。
ま、売るのはおぬしの専門だ、コニス。
子細、任せる」