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60.かぞくのしょうぞう。

「イオリス・カスデス、十七歳です」

「おいおい。

 十七歳はおれとお前がであったときの年齢で……」

「永遠の、十七歳です」

「……これがおれの女房で」

「でも、イオリスさん、お若いですよ。

 てっきりまだ二十代かと思ったし……」

「十七歳です」

「で、こっちの三人が右から順番に、パラス、ターレン、セリーネな。

 こっちの店にはこれからもちょくちょく顔を出すことになるから、よろしくな」

「「「よろしくお願いしまーす」」」

「こちらこそ、よろしく」

「子細、承った」

「うむ!

 よきにはからえ!」

「主人から、みなさんの噂はいつも聞いております」

「まあ、三人とも、何かと話題を提供する有名人ですからね」

「イオリスもこれで、若いときは冒険者だったからな。

 それも、おれなんかよりもずっと優秀だったし……」

「へえ。

 見かけによらず、ってやつかな。

 なんだって、冒険者、おやめになったんですか?」

「それはねえ、この子が出来たから!」

「ちょ、ママ!

 こんなところで!」

「パラスちゃん……なるほど」

「本人は、子育てが一段落したら冒険者に戻るつもりだったらしいけど……」

「この人が、立て続けに頑張るもんだから……」

「いや、その……男の子欲しい、って、お前もいってただろ!」

「それで、復帰を延び延びにしていたところに迷宮が出現しちゃって……」

「この迷宮は、他の冒険者の仕事とはまるで違う。

 危険が、段違いだ」

「それで、うちの人の大反対にあっちゃってねー。

 実は、この子たちも、血は争えないっていうか、冒険者志望なんだけど……」

「「「パパに反対されてまーす!」」」

「まだ早いことは早いか。

 一番年上の、パラスちゃんだっけ? まだ十五になるかならないか、だろう?

 ルリーカにみたいなレアスキル持ちでもなければ、体力的にきついと思う。

 今みたいな状況だと、なおさらだ」

「えー。

 シナクさんまでそういいますかー。

 でも、研修中の人の中には、わたしたちよりもっと若い女の子たちも……」

「他に行き場がなくて仕方がなく冒険者になる人たちと、ちゃんとした家族がある君たちとでは条件が違うし。

 君たちだけのはなしではなく……おれだったら、他に選択肢がない人ならともかく、それ以外の人が冒険者になろうとしていたら、絶対に止める。

 冒険者なんてのは、なりたくてなるもんじゃないんだ」

「シナクは、わらわのときも反対しておったしの」

「「「……えー……」」」

「君たちはまだまだ若いんだし、焦る必要はないさ。

 もう何年か、この店で働きながら雰囲気を感じたり、お父さんとかお母さんから軽く稽古でもつけてもらってから考え直した方がいい。

 この迷宮は……あいにくと、すぐに完全攻略されるあてもない。

 あと何年かは、ここにあるだろう」

「ほらね、パラちゃん、ターちゃん、リーネちゃん。

 ママたちの、いったとおりでしょ。

 焦らなくても、時間をかけてじっくりと英才教育を施してあげますから、それが終わるまでは……」

「このイオリスさんも、微妙にずれている気がするな。

 あのー。

 わかってます? 今の迷宮の危なさを。

 マスターもなんかいってよ!」

「イオはな、昔っから言い出したらきかないんだ。

 しかも、現役の時から今に至るまで、おれより数段強い」

「よく口説けたな、マスター」

「そいつはまあ、情熱ってやつでカバーを……」

「家族で最強パーティを作るんだから!」

「「「ママー!」」」

「……ところで、シナク。

 まだ注文を受けてなかったな。なんにする?」

「ハニーカフェオレ」

「特濃の抹茶を」

「レスアゴス台地の葉があれば、それを」

「ほいよ」


「へー。

 迷宮の魔力を使ったお札、ですか。

 わたしが現役のときは、そんなのなかったけど……」

「こういうの使いはじめたのはごく最近ですよ。

 それにイオリスさんが現役のときはそもそも迷宮自体がなかったわけだし……」

「でも、こういうのさらさらーって書けちゃうリンナさんもすごいー。

 わたしが現役のとき、ここのギルドには魔法使いなんて二人しかいなかったし……」

「今でも、似たようなもんです。

 まともに魔法が使えるのはこちらのリンナさんとルリーカくらいなもんで……」

「あのルリーカちゃんがねー……血は争えないっていうか……」

「あ。

 前にギルドにいた二人の魔法使いって……」

「そ。

 ルリーカちゃんのご両親」

「考えてみれば、みんな、地元だもんな。

 昔からの知り合いであっても不思議でもないか」

「そう思うんなら、シナク。

 お前も所帯を持つことを、少しは真面目に考えろよ。

 いいぞう、家族は」

「そーよー。

 シナクさん、お仕事もしっかりなさっているんだから……。

 なんなら、うちの子たちでも……」

「うちの子はまだ早い!」

「……マスター。

 気持ちは分からないでもないけど、おれはその気がないし、マスターのとこの子たちはまだ若すぎるし……」

「そうはいっても、シナク。

 お前、ルリーカに手を出しているくらいだし、親としては心配に……」

「手なんて出してないし!」

「「「「「シナク教官!」」」」」

「……お?

 あー、ガールズパーティのやつらか。

 どうした?

 お前ら、今日はもうあがるのか?」

「それが……」

「逃げてきました!」

「……やばい敵に遭遇したか?」

「「「「「はい!」」」」」

「どんなやつだ?

 ギルドに報告は?」

「ギルドには報告済み」

「だだだだだー……って、すごい勢いでなにか小さくて硬くてものを吐き出して……」

「まるで近寄れないんです」

「ザルーザちゃんが大楯で防いでくれたおかげで、なんとか逃げられましたが……」

「その大楯も、この有様で……」

「……あうー」

「うわぁ……ぼっこぼこ。

 これ、地の民が作った最高級品だろ?

 ここまで重くて硬いのが、ここまでなるっては……相当なもんだ。

 お前ら、よく逃げ切ったな」

「弾幕を張ってくるタイプか、シナク?」

「そうみたいです、リンナさん」

「ならば……今日注文した術式の付加、コニスのやつを急かして、明日の朝までに受け取れるようにするか?」

「この分だと今後も、飛び道具を使う敵が増えそうですもんね」

「さっきの武器商人でいいのだな?

 まださっきの場所にいれば、わらわがひとっ走りいって伝えてくるが……」

「使いだてするようで申し訳ありません、ティリ様。

 できたら、コニスをここに連れてきてください。

 この子たちにも、防御術式が必要になってくるだろうし……」

「承った!」

「やはり……ギルドの売店だけではなくて、武器とか防具専用の店を迷宮の中に常設した方がいいな。

 おれたちにしてみれば、その方がずっと便利がよくて、小回りが利くようになる」

「なにからなにまですいません、シナク教官」

「いや、死なないためにも装備には金をケチらない方がいい。今後も、長く冒険者をするつもりならな。

 持ち合わせが足りないようだったら、おれが貸すし……」

「わたしたちも冒険者になってからかなりの日数がたっていますので、蓄えはそれなりになります。

 おそらく、足りるのではないかと……」

「そうか。

 あれからもう、三ヶ月くらいになるんだっけ。ここでそれだけ勤めあげれば、お前らももう中堅どころ冒険者だ。

 早いもんだよなあ」


 しゅん。


「はいはいはい!

 呼ばれてきましたんだね!」

「ふんがー」

「きぼりんに送ってもらったのか、転移してきたよ。

 グーレルさんまで一緒だし。

 ま、ちょうどいいともいえるか。

 お二人さん、この楯を見てくれ。こんだけのダメージを与える敵が普通に出てきて、おれたち冒険者はそれに備えなければならないわけだ。

 そこでまずはこの子たちにも……」

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