59.こにすのやぼう。
「コニス、おま……そういう重要なことは、もっと早くいえよ!
おれは今までもっと普通の防具だと思っていたぞ!」
「とはいっても、やはり、物理的にはそれなりの強度を持ってはいるんだけどね!
ただ、特にそれようの術式は施されてないってだけで!」
「本当だな!
本当なんだな!
信じるぞ、その言葉!」
「それより、シナクくん。
聞いたよ、トーチカ虫のこと!
シナクくん、至近距離からの砲弾さえ弾いたって?
しかも、三度も!」
「ああ、この防具のおかげでな。
同じことは二度とやりたくないけど。
いや……今だからいうけど、自分めがけて飛んでくる砲撃に向かって走る、なんてのは……実に、生きた心地がしないもんだぞ……」
「はっはっはっ!
ぼやきつつもなんとかしちゃうのが、いかにもシナクくんらしいね!」
「砲弾……。
三回……。
それも、魔法なー」
「そうだよ!
グーレルさん、興味あるでしょ?」
「あるなー。
決まってるなー」
「もちろん、必要な術式は提供するよ!
地の民はわたしにとってもお金のなる木みたいなものだからね!
製品の高品質化には全面的に協力するよ!
それで、これから、きぼりんと協力して、鍛冶仕事に魔法を使おうということだし……。
いっそのこと、新しい工房とお店をいくつか作って迷宮入り口と結び、大々的に売り出すっていうのはどうかね!
地の民だけではなく、ヒトの鍛冶師やその他の職人たちも誘致して、切磋琢磨な競争意識を刺激しつつ、そこにいけば一通りの装備やアイテムが揃うようにするんだね!
そろそろ、迷宮の中にそれなりの規模を持つ商業施設を作りたいと思っていたところなんだよね!」
「いきなり、はなしがでかくなってきたな……。
それ、ギルドの了解はもうとっているのか?」
「ギルドとしては、迷宮内の調査が済んだ地域に、大勢の人が出入りするようになるのはむしろ歓迎するようだよ!
今までは、迷宮のイメージ自体がよくないんで、冒険者や関係者以外の出入りはほとんどなかったようなんだけど……」
「ま、モンスターがぼこぼこ出てくるような場所だもんな。
最近は、売店が出来て以来、多少、人の出入りがでてきたり、研修生の宿舎が出来て、場所によっては住んでも問題ないことが証明されつつあるけど……。
でも、金とか……は、コニスの専門か。
今さら、おれなんかが心配する必要はないな」
「その通りだよ、シナクくん!
工房やら商店やらの初期費用は、出来るだけわたしとギルドでお世話せてもらって、長期的に、無理のない範囲で分割で返済してもらえばいいね!
高い技術を持つ鍛冶師や職人は、場所にせよ他の条件にせよ、優遇させてもらうし!
それで、どんどんよい製品を作ってもらって、どんどん大勢の人に来てもらって、迷宮をモンスターのものからヒトの、いいや、ヒトだけではなく、地の民やリザードマンやギルマンとか、その他の知的種族のための場所に書き換えていくんだね!」
「お前……そんなこと、考えていたのか……」
「お金があるところに人は集まり、人が集まる場所は豊かになっていくのだよ、シナクくん!
町の人たちだけではなく、町の外からも、迷宮を目当てにたくさんの人が訪れるようになったら……。
そうしたら、王国軍だって、滅多なことは出来なくなるんだね!」
「はは。
そりゃあ……合法的に、対外的にはそうと悟られない形で……人質を取るってことか……」
「まったくもって、その通りだよ!
今、迷宮から出た素材で作られた各種アイテムは、王国とはいわず、大陸中で引っ張りだこなのさ!
お偉い人たちは、一点物って言葉に弱いからね!
モンスターは滅多に同種のものが出てこないし、そのモンスターの皮、骨、殻、羽根などを一流の職人が加工したものには、とんでもない値段がつく!
今は、王国中に散らばった渉外さんたちに頑張ってもらっているけど、彼らが売りさばいた商品が社交界で話題になるにつれ、王国外からも注目を浴びるようになってきている!
この時期に見本市を常時この迷宮の中で開いてしまえば、大陸中から利に聡い商人が詰めかけてくる!
さらに時間がたてば、この迷宮そのものを観光にくる人たちだって現れるかもしれない!
お金なんかね、実際にそうなったとき、そういった人たちがいくらでも落としてくれるんだよ!
だから、さ。
シナクくんたち、冒険者にも、グーレルさんたち地の民のひとたちにも、まだまだ頑張ってもらわないと困るんだよね!
そのための援助は惜しまないつもりだよ!」
「…………だ、そうですよ、グーレルさん」
「……おほっ」
「おほ?」
「ほほほほほほほほほ。
この小娘、気に入ったなー。
若いのはなー。
それくらい、元気でなけりゃあいかんなー。
やるんなら、とことんやるなー。
地の民の鍛冶の技で、地上の富を吸い上げてやるなー。
おほほほほほほほほほ……」
「あははははははははは……」
「おお、受けてる受けてる。
なんか、ウマがあいそうね、この二人……」
「盛り上がっているところ悪いが、コニス、ちょっといいか?
買うものが決まったぞ」
「はいはいはい!
今、行きますよー!」
「シナクのものと同様の、防御用の複合術式は……」
「もちろん、刻ませていただきまーすっ!
リンナさんが、鎖帷子一点に、ミスリルの脛当て一点、手甲が一点」
「脛当てには、敏捷性プラス補正の術式を。
この鉢金にも、シナクの兜と同様の術式を」
「はいはーい。
鉢金の術式は、急ぎます?」
「なるべくな。
今、渡しておくか?」
「はいー。
お預かりしまーす。
お会計は、うーんとお勉強させていただいて……」
「……ふむ。
こんなものか。
あとで、手形での決済でもいいか?」
「いいっすよー。
この金額だと、現金ではかなり重くなりますからねー。
それでは、お次はティリ様!」
「わらわは働き出してまだ間もない。したがって、持ち合わせもまだ少ない。
だから、今回は、これだけだな。
やはり、シナクの兜と同じ術式を。
可能であろうな?」
「はいはい!
ミスリルのサークレット、術式の付加も可能でございます。
ティリ様はご身分がご身分ですし、はじめてのご利用ですので術式の手間費はサービスさせていただきます!」
「まことか!
で、あるなら、魔法剣士やシナクに金子を借りなくともよさそうだ!」
「お会計は……」
「うん!
ぎりぎり、今までの賞金で足りそうじゃの!
代金は品と引き替えでよいのか!」
「はいはーい!
術式を刻むのに時間がかかりますので、ティリ様もリンナさんも、明日の夕方以降にお持ちしまーす」
迷宮内、羊蹄亭支店。
「……ふう。
コニスはなんかグーレルさんと意気投合しちゃって、話し込んでいるし……。
あれ?
リンナさん、なに書いているんですか?」
「なに、今日のあれでな。
もう少し、索敵関係を強化する術式が作れないものかと思って……」
「あー、はいはい。
重要なお仕事だ、邪魔をしないでおこう」
「おお、シナク。
なんだ、今日はもう終わりか?」
「ああ、マスター。
夜からじゃあなかったんだ」
「こっちは開店したばかりでまだまだ、落ち着かないからな。
本店の仕込みもしなけりゃならないしで……」
「のう、シナクよ。
いい機会じゃ。
朝、わらわがもうした推測を……」
「ああ、そうだった。
マスター、今、カウンターにいる娘さんたち、いったいどこから連れてきたの?
急に連れてきたにしては、ずいぶん、お茶関係に詳しいようだったけど……」
「……ああんっ?
あっ。
そうか、シナクには、まだ紹介したことがなかったか……。
あれはな、おれの家族だ」
「……家族?」
「女房と娘たちだよ」