56.うごきだすまほうつかいたち。
王国軍野営地、某所。
「おい!
みてみろよ、これ!」
「ずいぶんと素朴な術式だな。
さすがは辺境、といったところか」
「これ……ほう、魔力は外部から吸い取る仕様なのか……」
「はっ!
このようなオモチャ、まともな魔法使いなら作ろうとも思わぬわ!」
「まさしく。
おのれの魔力を使用してこと、正道の魔法使い!
第一、あの迷宮とかいう特殊な環境でしか作動しないアイテムなぞ……」
「これが……迷宮の中で売られていたのですか?」
「あ、これは……」
「ギルドが経営する売店が迷宮内であり、そこで入手いたしました」
「……これは……」
「いかがなされました、頭領」
「ずいぶんと……シンプルな……いや、むしろ、よくぞここまで圧縮してというべきでしょうか……とにかく、一切の無駄が廃されている。
いや、術式そのものよりも、魔力源と魔力を駆動させる術式とを思い切りよく分離する発想にこそ……確かに、完全に環境依存ではあるけど……魔法使いではない、魔法の知識がまるでない者、誰もが簡単に魔法を使えるようにする方策としては、これ以上のものは……これを考案した者は、魔法をたかが道具と割り切っているとしか……」
「……いかがなされた?」
「この地には……確か、古くから続く魔法使いの一門が、根づいておりましたね。
誰か、その家に使いをやって、パスリリ家の者が面会を求めている旨、伝えてください」
「まさか、王都一の名門、パスリリ家が、わざわざ!」
「さよう。
所用があるのなら、呼びつけてやればいいのです!」
「教えを乞いにいくのです。
先方の都合を確認し、こちらから足を運ぶのが筋でしょう。
誰も動きたくないというのであれば、他の者に頼みます」
?????
「……迷宮の各所に、魔力を吸収する術式はしかけ終えた。
途中で意識を失ってしまったのは、計算外だったが……。
ええい。
体力は、もうしばらくすれば自然と回復する。それまでの辛抱だ。今は、下拵えに注力することにしよう。
しかし、あのパーティ。
三人中、二名が魔力持ちであったが……冒険者とは、魔力持ちが多いものなのか。それとも、あのパーティがたまたまそうであっただけなのか。
あと、は……魔力を貯蔵するための媒体となるものが……それも、膨大な魔力を……それだけの許容量を持つものを……。
やはり、モンスターになるか。
それも、強大なものであるほど、都合がよい。何体でも何十体でも何百体でも! 調伏し、使役できるようにする必要がある。
その後で……すべてを、食らう。わがものとする。
そう、もう少し、復調したら……理由をつけて、迷宮に入り……やはり、冒険者になるのが一番都合がよく、あやしまれない、か……。
あとは、口実……王国軍に属する魔法兵が、他の魔法兵からしばらく離れ、単独行動できる口実、といえば……。
ああ。
あの王子が、いたではないか……」
ギルド本部。
「いよいよ、地の民との交易が公式に開始されるわけですか? リリス博士」
「ええ。
思いのほか、細かな交渉が長引きましたが……これで彼らも法的には、正式に帝国傘下の従属国と同じ扱いとなります。各国の関税を通しての交易や外交の自由が認められ、帝国が治安を維持している大陸中の主幹交通路も、無償で使用できます。
それにあたって、こちらのギルドにお願いがあるのですが……」
「お願い、ですか?」
「ここから先は、こちらのグーレル様からお聞きください」
「わし、ガーレル。貴族で戦士。それ以上に鍛冶師。集落で、一番の鍛冶師。
地の民、魔法使えない。迷宮、魔法使える。誰でも。
地の民、特に鍛冶師、魔法欲しい。特に、鍛冶に使えるような鍛冶が欲しい。
札とか剣に使っていたような、誰もが使える魔法、鍛冶に使えるが欲しい。
地の民の鍛冶、地上の鍛冶より勝っている。
魔法使えたら、もっともっと優れた物、作れる。それ売って、みんなで山分けウハウハ。どんな難しい注文でも受けられる。
ただし、ふんだんに使える火力があれば」
「……鍛冶仕事に使う火力を、魔法で取得したい、と。その仲介というか、必要な魔法の知識を持つ人を、ギルドに紹介して欲しい。
そういうご依頼なわけですか?」
「それが最重要の案件になりまですが、それ以外にもいくつか。
ギルドの販売網を使って、地の民の生産物も販売していただく。ギルドには、相応の手数料を売り上げの中から納めていただくことが前提になります。
その際、他の、ヒトの技術では不可能な仕事も、受注で受けつける。彼らは、こと、鍛冶に関しては強い自負心を抱いております。あたしたち帝国側の人間の目からみても、現在の大陸の水準をはるかに上回る金属加工技術を持っているものと判断しています。
彼らの技術は、確実に大きな富になりえます」
「受注や販売、場合には営業までを包括した……ここまでいくと、かなり深い事業提携になりますね。
今、ここでは、前向きに検討してみます……としか、いえませんか……魔法やこちらに縁のある鍛冶の専門家にも、意見を聞いてみないと判断できないところがありますし……。
詳しい条件などは後ほど、時間をかけて煮詰めるにしても……まずは、前提となる、魔法が鍛冶に使えるのかどうかを検証しなくては、はなしがはじまりませんね。
魔法の実践はもちろん、知識を持つだけの者でも、ここではかなり希少です」
「大陸中、どこにいっても希少ですよ」
「当ギルドに所属する人でも、数えるほどしかいないのですが……ちょっとお待ちください。
……誰か、きぼりんさんのスケジュールを確認してください。
明日からしばらく、こちらの地の民に、力を貸していただきたいのですが……」
?????
「なに?
忙しくなってきたので、予備のボディも同時に使いたい、と?
それは別に構わないのだが……お前の方から自発的にこのわたしに対して何かを提案してくるのも、珍しいと思ってな。
ああ。
いいぞ。
そもそも、どのボディも、もともとお前のものだ。断るまでもなく、好きに起動して好きに使え。
こちらの塔内の家事に支障をきたさない範囲内であれは、わたしとしても特にいうこともない。
あとはお前とギルドとで好きに取り決めろ。あそこなら、賃金をちょろまかすとかセコい真似もしないだろうしな……」
ギルド本部。
「「「「「ご主人様に許可をいただきましたのでさっそく試しに五体ばかりこちらに転送させていただきましたすでに働いているきぼりんと同様こちらにいるきぼりんたちもっよろしくお願いいたします」」」」」
「うがー!」
「お、落ち着いてください、ガーレルさん。
こちらの方々はきぼりんさんといいまして、これでもギルドに協力してくださる、魔法知識のエキスパートになります」
「「「「「おはなしの概略は現在迷宮内で転移陣設置作業に従事しているきぼりん1を経由してお聞きしましたわたくしたちはこれより地の民のみなさまをお助けして鍛冶仕事助けるための魔法技術を開発すればよろしいのですねわたくしは鍛冶についての知識を持ち合わせておりませんし実際にどのような魔法が必要とされるのかもわかっていませんので試行錯誤や実験を繰り返すことになりますそのための若干の時間をいただくことになりますそれでもよろしいでしょうか」」」」」
「はーい!
しつもーん!
きぼりんさんは、地の民の言語を習得可能でしょうか?」
「「「「「資料とサンプルと時間をいただければ可能かと存じます」」」」」
「では、ヒトには発声不可能な音声なんかも、出すことはできます?」
「「「「「音域によりますがヒトよりは広い範囲の波長を扱える仕様となっております」」」」」
「じゃあ、きぼりんさん。
何体か、帝国公館に紹介、いや、直接、雇わせてください。地の民ならびにリザードマンとの通訳兼仲介人として!
レキハナ官吏が泣いて喜びます」