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54.たいどう。

 商人宿、飼い葉桶亭。

 「……ほら……」

 「確かに……」


「……ん……。

 もう、朝……んんっ?」

「「おはようだ、シナク」」

「……おはよう。

 で……なんで二人揃ってこのおれの部屋にいるんですか?

 リンナさん、ティリ様」

「ああ、それはだな。

 昨日の朝のことをはなしたら、この帝国皇女が是非とも自分の目で確かめたいといいだして……」

「それでお邪魔をさせてもらった次第だ、シナクよ。

 しかし……ずいぶんと狭いが、清潔でよけいなものがなくて、いい部屋だな、シナク」

「……どこからつっこんでいいのかわからない……。

 まず、第一問。

 どうやって……この部屋にはいれました?」

「この宿の経営者とおとぼしき年輩の女性にシナクとパーティ組んでいる者だと告げたら快く通してくれたぞ」

「拙者とは、昨日のうちに、すでに顔をあわせておるしな」

「第二問。

 独身男性が寝ている部屋に入ることについて、独身女性としては躊躇いはなかったんですか?」

「なにをいまさら!

 わらわとシナクの間柄でそのような気遣いなぞ無意味であろうに!」

「はっ!

 全裸の女と夜毎同衾している身で、独身男性とのたまうか!」

「第三問。

 なぜ……布団を完全にまくり上げているですか?」

「単なる知的好奇心のなせる技。

 寛大な心で許すがよい、シナクよ。

 しかし……そうか、男性とはこのような構造をしておるのか。正直、そこの形状は家畜とさして変わらんのう」

「本当に二人とも全裸であるのか、確認する必要があると思ったまでだ!」

「…………はぁ。

 とりあえず、着替えますんで、二人とも一度廊下に出てください。

 おれが、大声を出す前に!」

「……んー。

 なんかあったのかー……抱き枕ぁ……」

「はい、この全裸も寝ぼけて抱きついてこない!」


「おはよう、シナクさん。

 今日は、朝食はどうするんだい?」

「メシはもらいます。

 それから……おばさん、お願いだから、この人たち、勝手におれの部屋に通さないで……」

「おやおや、シナクさん、モテモテだからねえ。いいねー、若いって。

 朝食、今持ってくるからね」

「いや、そういうことではなくて……あー、もう。

 悪気がない分、始末に悪いな……」

「……シナク」

「あのー……」

「メシならすぐに食べ終わるから、それまで立っててください。

 食堂、ごらんの通りの混雑ぶりですから」

「「……シナクが冷たい……」」

「あたりまえでしょう」


 羊蹄亭、迷宮支店。

「「「「「おはようございまーす!」」」」」

「うおっ!

 マスター、さっそく人を雇ったのか……。

 おれ、蜂蜜たっぷりのカフェオレ」

「焙じ茶を所望す」

「レデルカ産の茶葉があれば、紅茶を」

「はい。

 ハニーカフェオレと焙じ茶、レデルカ葉の紅茶ですね」

「あ。今から茶葉を焙じているのか。いい匂いがしてきた。

 しかし……ここの品揃えの良さは、一体どうなっているんだ」

「昨日の梅昆布茶は、しかと、拙者の郷里の味がした……」

「煎れかたを思い返してみても、あのマスター、ただ者ではないな」

「リンナさんやティリ様までもが、そこまでいうのか。

 マスターが雇った人たちも、そこまでできるものかな……。

 品数が多いってことは、おぼえなければならないことも多くなるわけだから……」

「これから出てくるものを実際に喫してみれば、いずれ、はっきりする」

「ま、そうなんですけどね……」

「ハニーカフェオレと焙じ茶、レデルカ葉の紅茶、お持ちしましたぁー」

「「「……うまい!」」」

「おそれいりますぅー」


 迷宮内、管制所。

「シナクさん、リンナさん、ティリ様。

 本日もこの三名のパーティですね」

「はい。

 今日もよろしく。

 今日は、昨日みたいな、他のパーティの手には負えなかった案件、ないの?」

「幸いなことに。

 ではシナクさん、本日は五十八番転移陣を使ってください。

 転移して、すこし進んだところにある三つ叉路の、一番左の先からが未踏地域になります」


 ギルド本部。

「これが……フェリスさんが構想した、紙を確保するための事業契約書、ですか?」

「はい。

 最初、当地に製紙工場を作る案も検討したんですが、供給源を一元化するよりは、分散してリスクを減らすことを重視しました」

「それで……各地既存の工場と直接契約を結び、原材料を送って作ってもらう……という形にしたのですか?」

「調べてみてわかったのですが、現在の稼働している製紙工場の多くは農閑期を狙って作業しているところが多い、一年を通して紙の生産に従事しているわけではないのです。現在の紙の価格では、完全に専業化できるほどの旨味はない、と判断されているわけで、一年の半分以上、製紙工場の設備は遊んでいるわけです。

 手間賃をこちらから出し、材料も持ち込みでなら、相場による価格の変動も関係なく、工業側にしてみれば事業としてのリスクも少なくなります。また、本来なら遊んでいる期間の、工場の設備も、有効に活用できます。

 すでに製紙工場の近場にいる渉外さん経由ではなしをしてもらっていますが、好感触のところが多いとのことでした」

「供給源を一カ所にしぼっていると、確かに災害とかでそこが駄目になれば、それまでですものね。

 紙がなくなって書類が作れなくなったら、今のギルドのお仕事は回らなくなりますし……必要となる経費も、この計算だと思ったよりも少なくなりそうですし……。

 いいでしょう。

 フェリスさん、この案件、本格的に動かしてください」

「あと、コニスさんから新しい防具用の付加術式がいくつか、リンナさんから同じく新しい武器用の付加術式の申請が届いてます」

「書類を未採決の箱に入れておいてください」

「次に、大量発生したイナゴの後始末の件ですが、昨日発見されたリザードマンから、大量に引き受けたいむねの申し出がありました。彼らの村から出入りできる転移陣を設置してくれれば、村総出でイナゴを運び出してくれるそうです。

 帝国側もこれを認め、あとはギルドの認可があれば、すぐにでもはじめられる状態となっております」

「今日、きぼりんさんの身柄は空いていましたったっけ?」

「はい。

 特に忙しい、というわけではなかったかと……」

「では、この件は認可ということで。

 さっそく、きぼりんさんに転移陣を……」


 王国軍、野営地。

「これから面接を開始するわけだが、別に難しく考えることはねえ。お前らの部下にしたくないやつがいたら、どんどん落とせ。実際に教練を監視してからも、不適格なやつをみつけたらどんどん放逐しろ。

 一度に教育出来る人数を考えて一応の定員を決めてはいるが、こいつはあくまで目安だ。結果として、これより多くなっても少なくなっても構わない。

 どのみち、これは王国軍迷宮攻略隊の第一期生の面接であって、すぐ後に二期、三期と続く。

 おれたちの仕事は一人でも多くの、迷宮で使いものになる軍籍持ちの冒険者を育て上げることだ。そして、ここには五万人からの候補者がひしめいている。いくら落としたところで、替わりなんざいくらでもいる。

 むしろ、迷宮でむざむざロストさせるくらいなら、教練の課程で先回りして放逐する、くらいの調子でいけ。

 これからはじめる面接は、そのふるい分けの記念すべき第一回ってわけだ……」


 王国軍、参謀本部。

「魔法兵による積雪除去作業の進捗状況は?」

「今のところ、予定以上にはやいペースで進んでおります。

 やはりわが軍の魔法兵は、優秀です」

「普段、法外ともいえる予算をかけて飼っているんです。そうでなくては困ります。

 各資材の現在地は?」

「基礎用の石材が、現在、港町デラルデラムにて陸揚げ作業中。これが、もっともはやく到着することになると予測されます。

 そのほかにも、続々と当地に向かっており……」

「つまりは、順調ということですね」

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