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53.ひとかげのさしみ。

「火蜥蜴とか、いっさいのあかりが無効化される部屋とか、迷宮もいよいよ今までにはない種類のモンスターやギミックを出すようになってきたな。

 今後、どうなるんだか……」

「これまでは、力押しだけでもそこそこ先に進められましたからね。

 これからは、それにプラスして、様々な特殊攻撃への備えとか、そっさのときに機転が効くかどうかが問われるのではないかと」

「このままでいくと、脱落する冒険者も増えそうだな」

「去るものがいれば、逆に来るものもあり。

 最近、修練所を放免される人数が、目に見えて増えてきているそうです。

 どうも、教える側も教えられる側も、骨や呼吸を掴んできたようで……」

「とりあえずは、シナクくんの防具に仕込んだ各種の守護術式を、順次製品化していくよ!」

「……コニス、お前、こいつにどんだけの術式、仕込んでいるんだよ……」

「実験的なもの、効果が保証されていないものも含めて、最先端の術式をここぞとばかりに凝縮してみました!」

「やっぱ、いい実験台だったんだな、おれ」

「たいがい、迷宮の最前線にいるのはシナクくんになるから、不測の事態に最初に遭遇するのもシナクになるんだね!

 人選としては間違っていないと思うよ!」

「こんだけのものをタダで提供してもらっているんだから、文句をいう筋合いでもないんだがな……いまいち、納得いかねー……」

「備えあれば憂いなしですよ、シナクさん。

 ことに、これからは、どんどん何が出てくるのか予想がつかなくなってきます」

「まあ、なあ。

 今日一日で遭遇したやつらだけをみてみても、迷宮もなりふりを構構わなくなってきたなー、って感触はあるけど。

 ほかのやつらも、おれたちみたいなヘンなのに遭遇しているのかな?」

「どこまで進んでも先が見えない通路、とかが見つかったようですね」

「なにそれ?」

「文字通り、一本道をまっすぐに、どこまで歩いても果てがない。

 不審に思って通路にしるしをつけてみたら、いつの間にか同じ道をえんえんと繰り返し歩かされていた、というオチです。

 どうも、空間がそこだけ妙な風にねじ曲がっていたようで……」

「よく帰ってこれたな、それ」

「反転して進行方向を逆にしたら、あっさり脱出できたとか。

 そこへいたる入り口は、ギルドが閉鎖区域に指定しました」

「堂々巡りを終了させるための具体的な方法がわからない限り、探索をするだけ無駄だしな。

 ま、当然の処置だ」

「ああ、みなさんお揃いで!

 ちょうどよかったっす!」

「あ、キャヌさん。

 どうしました?」

「珍しい肉……火蜥蜴の肉を試食してみたら、これがもうなんとも形容できない美味でして……」

「あれ……食えるのか?」

「回収されてきた火蜥蜴をみて、ダウドロ一家のタロウザとジロウウザが真っ先に飛びついたっす!

 あの子たちの舌はたしかだから、試しに調理してみたら、これがもう予想以上で……論より証拠!

 数に限りがありますし、ここにいるみなさんで試してくださいっす!」

「お、おう。

 切り身……か。

 これ、生じゃないのか?」

「確かに切っただけの刺身ですが、それでも最初から火が通っていたみたいな……」

「……確かに、生きているときから燃えてたけど……。

 寄生虫の心配もまずなかろうし、どれ……。

 ……………………ん!

 なに、これ!」

「おいしいでしょ?

 いろいろ試してみたっすけど、結局、下手に手をかけるよりも切っただけが一番おしかったっす!

 これまでも迷宮から出てきたいろいろなモンスターを調理してきましたが、今のところこれが一番おいしいっす!」

「今までに食べたことがない味だ」

「なんだろう……この世のものとは思えない……」

「実際、別の世界から来たんだろうけどな」

「いや、これは……癖になるわ」

「はい! まだまだありますっす!

 これから全部ここに持ってきますので、全部食べちゃってくださいっす!

 この味で、数が限られたものを下手に外に出すとパニックになりかねないっす!」

「だな。

 火蜥蜴の肉を手にれるためだけに、迷宮に入ろうとする無謀なやつが後を絶たなくなる。

 確かに、ここで証拠隠滅しておいた方がいいかも知れない」

「そんなにか?

 どれ、おれにも一口……」

「お、マスターも食べるか?」

「口にいれたときにまず感じるのは、肉が舌に吸いつくような弾力のある感触とかすかな甘み。そして、咀嚼するたびに増していく旨味と、鼻に抜けていく、ほんとうに僅かな酸味……。

 な、なんだ、これは!」

「マスターが、感涙している……」

「おしいことは、確かなんですが……」

「なんだ、レニー。

 いきなり思案顔になって……」

「いや……あんまりおいしい肉ばかりを取得できるようになっても、それはそれで問題かな、と……。

 例の魔女さんの仮説もありますし、これも……」

「あ。

 そうか。

 迷宮が人を誘うための手段だという可能性も……」

「ええ。

 考えすぎただといいのですが……」

「一概に、そうとばかりも決めつけられないだろうな。

 なぜ冒険者の報酬が高額なのかといえば、他では手に入らない貴重な素材がこの迷宮で手に入るからだ。

 それがうまい肉であっても、別段、不思議ではない」

「迷宮に、過去の事例から学ぶ能力とかがあったとしたら……」

「中に入るヒトにとってうまい肉の原料を、中に出現させるようになるのかもな。

 いや、もう、現にそうなっているのかもsれない……。

 おーい、キャヌさん!

 ちょっといいかあ? 聞きたいことがあるんだけど……」

「……はーい。

 なんすか、シナクさん?」

「迷宮でとれるモンスターの肉って、全部食べられるものなの?

 たまに、どんなに手を加えても食べられない肉とか出てこない?」

「……うーん……。

 そうっすねー……いわれてみれば、少し前までは、しょっちゅう、そのまま肥料の材料行きになるものも多かったっすけど……最近は、ほとんどなくなってきてますね……。

 食生活とかの問題で、例えば虫肉は絶対食べたくないっていう人なんかは、一定数いるっすけど……味、という点に限っていえば、まずい肉のモンスターって、ここ最近、出てこなくなった気がするっす。

 いや、別に統計とかとっているわけではないので、正確なところはなんとも断言でないっすけど……」

「証明された、とまではいいませんけど……」

「否定する材料がなくなったことは、確かだな」

「迷宮は、冒険者のニーズを徐々に学習する……のかも、知れません」

「それだって、こっちにしてみれば危険と隣り合わせだ。

 おそらく……その学習ってのが極まれば、強いモンスターになるほど肉が美味だったりレアで高価な素材の材料になったりしていくんだろう」

「今のところ……繰り返し出現するモンスターは、あまりいないようですが」

「だな。

 かなりバラエティーに富んでいて、毎日遭遇するものが違っているから、学習もなにもない。

 とは、思うけど……」

「今後は、どうなっていくんですかね?」

「どうなっていくんだろうな?」

「食べ物っていえばさー。

 例の、大量発生した巨大イナゴ、あれね、リザードマンの方で引き取ってくれるになったよ!」

「そうなのか、コニス。

 今日、発見したばかりでそこまで交渉が進んだことが驚きなんだが……」

「代表の何名かがこっちに見学に出てきて、そのときに片づけている最中のイナゴの山をみて、俄然興味を持ったらしいね!

 彼らにとってはご馳走の山なんだって!

 それで、急遽相談して直通の転移陣を設置して、彼らが直接、自分の村に運び込むってはなしに……こちらも人手が欲しかったから、ちょうどよかったよ!」

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