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9.まだみぬゆうじんのつれあいにおもいをはせるよる。

「と、いうわけで、いつものように酒場にいくわけだが……。

 レニーたちはもう来ているかな?」

「おう。シナクか。

 レニーとコニス、ルリーカはもう奥ではじめているぞ」

「あいかわらずはえーよ。

 よう」

「どうも」

「あいよ」

「シナク、今朝ぶり」

「で、筋肉達磨の奥さんがお産だって?」

「そうそう。

 まだ産まれたって報告は来てないけど……」

「そんなすぐにポンポン産まれるもんじゃありません。

 何十時間もかかる重労働なんですから」

「ははは。

 経験、ないもので……」

「で、だな。

 やっぱとりあえず、お祝いとかしといた方がいいわけ?

 おれらも、まんざら知らない仲でもねーし……」

「シナクくんにしては常識的な発想ですね」

「いや、おれ……お前らよりはよっぽど常識人だよ。これでも」

「そうかそうか。

 やっぱ自覚はないのか……」

「もっともらしい顔して肩を叩くなよ、コニス……」

「それはともかく、お祝いをするのには賛成ですね。なんならこの場の全員でなにか送りますか?」

「そいつはいいな。

 あいつんところも、今度で……ええっと、三人目だっけ? とにかく子宝に恵まれすぎだから、かみさんのご機嫌もとっておかないとそろそろやばい」

「あ。マスター。

 いつものやつとつまむもの、適当に。

 それから……おれ、バッカスの奥さんって人に会ったことないんだけど、どんな人なの?」

「……えーっ……とぉ……」

「そ、それはですね……」

「ひとつ断言できるとがあるとすれば、ぜったあいに怒らせない方がいい」

「……この三人がいいよどむんなら、そうとうな人なんだな……」

「まあ、遠からず顔を合わせる機会もありますよ、きっと」

「そうそう。そのときまでのお楽しみってことで」

「直接対面しないと、存在を容認できない人」

「……いや、まあ……あいつの奥さんやっているんだから、さぞかしできた人なんだろうなあ……とは思っていたけど……。

 なんか、予想以上にすごそうだな」

「そうそう。

 外見的なことをいうのなら、かなりの美形です」

「そうね。

 外見だけなら、どこかのお姫様でも通用するか」

「銀髪碧眼容姿端麗」

「そんな人、よくバッカスが捕まえられたもんだ」

「はっ。はは。

 いや、その……捕まえた、っつうか、捕まえられた、つうか……」

「そうですね。

 天が二物も三物も与えたような方ですが、異性の嗜好に関してだけは、正直、理解に苦しみます」

「だてくうむしもすきずき」

「バッカス、ひでえいわれようだ」

「ほい、お待ち。

 ガラムのお湯割りと、それに昨日の肉、薫製にしてみたんで試してみてくれ」

「おう。

 あんがと、マスター」

「で、バッカスのところの出産祝いのはなしなんだがな、あいつんところも今度で三人目だろ? いい加減、ネタ切れでなあ。服やおもちゃなんかも、もう一通りのものは持っているはずだし……」

「ここいらでは、現金送ったりすると失礼にあたんの?」

「そういうこともないんですが……お金以外に、子どものためのものを一品以上、贈る風習がありまして…」

「んじゃあ、おむつとかは?

 あれなら、いくらあっても困らないんじゃあ……」

「そうだけど……バッカスの奥さん、ここいらじゃあ、かなーりの有名人なんよね。

 前の二回であちこちから山のように贈られて、かなーり余っているっていってた」

「じゃあ、食べ物とかもだめか?」

「最初のお産のときに、乳牛を一頭贈られたと聞いてます」

「あの子、今でも裏庭にいけば、のんきに草を食べているよ」

「なにげに、ハードルが高くなっている件」

「どんだけー」

「なあなあ、シナク。

 こいうのこそあれ、昨日来たぼん、きゅ、ぼんの魔女さんに頼んでみてはどうだ?

 あの人、伝説の魔女さんなんだろ?」

「あー……マスター。

 その……あの人は、だなあ……。

 うん。

 まあ、やめておいた方が、無難だと思う。

 たぶん。

 こういってはなんだが……ここにいる誰よりも常識がないぞ、あの人。

 どう考えても、この手の相談には不向きだ」

「そだねー。

 昨日の様子を考えると、なんとなくわかるような気がする」

「では、彼女の知恵を拝借する、という線は捨てて……シナクさん、彼女の存在そのものを贈り物にする、というのはどうでしょう?」

「名案。

 バッカスの奥さんもかなり見聞が広い人だけど、五賢魔に会ったことはないはず」

「いいね、それ。

 あの人なら、絶対、興味持ちそうだし」

「いや、でも、あれ……あの魔女、昨日も見たろ? 引きこもりで、強度の対人恐怖症だぞ、あれは。

 素直にあってくれるかどうか……。

 それに、だな。

 そういうのって、その奥さんは喜ぶかもしれないけど、産まれてくるこどものためとは……」

「では、塔の魔女に、塔へ招待させればいい」

「ルリーカ、いいこといった!

 実はわたしも、シナクくんだけ面白そうな目にあってずるいなーとか、思ってたり思ってなかったり……」

「そうですね、シナクくん。

 こう考えてはいかがでしょう?

 あの塔の魔女さんは対人恐怖症に苦しんでいらっしゃる。その彼女を社会復帰させる方便として……」

「いやいやいや。

 あの人、対人恐怖症はともかく、自分の意志で引きこもって、社会不適合になっているわけだから!」

「あの人、昨日、シナクが町を案内してくれる約束をすっかり忘れているって愚痴っていた」

「……へっ?」

「そうそう。

 昨日、お前が帰った後、ルリーカとあの魔女さんは遅くまで飲んでいてな、なんだかんだでかなり意気投合していたぞ。

 やっぱ、魔法使い同士、気が合うのかね?」

「ちなみに話題は、もっぱらシナクに関すること」

「これで決まりですね。

 シナクさんは、あの魔女の方が人前に出られるようにする義務がある。そのための習熟訓練もかねて、あの人の塔にわれわれを招待させる。

 これは、バッカス一家に対するサプライズ・プレゼントでもありますが、同時に、あの魔女さんのためにもなる、一石二鳥の方策です」


 ぱちぱちぱちぱち。


「こ、こら……。

 お前ら……。

 決定事項のように、盛大に拍手なんか……」

「そして、あの魔女と直接連絡をつけて交渉できるのは、シナクだけ」

「がんばれー、シナクくん」

「あの魔女さんを動かせるのは、シナクくんだけです」

「なあ、シナク。

 あの別嬪さんの顔を、また拝ませてくれよ。

 できればあの人にもうちの常連になって貰うといいかなー……とか。

 あの人に限り、料金なんていらねーから……」


「いや、その、あの……。

 あのー、みなさん?

 その、おれの意志とか、都合とかは……」


 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち……。


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