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51.ひろがるわ。

「またシナクさんですか?」

「まいどどうも、レキハナ官吏。

 今度はこのコインもありますし、地の民のときほどには手こずらないと思いますが……」

「そう願いたいものですね。

 今は優秀な折衝官省のスタッフたちも多数、当地に赴任してきているので、前よりはずっと楽になるものと期待しますが……。

 ほう、このコインがねえ……」

「ドラゴン様の加護……霊験あらたか、というよりは、さっそく御利益がありましたね。

 リリス博士の進言もあり、しばらくレキハナ官吏に預けます。

 ただ、なにぶん、入手した経緯が経緯ですから……」

「わかってます。決して、おろそかには扱いません。

 しかし、ドラゴンに出会ったその日に、リザードマンにねえ……。

 二度も知的種族の発見者になったこともありますし、シナクさんは奇貨が向こうから寄ってくる、数奇な運命をお持ちの方であるようですな」

「笑えない冗談です。

 おれは、一介の冒険者で十分ですし、いつまでもそうありたいと思っています」

「周囲がシナクさんのその希望を認めてくれるといいのですがね」


 羊蹄亭、迷宮支店。

「はー……。

 今日も、濃い一日だった。

 マスター、ホットミルクね」

「もう酒場の時間だ」

「それくらいサービスしてくれよ。常連なんだから……」

「しかたがねーな。

 蜂蜜はいれるのか?」

「たっぷりな」

「ほい、蜂蜜たっぷりね」

「しかし、シナクよ。

 冒険者とはこれでなかなかに忙しない職業であるな」

「帝国皇女よ。

 このシナクを標準的な冒険者として認識すると、あとでいらぬギャップを感じることになると思うぞ。

 普通の冒険者はここまで波瀾万丈な日々を過ごしてはおらぬし、不意に遭遇した奇縁をシナクほど巧みにあしらえるものではない」

「あー。

 もう、なんでも好き勝手にいってください」

「だいたいだな、ドラゴンだのリザードマンだのにいきなり出くわして、その場で最上の結果を出せるような交渉を遅滞なくおこなえる者が、だな、冒険者とはいわずこの世にあと幾人いようか?」

「すいません、リンナさん。

 前言撤回します。

 好き勝手ではなくもう少しセーブしてください。聞いてると全身がむず痒くなってくる」

「おい! ぼっち王!」

「……っと。

 あ、あんた……」

「おうよ。

 例の火蜥蜴に蹴散らされたパーティの生き残りよ!

 あんた、おれたちの仇をとってくれたんだってな!」

「仇ってか、まあ、それが仕事だったからな」

「どっちにしても、おれにしてみれば同じことよ!

 改めて、礼をいわせてもらうぜ!」

「そりゃ、別にかまわないけど……それよりお仲間は、大丈夫なのか?」

「あわてて冷やして医者にかかったけど……幸いなことに、全員、たいした火傷でもなかった。

 多少の跡は残るにせよ、命には別状ないってはなしで、ただ、何日かは動けないみたいで……」

「そう、それもだ。

 あんた、当面の身の振り方、代わりに潜り込むパーティとか見つかったのか?」

「おう、それそれ。

 なんとか、放免したての新人たちのパーティに、半ば指導役として拾われたわ。

 そいつらも心細いってことだし、おれは仕事が途切れないし、お互いにとってメリットがあったってこったな」

「そうか、そりゃあ、よかった。

 別のパーティのはなしだが、モンスターに手足を踏みつぶされたやつもいたって聞いたんでな。ちょっと、そっちのことも気になっていたところなんだ。

 まあ、おごるからここで一杯やっていきな」

「それじゃあ、遠慮なく。

 おや、別嬪さん揃いだな、ここのテーブルは。

 どうも、お嬢さん方。

 おれはクバダってけちな冒険者で、とはいってもこちらのぼっち王と比べればまだまだ駆け出しもいいとこなんだが……」

「そっちのお嬢さん二人も、冒険者だぞ」

「魔法剣のリンナ」

「わが名はシュフェルリティリウス・シャルファフィアナ」

「……へ?

 じゃ、じゃあ……こちらが……あの、黄泉帰りのリンナと、帝国の皇女様で……」

「ついでにいっておくとな、昨日からこの三人でパーティを組んでいる」

「ほい、シナク。

 ホットミルクだ。

 で、そっちの人はなんにする?」

「ホットミルク!

 あのぼっち王が、ホットミルクだって!」

「……大声で二度も繰り返すなよ。

 おれはな、こうみえても酒に弱いんだ。

 飲み過ぎるとすぐに眠くなる」

「「「「「……ティリ様ぁー……」」」」」

「わっ。

 娘っこがどっと押し寄せてきた」

「ティリ様……皇女様目当ての、研修生だな。

 しばらく騒がしくなるか……」

「ティリ様、ティリ様、どうですか、冒険者生活は!」

「ふむ!

 なかなか、刺激に満ちておるものだったな!

 朝は、ほかのパーティが手に負えなかった難敵のモンスターを連続で葬り、昼はレッドドラゴンと遭遇してその安寧を保証。それからこの迷宮で二番目の知的種族であるリザードマンの村落を発見し……」

「「「「「……え?」」」」」

「あ、あの……ティリ様のお言葉を疑うわけではないのですが……その全部を、その……たった一日で……」

「その通りである!

 戦闘はこの三名でおこなったが、ドラゴンとリザードマンとの交渉は、もっぱらこのぼっち王、シナクの仕業よ!

 いいか、皆の者、これから詳細にシナクの活躍を述べるやるからよく耳を傾けるがよい!

 まずドラゴンとの……」

「……あー。

 ティリ様、やおら大声を張り上げるから、かなり大勢の人が寄って来ちゃって……。

 ……帰ろろうかな……」

「開店祝いだと思って、そのまま客寄せに貢献しろ、シナク」

「マスターまで、他人事だと思って……」

「実際、他人事だしな」

「逃がさぬぞ、シナク。

 ここでだな、わがパーティの存在感を印象づけて、ぼっち王の呼称を返上するのだ!」

「ここまで定着した呼び名が今さら払拭できますかね、リンナさん」

「やあやあやあ、シナクくん!

 今日も、大活躍だったようだね!」

「聞きましたよ。

 ドラゴンとリザードマン、立て続けに遭遇したそうですね」

「……レニーとコニスか……。

 今、その今日の出来事を、ティリ様が身振り手振りつきで熱演しているところだな」

「シナク、前を開けて」

「……ルリーカ。

 すまん。

 その……これだけの人目がある中で、それは……」

「指定席」

「……」

「ルリーカの、指定席」

「……はぁ。

 はい、どうぞ」


 ぱす。


「シナク。

 このミルク、飲んでもいい?」

「……あー、いいぞ。飲みかけでわるいけど……」

「かまわない」

「わはははははは。

 今日もいっぱい仕事をしてきたようだな、シナク」

「あー、おかげんさんでなー、バッカス」

「……ラッキー・レニー、ブラッディ・コニス、殲滅魔女のルリーカに、暴風戦斧のバッカス……」

「お? どうした? クバダくん」

「すげぇ!

 ここのトップクラスが、揃い踏みだ!」

「……まあ、間違ってはいないな。うん。

 そんな、ご大層なものでもないと思うけど……」

「「「「「シナク教官!」」」」」

「もう教官じゃあ……あ、ガールズパーティか。

 どうだ、調子は?

 ここ二、三日、モンスターが強くなっていると思うけど……」

「今のところ、なんとか対応できてます!」

「そいつはよかった。

 みんな元気そうだな。

 今後も無理はせず、手に負えそうにないやつにぶち当たったら、さっさと逃げろよ」

「「「「「はい!」」」」」

「おーい、誰か、臨時で手伝ってもらえないか!

 これだけお客がいると、一人では回らん。

 給金ははずむから……」

「あ、お手伝いします!」

「自分も!」

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