48.しまつや。
「なんじゃ、シナク。
こんなところにおったのか」
「こんなところで悪かったな」
「お。
いつぞやの、酒場の……」
「本日開店、昼間は茶屋、夜は酒場だってさ。
ティリ様も、なんか頼んでみたら?」
「そうさの。
ジャスミン茶はあるか?」
「もちろん」
「では、それを」
「はいよ」
「そうか、このような店が出来たのか」
「流行ると思いますか」
「いけるのではないか?
今のところ、競争相手もおらぬし……第一、研修生は娯楽と嗜好品に飢えておる」
「まあ……生活に必要なものは、だいたい迷宮の中で揃っちゃいますもんね、今は」
「だが、それだけではやはり寂しいのじゃ。
これ、店主。
甘い菓子なども扱うと、おなご衆に飛ぶように売れるぞ」
「おお、それはいいことを聞いた。今度、仕入れてみましょう。
へい、ジャスミン茶お待ち」
「ふむ。
おお……これは、予想外に、本格的な……」
「マスター、結構、凝り性なところがあるよな」
迷宮内、管制所。
「さて、今日も気を引き締めていきましょうかね」
「あ。シナクさん、おはようございます」
「はい、おはようございます。
これ、三人分も冒険者カードね」
「はい、確かに。
……あの、探索に入る前に……」
「なんか、特別なクエストが入りましたか?」
「実は……昨日、立て続けに四件、パーティが撤退を強いられた案件がありまして……」
「……やっぱ、モンスター、強くなってきてるのか……。
で、撤退した人たちは、無事なの?」
「ロストしていない、という意味では無事です。
ですが、重傷を負った方も決して少なくはなく、中には、このまま引退を余儀なくされる方も……」
「……はぁ。
こういう商売をしていれば、いつでもそうなる可能性はあるわけだけど……。
で、その強いモンスターを排除する仕事をして欲しい、と……」
「はい。
すでに、一件目にはバッカスさんとルリーカさんが向かっています。
残りの方に……」
「いきましょう。
おれたち三人で。
モンスターについて、わかっていることだけでも教えてもらえばありがたいんだけど……」
迷宮内、某所。
しゅん。
「とにかく、でかくて硬いモンスターらしいですね。
人の姿をみると、まっしぐらに突進してくる……犀の形を、しているそうです」
「正面からぶつかるのは、下策であるな」
「突進してくるのを避けながら、左右から攻撃を当てていく感じですかね。
逃げても、どこまでも追いかけてくるそうですが……」
「逃げる際には、散るべきであるな」
「散りながら、魔法や術式で攻撃を続ける……と、こんな感じかなあ」
「具体的な大きさは?」
「みた感じ、軍用馬の二倍以上とか。
ってことは……体重なら、何倍に相当するんだろう?」
「確かに……それは、でかいな。
その上、硬いのか?」
「何人か、手足を踏み砕かれたそうで……」
「使い物に、ならなくなったか?」
「ロストはしませんでしたが、引退を、余儀なくされたそうです」
「……その者らが、楽隠居できるほどに賞金をため込んでいたらいいの……」
「せめて、そうだといいんですけどね」
「拙者にとっては、仕上がったばかりの付加術式の、いい実験台だ」
「その意気です、リンナさん。
……さて、この部屋にいるはずです」
「やはり……部屋、なのか」
「昨日のおれたちのように、出口が塞がることはなかっらようですが……人工的な、四角く区切られた、かなり広い空間になっているそうです」
「では……実地に、対面してみるとするかのう!」
ドドドドドドドドド……。
「うぉっ!」
「はやっ!」
「散れ!」
ドドドドドドドドド……。
「はは。
よりによって、おれに目をつけたか!
まあ、他の二人を追いかけるよりかはましか!
さて……どこまで逃げきれるかな!
……って!
なんで犀モドキの後から二人が追いかけてくるの!」
ドドドドドドドドド……。
「術式の実験台だと、いったであろう!」
「はは!
このような経験、めったにできるものではないわ!」
「食らえ、攻撃範囲拡張兼質量増大の一撃!」
どっ……ごぉぉぉんっ!
ごごごご……。
……グォォォ……。
「うわっ!
犀モドキのうしろ足が、一撃で……粉砕。
その上、野太刀は地面を砕いて深く食い込んだ……。
犀モドキは、横に転がって……」
「……せいっ!」
ズジャッ!
「あ。
ティリ様、喉元を一閃。
……硬いと聞いてたけど、見事に断ち割っているなあ。出血がすごいし、斬り口がゴボゴボ泡立っているしで……こりゃ、このモンスター、もう時間の問題だわ……」
「今回、シナクは逃げ回っていたばかりだの」
「む。
では、せめてあと一太刀でも……よっ!」
ズバッ!
「お見事!」
「一刀のもとに、首を落としたか!」
「相手が動かないんなら、この程度のことは……
。
さ、まだ厄介なモンスターが残っているはずです。一回、帰りましょう」
迷宮内、管制所。
「……もう、討伐したんですか?」
「うん。
犀モドキの案件は終了。
首を落としたし、動かないから、もう心配はいらない。
次は?」
「あ、はい。
では、こちらを……」
「巨大蝙蝠……が、複数?」
「暗闇で……あかりをともしても、その部屋ではなぜか明るくならないので……。
それでも、無茶苦茶に武器を振り回して、何体かは落としたそうですが……」
「まだ、何匹か残っている、と……。
そんな様子で、よく逃げ切れたな」
「見えないだけで、モンスター自体はさほど強くはないそうです。
それに、その部屋の外は普通にあかりがともるそうで……」
迷宮内、某所。
「……と、いうはなしなんですが……」
「……おぬしの昨日買ったアレ、使えばいいのではないか?」
「やっぱり、そう思います?」
「なりはでかくても、蝙蝠であろう。
その性質まで引き継いでいるとすれば……」
「それで十分。
ま、試してはみましょう。
……火をつけて……ほい!
耳ふさいで、ふせて!」
ど、ごぉぉぉぉん!
「……うはぁ……。
流石、新型……音まで……大違いだ……。
はい?
なに? 聞こえない!
……耳をふさいでても、キンキン鳴ってるからな……。
今後、対策を考えないと……。
おっ?
おお。
あかりが通らないはずの部屋が、あかるくなって……確かにヒトよりも大きな蝙蝠が、点々と地面に……」
「気を失っているだけかもしれんな」
「……手分けして、とどめをさしていくか?」
「そうしたほうが、確実でしょうね」
迷宮内、管制所。
「……おはやい、おかえりで」
「例の部屋に発破を放りこんだら、一発で全部失神。あとは順番に介錯をしていって、終了。
処理が必要な案件は、まだ残っている?
いえ、あと二件は、バッカスさんとルリーカさんの組が処理してくださったの……」
「……お、おい!」
「あっ、グデルスさん。
どうしましたか?」
「どうしましたもなにも、命からがら、逃げ延びてきたところだ!」
「パーティメンバーは、全員無事か!」
「……あ、ああ。
何人か、ひどい火傷をおったが……あ、あんた、ぼっち王じゃないか!」
「グデルスさんとやら、あんたは無事らしいな。
負傷者の手当は?」
「あ、ああ。
ギルドの職員が、全員、医者のところに……」
「じゃあ、詳しいはなしをきかせてくれ。
それと、その場所の座標とか、わかるか?
地図でもいいんだが……」
迷宮内、某所。
「火蜥蜴、か。
いよいよ、モンスターも超自然的になってきたな」
「大きさは、成人男性ほど。ただし、全身から炎を吹き出している、そんな大蜥蜴だそうです。
刃物は効くそうですが、通常の矢は効果がうすい。そして、近寄っただけでも火傷をするほどの、高熱を発しているそうです」