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44.すべては、げーむますたーの?

 王国軍野営地、某所。

「小隊長、おれたち、なにやっているんでしょうね……」

「デスクワーク。

 より正確にいうのなら、五万余名の将兵から迷宮向けの人材をピックアップするために、片っ端から名簿をたぐっているの」

「この量……たった二人で……」

「しかたがねーだろ。

 うちの隊のやつらは向こうさんでシゴかれている最中だし、おれたちはあいつらの上官ってことになっているんだから。

 つべこべいわずに印、つけろって」

「しかし、この名簿も……書式が統一されていないんで、読んでいて混乱するってぇか……」

「王国派遣軍なんて称してはいるが、実態は、国のあちこちからちょっとづつ人を引っ張ってきた寄せ集めだかんな。

 地方の騎士とか郷士が、家臣とかさらにその下の小者とかを何名づつ従えて集合しているわけで、名簿も……」

「おのおのの騎士なり小貴族なりに提出させたもの、ですか……。

 こんなの、役にたつんですか?」

「少なくとも、年齢くらいはチェックできんだろう。

 なに、このご時世だ。そのまま役に立つような実戦を経験しているやつは、仮にいても数名ってところだろうし、そういうやつが素直に上に経歴を申告しているとも思えねえ。

 この軍に在籍している以上、健康状態はそれなりなんだろうし、若くていなくなっても差し障りのないやつから順番にピックアップしていけばいいだけのことよ。

 使えるようには……これから、こっちが仕上げていくんだ」

「差し障りのない……つまり、身寄りがなさそうな、ってことでいいっすね?」

「おう、それでいい。

 うまいこと最後まで生き残れれば……それこそ、ここの冒険者なんてのは、そこいらの小貴族なんかより、よっぽど高収入だ。

 若くて不遇で、身寄りがない連中が成り上がるための……こいつは、またとない好機だぜ!」

「……ものは、いいようですね」

「とにかく、五百名ほど、いや、面接やって落とす分も考えて、六百名前後、さっさと選んじまえ」


 迷宮内、某所。


 GYAAAOOOOOOO……!


「お。

 膝が崩れた」

「自重を支えきれなくなったのか、倒壊しておるの」

「あれは……匍匐前進とかは、できぬのか?」

「あの図体で、あの短い腕では……難しいかと。

 うん。

 やっぱり、あれ、全身、羽毛でおおわれてはいないものの、プロポーション的にはこの前の暴君ってやつにかなり似ているな」

「移動できぬのであれば、このまま放置しておっても、いずれ焼け死ぬことになろうが……」

「……いたずらに、苦痛を長引かせるのもなんでしょう。

 頭が低くなったことだし、術式で脳味噌をかき回してみましょう。

 ……あいつの脳味噌が、頭部に詰まっているとしてですが」

「わらわも、手伝おう。

 それでも息絶えなかったら、心臓やら気管やら、急所を片っ端から潰していくことにしよう」


 GYAAAOOOooo……。


「……静かに、なりましたね」

「かなり派手にひっかき回したからの。

 流石に、息を引き取ったものとみえる」


 がしゃん!


「……おっ?」


 がしゃん! がしゃん! がしゃん! がしゃん! がしゃん! がしゃん! ……。


「……塞がっていた、通路が……」

「ああ。

 また、開かれた」

「……どういう仕掛けなのかはしりませんが、これは……」

「素直に考えれば……この部屋に一度入ると、どこからともなく転送されてくるモンスターを倒さない限り、でる術はないことになるな」

「まるで……侵入者の攻撃力を、判定しているみたいっすね」

「誰が考案し、仕掛けたかのは知らんが……そのような目的を持っていたとしか、思えぬな」

「でも、ものは考えようで……ここに直接転移してくれば、誰でもこのクラスのモンスターを狩ることができるわけで……」

「さて、このギルドに、これほどの大物を狩ることが可能なパーティが、あといくつあることか……」

「わらわたちは……さきほど例の青銅牛に遭遇した際、いささかやりすぎた経験を持つので、今回は冷静に対処し、最小限の労力で、効率よく討伐することができたが……」

「確かに……術式付加の武器があったとしても、魔法抜きでこいつを狩るのは、かなりの骨かぁ……。

 で、どうします?

 このあとは……」

「今日はもう、しまいにしよう。

 いくらなんでも、一日で殺しすぎた」

「わらわも……魔法剣士の意見に、賛同する」

「では……リンナさん。

 転送、お願いします」


 迷宮内、管制所。

「……といったわけでありまして……」

「……また、そんな奇特な経験を……。

 類人猿の大群とか、冒険者の出現を待ち受けていたとしか思えない変な仕掛けの部屋とか……。

 シナクさんのパーティ、今日は大当たりの日ですね」

「ましてや、ティリ様は、今日が冒険者初日ですよ?

 これが普通だと誤解されても困るんですが……。

 とにかく、これが調べた分の、地図になります。

 ただし、この四角い部屋に入るときは、かなり高いランクの冒険者を数名揃えてからにしてください。

 今回はおれたちにも対処できるのが転送されてきましたが、次の機会も同じのが転送されてくると決まっているわけではありません」

「……シナクさんのパーティで対処できない相手なら、他の誰がいっても同じかと思いますけど……ええ。いいたいことは、よくわかります。

 この部屋に関しては、しばらく閉鎖扱いにするよう、進言しておきます」

「それが、安全ですね。

 それじゃあ、おれたちはこれで……」

「お疲れ様です」


「……終わったか?」

「はい。

 業務連絡、無事終了」

「シナク、まだはやい時間だが、このあと、時間はあるのか?」

「予定はとくにありませんが……。

 さっさと汚れを落として休みたいです。

 あ、それから、発破とかも補充しなくちゃ……」

「それなら、ほれ。

 まず、そこの宿舎の簡易浴場を使え。

 汗と汚れをざっと流すだけなら、あそこで十分だ」

「あそこ……おれも使えるんですか?」

「食堂と同じく、投げ銭すれば、誰でも研修生のように使えることになった。

 冒険者の間で、あれを使いたいという要望が多かったため、らしい」

「なるほど。

 今度から、替えの着替えも持ってくるかな」


 迷宮内、簡易浴室。

「……浴槽はなし。

 ずらーっと並んだ蛇口から、ちょうどいい湯加減のお湯が出てきて、体を洗えるわけか……。

 確かに簡易、ではあるけど、機能的にはこれで十分か。

 まだ時間が早いせいか、ほとんど人がいないし……。

 石鹸まで、備えつけか。

 研修生は無料で使えることを考えれば、かなりサービスがいいな。

 給湯とか、迷宮の魔力を自由に使えればこそのシステムなんだろうが……」


 迷宮前広場。

「……ふぅ。

 さっぱりした」

「シナクさん!」

「おお、キャヌさんか。

 あいかわらず、元気そうでなにより」

「それはどうもっす!

 そんなことよりっ!」

「な、なんだ?」

「今日の、あの大きな牛さんのことなんすけどっ!」

「おお、あれ、やっぱ牛でよかったの?

 大きさとか硬そうな殻とかいろいろあったんで、いまいち自信が持てなかったんだけど……」

「そうっすね。

 サイズこそあれっすけど……骨格とか内臓の配置とか、とにかく中身は牛っす!

 で、あの硬い殻っすけど、やっぱり、金属製でしたっす!

 それも、みたまんま青銅っす!」

「……そういう品種の牛、って、いるの?」

「もちろん、いないっす!

 自然の状態ではないっす!

 誰かが、何者かが手を加えたとしか……」

「……謎のゲームマスターの仕業なんかねー……」

「なんすか、それ?」

「迷宮そのもの。あるいは、迷宮を作った意志。

  ま、今の時点では確認のしようがない戯れ言だ」


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