43.さつりく。
「しませんけどね。
でも……ここで道が、ええと、六又に、分かれています。
このうちどれかにうかつに進んだりすると、背後からも襲われてこちらが挟撃されると思いますが……」
「おぬしは右端の道から、発破を放り込んでいけ。
拙者は、左端から魔法をぶち込んでいく」
「ここまで、あぶりだすわけじゃな。
なら、わらわは、この場にいるもの、この場に逃げてくるもの、片端から斬り伏せていこう。
術式で攻撃範囲を最大限に確保して槍をふるえば、密集した相手なら効率的に倒すことができよう」
「なんとも、頼もしいお言葉で。
……ほい。
発破に火をつけました。
投げますよ!」
「業炎弾!」
ひぃぃぃぃぃ……ん。
どかぁぁぁん!
「次々と……穴の奥から出てきた!」
「……ふふん。
せいっ! はっ!」
ずぅぅ………しゃぁっ!
ざぁぁ………しゅっ!
「おお、類人猿どもが。
おそれをなしたのか、近寄ってはこんようだな!」
「第二弾、投げます!」
「業炎弾!」
ひぃぃぃぃぃ……ん。
どかぁぁぁん!
「近寄らずとも……斬るっ!」
ずぱぁぁ……んっ!
「第三弾、投げます!」
「業炎弾!」
ひぃぃぃぃぃ……ん。
どかぁぁぁん!
「……だいぶ、減ったな」
「キーキー鳴いておるのは、あれは……」
「悲鳴とか、あるいは、命乞いではないですか?
今、やつらは絶望しきっていると思います。
やつらにすりゃ、おれたちは、いきなりやってきて大量殺戮を引き起こす、悪鬼羅刹そのものでしょう」
「あれらは、ヒトにかなり肉薄した知能を持っていると聞いているからな」
「言葉がわかれば、降伏勧告もできるんですけどね」
「だが、実際には、意志の疎通はおこなえないし……」
「わらわたちは、この先も含めた迷宮を攻略せねばならぬ」
「先に進むためには、後顧の憂いは絶たなければならない」
「ということで、残りの大量殺戮とやらをやりとげることにしよう!」
「ふう……。
抵抗はたいしてなかったけど、あっちこっちに逃げ回るのがいたんで、以外に手間取りましたね」
「だが、短時間にこれだけの討伐数を稼げたのは、僥倖といえば僥倖であろう」
「ふふん。
一度にこれだけのモンスターを片づけたのは、このギルドにしてみても、最高記録なのでないか?」
「……公式には、そうなるでしょうね。おそらくは。
このあと、どうします?
いったん、ひきかえしますか?
それとも……」
「まだまだ時間もある。
この先を、確かめてみようではないか?」
「では……焼けた通路を、片っ端から改めていきますか。
万が一ってことがある。
念のため、おれがしんがりを勤めます」
「では、わらわが先頭をいこう。
魔法を使える者が真ん中にいた方が、多様な事態に対応しやすかろう」
「道理であるな。
それでいこう」
「では、右から順番に進んでいくことにする」
「焼け焦げた死体と、死体の部位ばかりが転がっているだけであるな。
なまじヒトに似た形をしているから、気分が悪くならないこともない」
「微妙ないいまわしであるの。
吐き気がするのなら、吐いてしまった方が気が楽になるぞ」
「匂いが気になるだけじゃ。
実際に吐くほど、不快なわけでもない」
「それは、重畳」
「さて……爆風に吹き飛ばされてか、ここいらから、死体がなくなっておるが……」
「爆心地の向こう側にも、吹き飛ばされているはずです。
もう少し歩けば、また同じようになりますよ」
「で、あるな。
……うん。
ここから、また、丸ごととと部分のの、死体が転がっておる。焦げたのや、まだ煙を吐いているのやら……いずれにせよ、屍の山だ。
それが、ずっと向こうまで……ん?
ずっと向こうから、小さく光が漏れてきているが……」
「……こんなところに、光源があるって?」
「あかるさまに、あやしいのう」
「このまま進むぞ。
だんだん、死体がまばらになってきた。
類人猿どもも、これ以上奥にはいかなかったらしい。
ふむ。
死体が、途絶えたな。
……光源……どうやら、どこかへの出口にあたるらしい。
逆光で、向こう側の様子まではみえないが……」
「遠くばかりではなく、近場も警戒してくださいね。
なにが起こるのか、予測できませんから」
「心得た。
ゆめゆめ、油断はすまい。
とは、いうものの……一本道であるようじゃの」
「あの、光源まで……か」
「さて……あそこに、なにが待っていますやら……」
「おお。
いきなり、視界が……」
「開けた……な。
なんと……真四角の……直方体の……。
これは……壁や天井が、うっすらと光を帯びているのか?」
「明らかに、人の手が入っているとしか思えない造形だ……。
これは、あれだ。
最初の大量発生の源流となった、門の部屋と、似たような雰囲気の……。
リンナさん。
座標を、控えて地図に書き込んでください」
「確かに、これはギルドに報告しておいた方がいいな。
今までに、類例があまりない」
「ここから……。
うん。
壁一面につき、二つか三つの通路が延びている。こりゃ、この先も、探索のしがいがありそうだ」
「いったん、帰還して、この部屋を起点にして、何組かのパーティで探索を進めた方が、よさそうじゃの」
「ですね。
そっちの方が、効率的だ」
「では、一度転移することにしよう。
二人とも、拙者のどこかに触れよ」
「はい」
「よしなに」
「……」
「……」
「……」
「リンナさん、どうしました?」
「転移できん」
「……なんで?」
「わからん。
こんなことは、はじめてだの。
なんらかの理由で、術式の駆動を妨害をされているとしか……」
「今すぐ……来た道から、引き返しましょう!」
「罠か?」
「その可能性は……」
がしゃん!
「通路が……」
がしゃん! がしゃん! がしゃん! がしゃん! がしゃん! がしゃん! ……。
「あ。
全部の、通路が……」
「うん。
塞がれた。
つまり、閉じこめられた」
「む」
「どうしました? リンナさん」
「何者かが……転移して、来る」
「おや……まあ……」
「シナク、なにをにやけておる」
「だって、こんなよくある展開に、自分がはまったと思ったら……」
「それよりも、臨戦態勢を整えた方が……」
「今のうちにいっておきますが、おれ、もう発破、二本しか残ってません。
今日は使いすぎましたね」
「その二本でなんとかなる相手であることを、願ってくのだな。
……来るぞ!」
GYAAAOOOOOOO……!
「おー。
大きさでいえば、いつぞやの、暴君とかいうのといい勝負だ。
あれより、遙かに凶暴そうだけど。
なに、あれ。
あのやたらトゲトゲのついた、ごつごつした硬そう皮膚は」
「二本足と太く長いしっぽで直立した……あれは、どういう生き物であろうな?」
「先輩方よ、つべこべいう間に攻撃をした方がよくはないか?」
「違いない。
……よっ!」
がきんっ!
「……少なくともおれの術式では、あの皮膚は斬り裂けないようで……」
「皮膚の中身を、直接斬ればよかろう!」
「ですね。
よっ!」
ずびぃしぃ……。
GYAAAOOOOOOO……!
「ん。
手応えはあった。
とりあえず、足を潰そうかと思います」
「任せる。
拙者は……爆炎陣!」
ごぉぉぉ……。
GYAAAOOOOOOO……!
「しばらく、あの場で燃えさかるタイプじゃ。
うまいこと移動力を封じれば、あの場で蒸し焼きにできよう」
「……はっ!」
ぎゅゅ……ぱぁあっ!
GYAAAOOOOOOO……!
「体内を攻撃して、移動力を奪えばいいのじゃな?」