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8.たんたんとしごとをこなしてしょうにゅうどうでひきかえしてたいきんをげっとしたらしいけん。

「今日の昼飯も堅い黒パンのサンドイッチと水」

「宿のおばさんがせっかく用意してくれるもんだからあまり贅沢もいえないが、もう少しバリエーションは欲しいよな。

 保存食の塩辛いジャーキーとかは、常時余分に荷物に入れてはいるけどさ」


「さてと。

 百足もどきの穴は、どんな案配かな……」

「おお、死んでる死んでる。

 地面に積もってますねえ……」

「……掃除は、あとで人夫どもに任せよう」

「で、これは、どこまで続いているのかな……」


 ひゅん。


「……うーん……」

「結構奥まで続く百足の絨毯。

 ま、地図を書きながら、慎重に進んでいこう」


 ひゅん。


「やっぱ勾配が、上に向かっているよな。この道」


 ひゅん。


「ざくざくざく、っと。

 百足の絨毯を踏む感触も、あまり気持ちいいもんじゃないし、靴底がチクチクしたりするんだけど、我慢我慢。

 掃除している暇はないし、それ以前に素手でさわりたくない。毒を持っているかも知れないし」


 ひゅん。


「しっかしまあ、どっから沸いてきたんだか、よくもまあ、こんなに大量の百足がいたもんだ……。

 まだまだ続くよぉー!」


 ひゅん。


「こんだけ死骸が密集していれば、それを食べに来るやつとかいそうなもんだが、不思議とこの迷宮の中では、死んだモンスターってしばらくそのままの状態なんだようなあ。

 少なくとも、回収にいったやつらから、死体が荒らされていたみたいなはなしを聞いた覚えはないし……」


 ひゅん。


「ギルドも、冒険者の増員をかけるとかいっているけど、猟師あがりとかは苦労しそうだな、この迷宮。

 死体をあさりに来るのがいないから、罠も効果ないだろうし、外の動物を相手にするのとでは、かなり勝手が違うし……」


 ひゅん。


「冒険者にもいろいろいるが、一番ガラが悪いのはあれ、傭兵あがりのやつらだよな。たいがいに傭兵なんて連中は、山賊とかとたいして区別がつかんし……。

 そういや、ちょいと前までやけにつっかかってくるやつらがいたような気がするが、帰ってきてから顔みないな。まあ、あまり会いたい連中でもないからどうでもいいようなもんだけど……」


 ひゅん。


「そういや、あの筋肉達磨、生意気にも奥さんがお産だとかいっていたな。あとでお祝いのひとつでも届けなけりゃな。なにが適当なのかよくわからんから、あとでレニーあたりにでも相談してみるか。

 しかし、あのバッカスの奥さんねえ……。

 会ったことないけど、どんな人なんだろう?

 まあ、あれと夫婦になっているんだから、相当な人格者であることは確かなんだろうけど」


 ひゅん。


「百足絨毯、ようやく終わりが見えたかな?

 しかしまあ、こんなやつらに襲われでもしたら……とか想像すると、たまったもんじゃねーなー。

 いくら腕に覚えがあっても、不用意なやつらはすぐにロストするわけだわ」


 ひゅん。


「さて、と。

 地図も書けた。というか、ほぼ一本道だから歩数を確認するだけなんだけどな。正確な測量は、あとでギルドが手配するだろうし……。

 おれのお仕事はあくまで事前調査と安全の確認」


 ひゅん。


「……もう少し、奥まで続いている感じかな?

 かすかに空気が流れているし、もう少し進んでみるか……」


 ひゅん。


「お。

 火矢が落下して見えなくなった。

 あそこに段差があるのかな?」


「うん。

 すごい。鍾乳洞ってやつだ。

 こんなんがあるって、地元のやつらからも聞いたことないだけど……実際に、あるからなあ……」


「げっ」

「今なんか、大きな咆哮が聞こえた」

「すっげぇ大物がいるくさいな、この鍾乳洞」

「おれ一人で相手をするのはリスクが大きすぎるし、まずは報告して態勢を整えないとな。

 この道は、ここまで……っと」


「いったん、引き返そう」


「ふう。

 ヘビの道にいくかな。途中までしかいってないし」


 ひゅん。


「一度来た道だけど、新手が来ていないとも限らない。

 慎重に、慎重に」


 ひゅん。


「ヘビの死骸は、まだまだ先だったな」


 ひゅん。


「お、あった。

 目に刺さった投げナイフを回収して、っと……」


 ひゅん。


「おお。

 刺さらなかった矢だ。

 曲がって……うーん。大丈夫なようだな。

 回収回収」


 ひゅん。


「地図によると、このあたりまでは来ているんだよな」


 ひゅん。


「ここから急な下り坂になっているな」


 ひゅん。


「なんか、空気が湿気を含んでいる。

 また水場でどんずまりかな?」


 ひゅん。


「水場は水場でも、鍾乳洞に出たか……。

 下から見ると、かなり広いし高いな……。

 さっき出くわした穴も、どっか高いところにあるはずだけど……暗くてよくわからないや。

 さっきの吼え声も気になるし、鍾乳洞の調査は後回し。

 認識票も残り少なくなったし、引き返そう」


「おお。

 結構、人が来てるな」

「あっ、旦那。

 魔法使いの嬢ちゃんが転移陣を張ってくれたんで、人を呼びました」

「まあ、賑やかになることは、いいことだ。

 でも、未踏地域の入り口は厳重に閉鎖しておけよ。

 最近遭遇するのは、やけに大型のものが多い。ありゃ、素人には手に負えないや。万が一、モンスターに遭遇したら一目散に逃げるよう、徹底しておけ」

「それはもう、いわれるまでもなく。

 で、旦那の方の案配は?」

「今日は、こんなもんだな。

 この先に四つ叉があって、そのうち二つをとりあえず終えてきた。二つとも、大きな鍾乳洞につながっていたよ」

「鍾乳洞っすか……。

 やっぱ、ここ、昔とはぜんぜん違っちゃっているんですね……。

 旦那、地図、写させて貰っていいですか?」

「ギルドには内緒だぞ。

 本当なら、こいつにも権利料が発生するんだから……」

「ええ、もちろん。

 旦那はいろいろ融通効かせてくれるんで、こちらも助かります」

「そうか、転移陣、もう使えるんだよな。

 一度外に出るか……」

「ええ。すごいですよ、これ。

 そこに立つだけで、瞬時にしゅんと外に……。

 あ。旦那、もういねーや」


「ふう。

 やっぱり、長いこと暗いところいた後だと、外の空気がうまいな……」

「お疲れさまです、シナクさん」

「おう。

 あ。そうか。ここにもギルドの窓口できたとかいっていたな……。

 これ、今日の分の地図ね」

「はい、確かに」

「おお、シナク。

 今日はどんな獲物をとってきおった?」

「薬師のじいさんか。

 ええと、今日は、昨日ほどではなかったな。

 百足みたいな虫が山ほどと、やたらでかいヘビ。まだ、取ってきてはないな。そのうち人夫どもが回収してくるはずだから、それを待っててくれ」

「百足みたいな虫とな!」

「ああ。そう。

 ……これ、だ。サンプルに二、三、包んで持ってきたんだ」

「これは……」

「使えそうか?」

「おう。使えるも使えないも、乾燥させて砕けば妙薬の材料になる。一般にもまず出回らないから、かなりの高値で取り引きされておる」

「あー。

 この虫……山ほど死体が積もっているんだけど……じいさんの虫除けがよく効いたおかげで……」

「山ほどとなっ!」

「うーん。

 こんくらいの幅の洞窟を、ええと、三千歩以上にわたって、こんくらいの高さで降り積もっている感じで……」

「それだけあれば……十年以上、豪遊して暮らせるな……」

「そんなにか?」

「ええっと……それだけ高額な品となると……急いで回収の手配をしますっ!」

「ああ。

 受付嬢、走っていっちゃった。

 しかしまあ、迷宮のものってのは、なにが高値になるのかよくわからんな」

「おぬしが淡々としすぎておるだけじゃ。

 いいか、冒険者というのはだな、ロストするのとおなじくらい、思わぬ大金を手にして身を持ち崩すものが多い」

「そんなもんかね。

 でもおれは、なんか多額の借金があるっぽいから、多少の金ではあまり喜ぶ気にはなれん」


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