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41.しふくするひとびと。

 迷宮内、男性用宿舎。

「……なーなー、余のにーちゃん。

 ここの……ってのは、どういう意味だ?」

「それはだな、『しょてい』と読む。

 すでに決まっていること、という意となるな。

 この場合、所定の動作、で、以前に教えられたことと同じようにせよ、ということだ」

「おー。

 そーゆーことかー」

「……おいおい、余さんよ。

 今日は例の筋トレとかいうのはやらないのか?」

「あれは、闇雲に連続してやっても効果が薄いのでな。欲をいえば四十八時間ほど間をあけたい。

 それに、ご覧の通り……どうした加減か、子どもたちが余に教本の中でわからない言い回しについて聞きに来るので、身動きがとれん」

「そりゃ、あんたが邪険にもせず相手をしてやってるからだろう。

 おれだってようやく文字が読める程度だが、わからない箇所はすっとばして適当に納得することにしているぜ」

「ふむ。

 教育レベルも、まだまだだな。

 義務教育なぞほど遠い経済状況であるから、しかたがないとはいえるのだが……」

「また、わけのわからない御託をぶつくさいいはじめた」

「ところで、貴殿の知り合いに、頭のいい者はおらんか?

 より具体的にいうのなら、この子らに、教本が読み通せるくらいの読解力を身につけさせるのが可能な者など、知っていたら紹介していただきたい」

「え……と。

 そんなこと、いきなりいわれても……」

「いや、あいつがいただろう。ラデグが。

 頭のほどはよくわからんが、あいつ、軽薄草紙の古本を買いあさってよく読みふけっているから、教本の文章くらいは教えられるんじゃないのか?」

「ああ、あいつがいたな!

 余さんよ。

 そいつを連れてくればいいのか?」

「頼む。

 いい仕事があると伝えてくれ。

 それからこれは、貴殿らへの紹介料だ」

「……おっ。

 こりゃどうも」

「別に、これくらいのことで……」

「いいからとっておけ。

 どれ、余は……」

「余のあんちゃん、どこにいくんだ?」

「教官の詰め所に。

 どこぞに、人が集まっても差し障りがなさそうな場所はないか、相談しにいってくる。

 おぬしは、おぬしと同じような、教本をうまく読めない者を集めておけ」

「余のあんちゃん、いったいなにをするつもりだ?」

「この修練所の内部にな、簡単な学問所を設ける」


 迷宮内、教官詰め所。

「……研修生同士で自主的におこなう、勉強会のようなものだと思っていただきたい。教師役を勤める者には、余が給金を支給する。

 文弱者を救済するすべを用意することは、この修練所にとっても、決して悪いはなしではないと思うが……」

「……どうします?」

「こちらとしては、場所を貸すだけだしな。

 確かに、悪いはなしではないと思うが……」

「でも、王子……なんで、そこまでして……」

「愚問である。

 この辺地も、いずれ余が統治することになる。そこの民を少しでも助けようとするのは、未来の統治者の取るべき態度としては、決して不自然なものではないと思うが?

 ましてや、民の教育は、諸君らが認識している以上に国全体の富を左右する要因であり、あだやおろそかにできん。

 今の時点では、この余は国政に影響を与えることはできない存在であるが、この場で出来ることをやらないでおく理由はない。

 さらに先を見据えるならば、ここでの成果を将来、余がおこなうであろう教育制度改革の参考に出来る。

 以上の理由から、この余にとっても、決して無駄な投資とはならないであろう」

「なあ……なにいってるのか、理解できたか?」

「なんだかよくわからんが、悪いことをたくらんでいるわけではなさそうなのは、理解できた」

「空いてる講義室を貸すだけだろ?

 別にいいんじゃないのか?」

「やらせてみて悪影響が出るようなら、中止させればいいだけだしな」


 王国軍野営地、将校用天幕。

「……テリス……。

 今日も……いない。

 あの女が……あの女ほどの、魔力があれば……魔力……魔力……魔力!

 あるじゃない! すぐそこに!

 膨大な魔力のかたまりが!

 そうよ! そうよ!

 あの迷宮の魔力をすべて奪って吸収して自分のものにできれば!

 あは。

 あはははははははは。

 なんでこんなに簡単なことに気づかなかったんだろう?

 あの迷宮は、今も日に日に魔力を増していく!

 いずれ、あの女をも追い越して……。

 そう、そのためには……あの膨大な魔力を我がものとするための術式を研究して……それに、迷宮の魔力をより効率的に増大させる方法も……。

 ふふ。

 ふふふふふふふふ。

 そうよ。そうよ。

 これでわたしは……誰にも負けない、最強最悪の魔女になれる!」


 王国軍野営地、某所。

「本日よりギルドの修練所に研修にいくわけだが、おれたちはあくまで王国軍兵士だ。

 この研修の目的が、おれたちが学んだことをもとにして、迷宮攻略を目的とした王国軍独自のメソッドを作り上げることにあることを忘れるんじゃないぞ。

 ギルドもおれたちも、当面の目的は迷宮の攻略。共通の目的を持った、いわば、ライバル関係となるわけだ。

 なれ合うなとはいわんが、過度にやつらと自分らを同一視はしないように気をつけろ。

 では、これより本日の研修に向かう。

 帰ったら、お互いに学んだことを開陳ししつつ、どうしたら軍独自のものにできるのか、ミーティングもかねての勉強会だ。

 野郎ども、準備はいいな!」


 迷宮内、管制所。

「……というわけで、一本道のどんずまりで新手の超大型モンスターと遭遇、これを撃破して帰還しました。

 地図にリンナさんが調べた座標も書き込んでおいたので、必要なら調査とか遺骸回収とかの手配もお願いします」

「……お疲れさまです。

 そういえば、シナクさん……煤だらけですね」

「今回は、発破も、派手に使いましたからね。

 おれ以外の二名は、いったん宿舎に戻って身ぎれいにしてくるそうです。

 発破は、威力はすごいんだが、まだまだ改良の余地がありますね」

「……今のところ、あれほど大きな発破をそのまま使う冒険者は、シナクさんくらいしかいません。

 あれ、もともと、鉱山で岩盤を吹っ飛ばすのに使っていたものの残りですよ」

「威力がある分、たいがいの相手に通用するんで便利なんですけど……なんでみんな使わないんですかね?」

「威力がありすぎるから、でしょう。

 それで、まだはやい時間ですが、シナクさんのパーティは、このあとどうするんですか?」

「賞金額からいえば、もう十分稼いでいるんですが……ティリ様が、まだ暴れたりないらしくて……。

 もう一度、迷宮に戻る予定です」

「確かに……この撃破数に、その、超大型、ですか? その分も含めると……三人で賞金を分割しても、普段のシナクさんの一日平均賞金学を軽くこえる感じですね……。

 なにげに、踏破距離もすごいことになっているし……。

 賞金王は、パーティになっても賞金王か……」

「それは、どうでもいいんですが……昨日、今日と、やけにモンスターとのエンカウント率が高くなっているのが気にかかります。

 他の場所も、同じような感じなんですか?」

「ちょっと待ってください……。

 そう……ですね。

 確かに、いわれてみれば……この二日、迷宮全体で、討伐数がかなり増加しているようです」

「あまり不吉なことはいいたくないけど……。

 たまたま、一時的にそうなっているのか、それとも、なにかの異変の予兆なのか……」

「変に警戒しすぎるのあれですけど……それとなく、他の冒険者の方々にも、注意を呼びかけておきます」

「お願いします」


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