40.おおもの。
「青銅色の……雄牛?」
「見た目は、そうですね。
ただ、大きさが……ちょいとした、小屋ほどもありますが……」
「シナクよ。
あれは、生き物なのか?
あの皮膚の光沢は、わらわの目には、どうにも金属のように感じられるのであるが……」
「生き物ではないかも知れませんね。
相手が動かなくなってから子細に調べてみませんと、なんともいえません。
現状では、金属並の硬度を持った皮膚を持ち、生物のようになめらかに動く……というのを前提として動くのが良さそうです。
どうです?
幸いなことに、あちらはこちらに目をむけても、関心は抱いてないようです。あちらにしてみれば、おれたちみたいにちっぽけな人間なんか、脅威には感じていないのでしょう。
大事をとって、ここで引き返しますか?
それとも、この三人で……」
「ふふん。
冒険者初日に、このような大物と遭遇できるとは、わわらはよほど運が良いとみえる」
「金属の特性を持っているとすると……雷系の攻撃魔法が、よく通りそうだの」
「……ふぅ。
二人とも、やる気ですか。
それでは、せめて……幸い、この通路は狭く、向こうの大物がいる場所は広い。
あの大物はこの通路まで入ってこれなないから……ここでしばらくあいつを観察しながら、作戦を練りましょう」
「この通路に陣取って、遠くからの攻撃でやつを弱らせることを提案します」
「シナクは、慎重論が好きじゃのう」
「なんとでもいってください。
命あっての物種です」
「ここからなら、ギリギリわらわの矢が届くと思うが……まずはやつの皮膚に矢が通るか、試してはみぬか?」
「下手に刺激して怒らせたら、やつがどういう行動にでるかわかりませんよ。
突進してくる程度のなら、この通路の中にいれば大事ないと思いますが……ほかの攻撃手段を、それも予想外の攻撃手段を持っていたりしたら……」
「そんなことが、ありえるのか?」
「毒液や強い酸を飛ばしてくる、炎を吐く、どこからともなく蜂の大群が飛んでくる……すべて、おれが実際に経験したことです」
「……む。
そうか。
では、慎重に考えねばならんの」
「そう、やるのなら……それこそ、一気呵成に、最後までやりきる勢いでいかねばな。
そこで……」
ひゅんひゅんひゅん……。
「合図したら、いっせいに……」
「「「……せー、の!」」」
ドカン! ドカン! ドカン!
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「爆裂弾、三発同時着弾は、流石にこたえ……」
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「……て、ない!
こっちに突進してくる!
発破に、火をつけて!」
「ほれ、シナク!」
「はいよ。
……ほいっ!」
「よし、口の中に入った!」
「耳をふさいで、伏せろ!」
どぉぉぉぉぉぉんっ!
「……五本束にしたの、初めて使ったけど……音が……耳が……煙が……」
「まだじゃ。
まだ動いている気配がするぞ、シナク!」
「爆裂弾頭、強酸弾頭、猛毒弾頭を続けて射てみる!」
「ティリ様、任せます!」
どぉぉん! ばりん! ばしゅっ!
「命中……したかな?」
「手応えはあったが……煙で、確認できん!」
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「さて、この声は……悲鳴か、それとも威嚇の声か……。
ま、術式の効果で、声がする方を滅多斬りにしてみますかね……」
「では、拙者は魔法を各種取り混ぜて、試してみよう」
「……せいっ!」
「電竜鞭! 灼熱弾! 氷花満開! 轟風槍!」
ずしゃ。ざしゅ。ざっ。ずざっ……。
ババババ……ヒュュュ……ビキビキビキ……ゴシュュュウ……
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「この! この!
手応えは、あるんだが……」
「煙がなかなか晴れぬので、効果が確認しずらいのう」
「ここは、確実なことがわかるまで、手を緩めることなく……」
「それが正解、ですね」
ひゅん、ひゅん、ひゅん……。
ざっ。ずしゃっ。ざくっ。ずん。
ヒュュュヒュュュヒュュュ……。
ババババババババババババ……。
ビキビキビキビキビキビキ……。
ゴシュュュゴシュュュゴシュュュ……。
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「ようやく、煙が晴れてきた……」
「もう、かなりのダメージを与えている計算になるが……」
「敵の姿がみえたら、一番弱っていそうな箇所に攻撃を集中せよ!」
「了解!」
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「……おっ。
見えてきた!
こいつはぁ……頭が半分、なくなってら!
それでも動けるのか!」
「われらの知る生物とは別種の原理で動いているようじゃの」
「でも……攻撃は、確かに効いてる!」
「そりゃ……皮膚の半分は焼けただれて、もう半分が氷ついてりゃ……。
移動力を奪うために、前肢に……」
パキン!
「おろっ?
折れたぁ!」
「凍りついた部分は、脆くなっているようじゃの!」
「では、残った全身を凍らせる。
濃縮氷雪獄!」
ひゅぉぉぉぉぉぉぉ……。
「ティリ様も、術式で!」
「おうよ!」
パキン! パキン! パキン! パキン! パキン! パキン!
「おお、皮膚が、足が……面白いように、割れていく!」
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「残りの部分も、このまま勢いに乗って!」
「おお!
斬り刻め! 風刃百華!」
ずしゃしゃしゃしゃしゃしゃ……。
「中身は、意外に柔らかいようだぞ!」
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「いけぇぇぇぇ!」
ずしゃぁぁぁっ!
「ようやった! シナク!
胴体が、まっぷたつになったわ!」
……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
「……ここまでやっても、まだ生きているとは……。
せいっ!」
ずぐっ!
「喉を潰してやったわ!」
「ええと……あとは……」
「まだ、残った肉塊が、身震いしておる」
「……心臓の、ありそうな場所……をっ!」
ざしゅぅっ!
「……これで、どうですか……」
「拍動が……ゆっくりと……止まった!」
「……終わり……ですかね?」
「……うん。
たぶん……」
「思うのだが……これは、少し、やりすぎたのではないか?
このモンスターの残骸もだが……周囲が、どうにもひどい有様なのであるが……」
「「……あっ……」」
「で、でも、これだけの大きなやつ、それも未知のモンスターとなると、慎重を期するのは当然のことで……」
「そう。そうであるな。
結果的に、鳴くだけし能のなかったモンスターであったとはいえ、最初からそうであるとはわれらにはわからぬ道理であり……」
「……」
「……」
「……これを期に、少し休憩をしようかの?」
「「はい」」
「このモンスターの焼けた肉、ずいぶんと旨そうな匂いがするの」
「確かにこの匂い、まんま牛肉ですけど……肉を削いで、食べてみますか?」
「……よしておこう。
血抜きもしておらぬし、それに牛はしめてから日をおいて熟成させた方が、断然、旨い」
「判断基準は、そこですか」
「ところで、先輩お二方よ。
このあと、どうするのか?
この通路はここまで一本道で、それもどうやらここまでのようじゃ」
「……確かに、どんずまりですな」
「他にしようもない。
一休みしたら、入り口まで転移するかの」
「魔法が使える人がパーティにいると、やはりこういうときに便利ですよね」
「だから、シナク、おぬしも魔法をおぼえろというに」
「まだ昼にもならぬというのに……」
「ですがティリ様。
通常の大型に相当するのだけでも十体以上、加えて、この超大型。
初日、それも、ただの半日の成果としては、最上等の部類かと」
「そうさの。
確かにここまでツキに恵まれた冒険者も、そうそうおるまい」
「攻撃力過多のパーティにも、恵まれたしな」