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36.いぎょうしゅこうりゅう。

「ま……今のところ、幸いなことに、お互いの利害は一致しているわけだな」

「そういうことになりますな。

 まったくもって、幸いなことに……」

「これから利害が衝突することがあったら……あんたが相手だと、まず手加減する余裕は作れなさそうだし……」

「同感ですな、ぼっち王さん。

 いやなに、平和が一番でございますよ。

 おれはこれでも負け戦が大嫌いなんだ」

「それ……好きなやつはいないでしょ?」

「そうですか?

 自分だけは負けないと過信して危ない橋をあえて渡ろうとする間抜けは、これでなかなか多いもんですが……」

「そりゃ……軍人さんだけではなくて、冒険者の方も、似たような傾向がありますけどね。

 おれもこれで、冒険をしない冒険者でいこうと常々思っている口ですし……」

「そりゃ、素敵なポリシーですな」

「この二人の会話は、殺伐としているんだか和気藹々としているんだか、判断が難しいところだね、レニーくん!」

「その両方なんでしょう、コニスちゃん」


「ところで、ルリーカ。

 こんど拙者の野太刀にこのような術式を刻んでみようかと思っているのだが……」

「……見かけの質量を操作する、術式?

 目新しい」

「これまでの傾向からいうと、今後、さらに装甲が厚いモンスターが出現する可能性があるのでの。大質量でぶん殴るのが、一番てっとり早かろう」

「こちらは……魔力の吸引先を、任意に選択できるようにしたもの」

「通常は、迷宮内の魔力を吸引して使用。

 それでも足りない場合は、拙者の体内魔力を使用。大出力が必要な時は、両方から魔力を吸引して使用。

 同じ術式をそのまま使用するもの芸がなかろうと、工夫を加えてみた」

「リンナしか使いこなせない」

「それで十分。

 もとより、こちらは拙者専用のつもりだ。

 もう一つの、みかけの質量操作の方は……」

「汎用性がある。

 非力な人でも、結果として強力な打撃力を獲得する効果がある」

「では、拙者自身が手ずから試用してみるとするか。

 それでうまくいくようなら……」

「武器に付加する術式の第二弾として、売り出せる」

「し、失礼します!

 今の術式とかのおはなし、もう少し詳しく聞かせていただいてよろしいでしょうか!」

「貴君は?」

「グリハム小隊所属、テドレといいます。

 ご覧の通り、本職の方には遠くおよびませんが、少量といえども魔力を滞留する体質であり、小隊の中では細かい魔法により他の隊員を補助する仕事をしております!

 それでも、魔法の知識はそれなりのものであると自負しております!」

「……と、いっているが、ルリーカ、どうする?」

「聞かせても、かまわない。

 ぱっと見ですぐに真似されるような単純な術式でもないし、実際に売りに出されるようになれば、真似るのは簡単」

「ありがとうございます!

 実は以前より、こちらで行われている、迷宮の魔力を利用した術式全般に興味がありまして、迷宮内の魔力を利用できるとなりますと、自分のような者に出来ることも大幅に増加します……」


「んふふふふふふふ。

 あなた方がお使いになる武器は、軍人さん向けというよりは暗殺者が使う暗器に近い性質があるように思われるのですが……」

「カスカ教官、おっしゃるとおりでして……職務の性質上、任務の内容を詳しく語れないのでアレなのですが……そこいらの夜盗ずれは、必ずしも全員が喜んで略奪行為に荷担しているわけではなく、頭目格の数名を排除すればたやすく鎮圧できるパターンが圧倒的に多いわけで……」

「んふふふふふふふ。

 それで、あんな姑息な武器が必要になる、と……」

「決して、そのような任務ばかりでもありませんが。

 行動パターンを内密裡に調査、把握した上での奇襲とか、囮を用意し、戦力を分散させた上での個別撃破とか、場合によっては、情報を収集するため、敵組織に潜入して内偵を行ったり……」

「んふふふふふふふ。

 やはり、普通の軍人さんとは、かなり毛色が違った部隊なのですね……」


「連携のコツですか?

 そりゃあ……様々な場面を想定し、何度でも何度でも、リハーサルを繰り返すより他、ありませんな」

「やはり、王道に近道なし、ですか。

 いや、それを聞いて安心しました」

「ことにうちの小隊長は、負け戦と部隊の者が死ぬことを異常なほど毛嫌いしていますから、こと鍛錬に関しては、それはもう厳しいもんです」

「そのあたりは、感性としては、シナク教官……いや、シナクさんと合い通じるものがありますね。

 あの人も、ロストしないために出来ること、すべきこと、どんな小さい工夫でもおろそかにせずに伝えようとしていました」

「あの方が……教官も、していらしてたんですか?」

「以前に、短い期間でしたが。

 というか、彼がほぼ一人で、この修練所の大まかな骨組みを作り上げたようなものです」

「それは……冒険者として一流であるだけではなく……かなり偉大な方、だったのですね」

「彼がやったことは、他にもいろいろあるのですが……ここでやったことといえば……まず、教練内容の細かな再編。教習を受ける者の習熟度にあわせて、受ける講座を割り振るようにしました。

 それから、座学用教本の執筆。現在使用している教本の半分以上は、彼が口述筆記した内容に手を加えたものです。

 それから、複数のパーティを少数の教官で見る、迷宮内での実習スタイルの確立。

 それから……」

「ちょ、ちょっと待ってください!

 それ、全部、たった一人でやったっていうんですか!」

「それがね。

 嘘みたいなはなしなんですが、実際にほとんど彼一人でやったようなもんですよ。わたしたちは、彼がやり残した細かいことを埋めて、より完璧なものに仕上げようとしてきただけ。

 それも、彼が教官としてここで仕事をしたのは、わずか一ヶ月にも満たない短い期間でしかなくて……たまたま同時期、彼のそばに居合わせていたわたしたちも、みんな、内心では毎日、唖然としておりました」


「……だからですね、ぼっち王さん。

 あんたみたいな特別なのは滅多にいやしないんだから、うちの部隊では、自分は凡人でちっとも特別なところなぞない、ってことをまずまっさきに徹底して思い知らすわけです。

 そこから、凡人がどうしたら自分より優秀な存在を確実にしとめられるのか、徹底的に体にしみこませる。

 一番確実なのは、多数で少数、できることなら単一の敵をおし包んで、一斉に襲うことですな。

 ぼっち王さんみたいな特別でなければ、全部の攻撃を捌ききる、なんてことは、まずできない。本来なら、まず、失敗することはありません」

「基本的な戦術としては、パーティでの上手な戦い方と、かなり似通ってますね。

 ただ、うちのところじゃ、どうしても練度が不足しているんで、そちらの部隊ほどに精緻な連携ができるようになるまで、仕上げられませんけど……」

「でしょう?

 おれも、おれたちも仰天したんですけどね、あなた方のギルドが用意したあの教本、あれの原理や精神は、どうにもおれたちの発想や思想とかと通底するものがある。

 もちろん、想定される戦場の環境などがかなり異なりますから、違うところはかなり違うんですが……。

 それでも、妙な親近感は、抱いてしまいます。

 こちらのギルドの方は、どうにもたいした学者先生に執筆を依頼したのではないかと……」

「……あー。

 あの、教本……かぁ……。

 あれの半分くらいは、間に合わせに、おれがでっち上げたようなもんなんですけど……」

「……へ?」

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