34.ぎゃらりーたち。
迷宮内、修練所某所。
「……ふんっ!
ふんっ!」
「おい、あんた。
さっきからやってんの、それ、宗教的な儀式かなにかか?」
「これはな、スクワットといって、足腰を鍛えるためにおこなう運動だ。
余の体重であると、急激に走ったりすると膝を痛めたりするからな。
それに、自分の体重がそのまま加重となるこの手の運動は、余にとっては効率的でもある」
「ははは、馬鹿な。
そんなタコ踊りみたいなのが鍛錬だっていうのか?」
「疑うのなら、自分でも試してみるとよい。
そうさな。
百回、休まず連続で続けられれるものならば、銀貨一枚を贈呈しよう」
「おい! 本当か?」
「聞いたか?」
「お、おい!
誰でもいいんだよな、その、連続百回ができれば!」
「ああ、出来るのならば、喜んで贈呈しよう。
ふう。
現状、余は連続二十回が限度であるがな。
さて、余はここで休憩だ」
「お、おい。
回数を誤魔化すのはナシだからな!」
「おう!」
「では、全員でいっせいに、数えながらいくぞ!」
「なんなら、最初に誰が根をあげるか賭けるか?」
「いいな、それ」
「「「「「……いぃーち。にぃーい……」」」」」
中略。
「な、なかなか、きついな……これ……」
「た、確かに……見た目より……」
「鍛錬には、なりそうな……」
「「「「「……ごじゅう、ご。ごじゅう…ろく……」」」」」
「駄目だぁあっ!」
「ひ、ひざが、いうことを聞いてくれねえ!」
「お、おれは、まだ……」
「「「……はちじゅ……く。きゅう……じゅう!……」」」
「ぷはぁ!
限界だぁっ!」
「は、は、口ほどにも……たぁ!」
「ほい、尻餅をついたな!
失格!」
「……うぉぉぉっ!
きゅうじゅう……いちぃ!」
「お、ペデクの野郎、最後まで残ったか!」
「これは……いけるのか!」
「きゅうじゅっ! ……にぃ!」
「「「「おお!」」」」
「きゅうっ! じゅっ! ……さぁ……」
「「「「いけぇー!」」」」
「……だはぁ!」
「「「「……あっ。
潰れた」」」」
「ふむ。
連続百回に到達する者は、おらなんだか。
無理もない。
そのような甲冑をつけたままではの」
「お、おい。
あんた、今度はなんの真似を……。
そんな、地面に這いつくばって……」
「ふむ。
これはな。
腕立てといって、腕と、それに肩や背中の筋肉を鍛えるための……」
迷宮内、修練所某所。
「ティリ様、入り口前の広場で、教官たちがお客様と模擬戦してるってさ。
これからみんなでいってみない?」
「模擬戦であるか。
だが、教官たちもなかなかの手練れ、相手によっては……」
「それがね、王国軍の精鋭だってふれこみで……」
「いく!」
迷宮内、修練所某所。
「……うぉー。
体中の筋肉が、ピクピクひきつってら」
「確かに、今までの修練とはまた別のきつさがあるな、これ」
「こわばっている箇所は、寝る前によく揉みほぐしておくこと。暖めて血行をおくしておくと、なおよい。
で、なければ、翌朝起きたとき、覿面に筋肉痛となるであろう。
それから……運動の後には良質のタンパク質……肉や卵、豆類を多めに摂取すると、効率的に筋肉をつけることができる」
「あんた、いろいろなことを知ってるんだな」
「前世の知識である」
「前世の?
やっぱり宗教関係なんかな?」
「効果があれば、どうでもいいさ。
おれは、はやく冒険者になって賞金を荒稼ぎしたいんだ」
「おれも、前衛やるには筋力が不足しているって評価だからな。
短期間で体が作れるのなら、それに越したことはない」
「お、おい!
うちの教官たちが、前の広場でお客人と模擬戦やっているぞ!」
「なんだよ、いつものこっちゃないか……」
「そ、それがだな。
五分の勝負か、教官たちの方が負け越しなんだてよ!」
「なにぃ!」
「それは見物だな!」
「いくか!」
「おう、いくいく!」
「……ふむ。
この世界の、高いレベル者同士の戦いか……。
参考までに、見学をしておくか……」
迷宮前広場。
「……で、どんな様子だ」
「個人戦は、だいたいのことろ、教官たちが優勢なんだが……」
「パーティ戦になると、とたんに旗色が悪くなるな」
「どんだけ修練したら、あんなにきわどいを連携ができることになるのか……」
「さすがは王国軍、練度が半端ねえよ」
「っていうか、あれ、少しでもタイミングがずれれば、味方ごとやっちまわねえ?」
「マジで、紙一重のタイミングだからな」
「ほれ、みてみろ。
向こうは全員で一人に対し、一斉に襲いかかってくるんだ。一人二人はうまく捌けたとしても、残りすべての攻撃を避けるきることは、まずできない」
「なんか……気迫からして、別物って感じだな」
「特にメイド組の教官たちは、実戦慣れしていないところがあるからな」
「個々人の技巧を比べるなら、さして変わらない……というか、正直、うちの教官のが上の気がするんだが……」
「向こうは、相手を確実に潰すことに特化しているような」
「だな。
武芸のための武芸と、確実に結果を出すための連携との差、というか……」
「ティリ様、見えますか?」
「見える。
ほう……珍しい武器を使っておるな。
あの短剣……刃が、飛び出すのか。
一発勝負の、トリッキーな仕掛けじゃの」
「あっ。
飛び出した刃から、なにか細長いものが……」
「……ふむ。
紐状の……おそらく強靱な、なにか、なのであろうな。
巻きついて、皮膚を切り裂いたり動きを封じたりするものとみた。
あの紐状のは、視認しにくいゆえ、かなり避けにくいはずである」
「あの槍、真ん中から折れて、二本の槍になりました」
「これまた、一度限りしか通用しない、奇態な仕掛けを。
確かに、最初の一度限りは驚くし、効果はあるのであろうが……。
こちらの教官たちは多くが正当派の武芸を嗜んでいる身、そのような生半可な小細工は、まず通用せぬと思うが……」
「実際、一対一では、ほとんどうちの教官たちが勝ち越してますね」
「で、あろう。
あの手の目くらましが通用するのは、場慣れしていない者が相手の時にかぎる」
「でも……パーティ戦だと、途端に旗色が悪く……」
「おお、左様であるか。
それは一つ、この目で確かめて見ねばの」
「ふむ。
全員で、一人一人をタコ殴りであるか。
戦力比を自在に調整する個別撃破は戦略の基本。極めて正統的かつな効果的な戦い方ではある。
もっとも、あれほど緻密な連携をとれるとなると、あの者たちもかなりの研鑽を積んできたことであろう」
「うちの教官たち、パーティ単位での戦闘、あまり経験ない人も多いですものね」
「普段、教える立場だからね。
自分たち自身の修練なんか、する必要も時間も、あまりないはずだし……」
「みて。
なんか、セルニ教官が、冒険者を連れてきたよ。
助っ人かな?」
「細い見慣れない装備の女の人と……背が低い、頭のてっぺんから顔の上半分を隠すような、のっぺりした変わった兜をかぶった人。
どっちも、見た目的には、あんまり強そうじゃないんだけど……」
「なに、あんた知らないの、あれは、シナク教官っていって……あ。今は教官じゃあないんだった」
「とにかく!
このギルドでも一、二を争う凄腕の冒険者!」
「適性ランクがとんでもないことになっているとか……」
「最初の大量発生のとき、千体以上のモンスターを一人で片づけたとか……」
「事務方筆頭の信頼がめちゃ厚いとか……いろいろ、噂があるけど……」
「ふふん。
まあ、みているがよい。
わらわのシナクが、どれほどのものか……」
「「「「「……わらわのシナク?……」」」」」
「「「「「……え?
六人、一度に相手にして……ほぼ、瞬殺?」」」」」