33.こっちとあっちのたたかいたがり。
迷宮内、管制所付近。
「一日で、二十七体。それも、全部大型だ。
かなり上首尾な日になりましたね」
「二人で賞金を分けるにせよ、かなりの高額になるな。
やはり、おぬしと組んで正解であったぞ、シナク。
拙者も、これでようやくこの刃に術式を刻む決心がついた」
「おお、リンナさんも、ついにやりますか」
「ああ、やるとも。
シナクが使いこなしているのを間近で見ると、どうにも自分でも使って見たくなってな。
ことに拙者は、ほぼ同一の得物を二本、所持しておる。
それぞれに、別種の術式を刻んでみようかと考えておる」
「ひとつは従来ので、もうひとつはリンナさんオリジナルのですか?」
「シナクのものと同じ術式に、若干のアレンジを加えたものと、この拙者自らが考案したものの二種となるな」
「ほう、そいつは面白そうだ。
リンナさんは、自分で術式を作れるからな」
「だから、おぬしも魔法を学んでみよと、以前よりもうしているではないか」
「で、オリジナルってのは、どんなのを考えているんです?」
「仕上がってからのお楽しみ……といっても良いのだが、実は……」
「……すいません!
シナク教官……じゃなかった、シナクさん!」
「……あれ? セルニさん?
珍しいですね、こっちまで出てくるの」
「それどころじゃないんです!
ちょっと、修練所が大変なことになっているんで、来てください!」
「え?」
「なんとぉ!」
「……ちょっと、リンナさん。
なんかいきなり、テンション高くなっていませんか?」
「いいか、シナク。
おぬしもであるが、教練所といえば、拙者とて無関係ではない。
セルニよ、はよ案内せい!」
「ああ、この人……。
面白がりモードに入っちまった……」
迷宮前広場。
「……で、その王国のナントカって小隊長さんが、挨拶にて……」
「教官どもと挨拶しあって、五分五分で、もう少しで負け越すから、助っ人に来て欲しい、と……」
「……はぁ」
「ほほう!」
「なんでそんなに、嬉しそう顔をしているですか、リンナさん」
「なぜにそのような、幸薄い顔をしておるのかの、シナク」
「……」
「……」
「そんなに浮かれていらっしゃるんなら、今回はリンナさんに譲りますよ。
その、王国軍のお相手」
「直々に相手をしたいのは山々であるが、まだ体も本調子ではないことだしの。
今回は、シナクに任せることとしよう」
「……この人は……」
「ということで、セルニさんに呼ばれてきましたが……どんなもんですか? 戦況は?」
「二十七勝二十七敗、二引き分けだな」
「……模擬戦、三十回近くやったんですか?
おおかた、いい勝負すぎて、どっちも引くに引けなくて、ずるずる長引いたんでしょう?」
「……そんなことは、ないぞ」
「はいはい。
そういうことにしておきましょう。
で、ダリルさんご自身は、どうだったんです?」
「個人戦では、負けなかった」
「つまり、パーティ戦では負けた、と」
「し、仕方がないのだ!
敵は、奇妙な、間合いの読みづらい武器を使って、おまけに、複数での乱戦になると絶妙な呼吸で……」
「そら、聞けば、軍の特殊な部隊だってはなしだ。
連携やらはお手の物だろうし、練度高いでしょうよ。
どうです? リンナさん。
これだけの相手でも、自分で出ようって気にはなりませんか?」
「だれぞ、魔法を使えるのが出てくるのであれば、考えないこともない」
「さいで。
では……早速、いきますかねえ」
「というわけで、急遽参戦することとなった冒険者のシナクです。
一時、教官をやった経験もあるので、まったくの無関係というわけでもありません」
「いやいや、誰が相手でも結構でございますよ。
こちらを楽しませていただければ……」
「……どっかで、見たような顔だな。
セルニさん。
あれが、なんとかって小隊長さん?」
「ええ、そうです。
有名というか、悪名高いというか……戦争上手と評判です。
ちなみに、あの方は今まで一度も参戦していらっしゃいません」
「なるほど。手の内を隠しているのかな?
ええ、こちらも仕事帰りにこちらに呼ばれましたもので、手っ取り早く済ませることにいたしましょう。
聞くところによると、みなさんは複数での連携を得意となさるようで……そうですね、六人同時に、お相手させていただきましょう」
「おいおい、シナクさんとやら、そいつは……」
「野盗狩りのグリハムともあろう者が、たった一人の冒険者に臆するのか!」
「……ちょ、リンナさん!
ここでその煽りは……」
「……ほぉ……。
そこまで自信がおありですか?
ようがす。こちらも一流どころを揃えましょう。
デガズ、ファロ、ムウェイ、ズク、ダハロ、トリネ、出ろ!」
「……あーあ。
いわんこっちゃない。
向こうさん、妙にやる気になってるじゃないか……」
「シナクよ。
それは、おぬし一人で六人を相手にしようともうしたときから決まっている道程であると思うが……」
「まあ、いいや。
面倒なことはさっさと終わらすに限る。
じゃあ……いつでも合図なさってくださいよ!」
「……はじめ!」
ひゅんっ。
がっ!
がっ!
「なっ!
ムウェイが一撃で……」
「は、は。
線条つきナイフ使いが、まず沈没」
ごうっ!
キン!
「よっ……とぉ!」
キン!
キン!
ひゅんっ。
「はは、やるやる。
ファロの槍を跳ね上げ、さらに槍の柄から切り離された仕込みまではじき、おまけに、ムウェイの線条を、ファロに巻きつけて身動きを封じ……」
「よっ!」
「なにっ!」
がっ!
「ファロの足元を横合いから払って、ファロの背後から迫っていたダハロの水月に、ムウェイをしとめたのと同じ投げ短剣が直撃。
あら、ダハロでなくても避けきれねーや……」
キン!
「背中に斬り込んできたデガズの一撃を、首ひとつ揺らすことなく、鞘にいれたままの曲刀で受け止め……」
だん!
「トリネの棍を、短剣で受け……じゃねえ! 斬って!」
「よっ」
ぼす。
「勢い余ったトリネのうなじに肘を落として、すでに地面に横になっているファロの上にたたき落とし、振り返りぎわに……」
きん!
「斬撃を受け止められ、姿勢が不安定になっていたデガズの剣を、短剣で根本から折りーの……。
あの短剣、なんてぇ業物だよ……」
ぶぉん!
がっ!
「はは。
あの短剣でも、さすがにズクの大剣は斬れなかったか。
でも、受け止め……」
がっ!
「すかさず、曲刀の鞘でズクの手首を打ち、大剣を落とす。
あ。これ、もう詰んだな。
無事な二人は、そろって無手だ」
がっ!
がっ!
「へぇ。
器用なもんだ。
両手で一本づつ、投げ短剣を残った二人、デガズとズクの水月に当てたよ。
これでうちの小隊から出した六人、全員、見事に沈んだ。
いやあ、ざまぁねーなぁ……。
これでも全員、うちの小隊の中ではできる方なんだが……。
ちょうどいい機会だ。
鍛え直しだなあ、全員。
しかしまあ、シナクさんとやら、あんた、すごいねえ。
こういっちゃあなんだが、うちの六人を相手に、鞘にいれたままの曲刀を使ったり、投げ短剣も、わざわざ甲冑で守られた水月を狙うくらいに余裕がおありでいらっしゃる。
あんたぁ、いったい……どれほどの、修羅場を潜ってきなさったね?」
「そんなたいそうなもんでもありませんがね。
さっさとケリをつけたかったので、最短で終わることを目標に、ちょっと頑張ってみただけのことです」
「ちょっと頑張ったくらいで、うちのが六人ものされちゃあ、こっちの面目が丸潰れもいいところなんですが……。
なに、こっちも、これからこちらにお世話になるわけですから、頼もしいことだとポジティブに思うことにいたしましょう。
シナクさんとやら。あんたもさぞかし、名のある冒険者なのでしょうなあ」
「あー。
そういや、仲間うちでは、ぼっち王とか呼ばれているそうっすね」