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7.あるひのつうじょうぎょうむ。

「さて、っと……」

「火矢の準備……。

 綿に油しみこませて、火をつけて……。

 よっ」


 ひゅん。


「おし。

 火も消えてないし、なにも出てこない。

 あそこまでは吸える空気があって、遭遇戦がないってこったな。

 地図を書いて……」

「ちょっとだけど勾配になっているくさいな。上に向かっている。

 この道は、水にぶつかる心配はないかな?

 まあ、先に行ってみなけりゃどうなっているのかわからんわけだが」


「おー……。

 火矢の火、まだ燃え尽きていない。薬師のじいさんから調達した綿、不燃性だっていってたけど本当だったな。じいさんも、どっからこんなものを調達してくるんだか……」

「いったん、足で踏んで火を消して……。

 もう一度、油を含ませて、っと……」


 ひゅん。


「半弓だと飛距離がいまいちだな。

 かといって、もっとデカくすると持ち運びや取り回しに苦労するし、迷宮の中では暗すぎて射程距離はあんま必要ないし、これはこれでいいのか」

「地図地図。

 この、調査手数料ってのが、なかなかどうして馬鹿にならんのだよな。単価はさほどでもないけど、距離を稼ぐと結構なあがりになる。

 粋がって手強いやつを討伐するリスクよりも、こういう仕事をコツコツと積み上げてくのが長生きの秘訣、っと……」


「なんか、天井が低くなっているし、道幅も狭くなっているような……。

 どんづまりかな? これは……」

「もともと鉱山でまともな地図がないって話しだけど……どうも、ここで働いていた鉱夫たちのはなしを聞くと、当時とは微妙に中の様子が違ってきている、ってことなんだよな。それも、奥にいけばいくほど、変化が激しくなる」

「もともとは、坑道の奥から出てくるモンスターをどうにかしろってことで、探索と討伐の仕事がギルドに依頼されて……でも、根本的な解決にはいたらず今にいたる」

「おれがここに来たのも、噂を聞いて、ここに来ればしばらくは食いっぱぐれはなさそうだと思ったからだし……」


「それにしても、冒険者の生還率の悪さには驚いた。

 あいつら馬鹿か。馬鹿なのか。

 いや、馬鹿でなけりゃ、冒険者なんてつぶしの効かない職にはつかないか」

「武装を減らしてでも、余分な食料と水、各種の薬品を携帯しておく。

 とくにはじめての場所では、慎重に行動する。

 モンスターに遭遇した際、使えるものは毒でも発破でも使う。

 勝つことよりも生き延びることを優先する。

 逃げることを恥とは思わない」

「たったこれだけのことを心がけるだけで、生還率はぐっとあがるはずなんだ」

「おれがこっちに流れ着いたとき、迷宮内の情報を交換しようと持ちかけても、ほとんど無視されたからな。

 競争意識が強いのは、ある面ではいい傾向ではあるんだが……」


「おお。

 どんづまりではなく、今度は四つ叉になったか……道は、さらに狭く、低くなって……。

 三つ叉のところはまだしも広さがあったんだが、こっちはちょっと狭い道がなんの芸もなく分かれているだけ……」


「右から順番に見てくか」


 ひゅん。


「と。

 でた。でましたよ。

 壁といわず天井といわず虫……百足? がびっちり。

 えっと……虫除けを、入り口にこう、並べて……」

「うん。

 風向きも、ちょうと道の奥の方に向かっているみたいだ。ってことは、風が抜けるような穴が、この奥にあるのかな。

 で、虫除けに……火をつけて……っと」

「おお。

 ちゃんと煙が奥に向かっている。こんなところで虫除けの煙にまかれて窒息、なんてことになったら目もあてられないからな」

「うん。

 百足もどきがこの道から出てくる様子もないようだな。

 念のため、虫除けが燃え尽きるまで、この道は放置しておこう」


「次、右から二番目」


 ひゅん。


「おし。なにもいないみたいだな。

 昨日みたいな大当たりの日のが珍しいといえば珍しいんだが……」

「そういや、この迷宮にいるモンスターたちって、いったいなにを食っていきているんかな?

 やたら数が多かったり、図体がでかかったりするんだが、こんな迷宮の中であんなやつらを養えるほどの養分があるとも思えん。

 やっぱ、前にルリーカがいっていた、誰かが転移魔法陣を設置している説、なのかな?」

「おれあたりがこんなところでそんなことを考えたところで、なんの解決にもなりませんかそうですか」

「今日は、道じたいが狭いから今日みたいな大物に出くわすわけがないし、その意味では安心なんだが……」


 ひゅん。


「しばらく、一本道が続きますね。

 単調でも結構。安全第一。

 地図を書くだけの簡単なお仕事です、っと」


 ひゅん。


「しかしまあ、昨日が昨日だったから、こんだけなんにもないとかえって不安になるなあ」


 ひゅん。


「おっ」

「今、なんかいたな。火矢が通過する一瞬、なんか動いた。

 燐光弾に、火をつけて、っと……ほいっ」

「おやまあ。ヘビだヘビ。

 かなーりデカいし太いし黒光りしているよ。

 鎌首もたげてこっちを威嚇している。

 距離があるし、動きもさほど素早くなさそうだから、対応できないこともなさそうだが……」

「……じいさんから貰った爬虫類除け、試してみるかな。

 戦闘を避けられるのなら、避けるに越したことはない」

「火をつけて……ほいっ」

「おお。いやそうにのたうち回っている。

 効くことは効くんだな。

 これで逃げてくれるといいんだけど……って、なんでこっちに向かってくるんだよっ!

 爬虫類除け、追加!

 ほい、ほい、ほいっ! っと……。

 で、おれは……脱兎ぉ!」


「だー!

 戦意マンタンでこっちに寄って来やがる。

 なんで奥にいかないかなー」

「しゃあねー。

 迎撃するしかねーか。

 燐光弾、よし!

 で、半弓!」

「……弾かれた。

 かっー! 意外に鱗硬ぇー!」

「こうなりゃ、やりたくないけど接近戦だゴラァ!」


「へいへい!

 来るなら来い、って……来た!

 ところに、ナイフを投げつつ避ける!」

「はい、片目潰れた」

「怒っているな怒ってますね。

 はいはいはい。

 威嚇はいいから来るなら来やがれ……っとぉ!

 ちょっと斬ったけど、今のは浅かったな」

「今度はちょっと慎重になっていますね? そうすっと、動きが鈍るから……ほいっ!

 これで、両目が潰れた!」

「おうおう。

 のたうちまわっているのたうちまわっている。

そうしている間にも、お前は体力削っていくんだ」

「少し、静かになったな。

 でも近寄ると、しゃーっと威嚇してくる。目が見えなくてもなんとなくわかるもんだな」

「でも、まあ……。

 一気に距離をつめて、ざっと斬って、ぱっと離れれば……」

「うん。

 こちらはノーダメージで、なんとかいける」

「どだい、野生動物と人間がまともに渡り合おうってのが無茶なんだ。

 何よりも重要なのは、まずは逃げ足。それと、少々の頭」

「だからおれは焦らない。虚勢を張らない。

 その場で出来ることをコツコツ積み上げて……」


「ふう」

「ようやく、息絶えた。

 図体がデカいだけあって、しぶとかったなあ」


「……ぼちぼち、飯にするか。

 血の匂いが充満しているから、四つ叉のところまで引き返そう。百足もどきの道がどうなったのか、様子もみたいし……」

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