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29.かれらはそれぞれかってにうごく。

 迷宮内、パーティ募集掲示板前。

「おお、おお。

 案の定、賑わっているなあ」

「無理もなかろう。

 大量発生の影響で、欠員が出たパーティが多いのでな」

「負傷者のほとんどが多数の打撲、たまに骨折だってな。

 軽傷っていやあ軽傷だけど、完治するまで数日は動かない方がいいってか?」

「今回から傷害保険、とかいうものが適応され、ある程度の補償金が出るから、無理して仕事にいこうとするものはほとんどいないようじゃな」

「まあ、怪我をしたら実入りがまったくないのと、それなりの金額であるとはいえ日割り計算でいくらかもらえるのとでは、気分的にもまるで違いますからね」

「それに、気分的にも、いぜんよりずっと気軽になってきているようじゃな」

「パーティメンバーを変えることに対して、心理的な敷居が低くなってきているのか……。

 徐々に、前の逮捕劇とか、ここの研修生あがりの冒険者が増えてきたこととか、いろいろな要因が重なって……ってところだろうな。

 以前よりドライになってきたというか……戦力は戦力として、使える人材なら躊躇なく仲間として迎え入れる気風がでてきた」

「他の土地の冒険者では、ちょっと考えられないことになってきておるな。

 どれ、われらも早速、このパーティで今日の仕事にかかるとするか」

「……今日も、二人でいくんすか? リンナさん」

「当然であろう。

 ソロの危険性は、シナクとて心得ておるではないか。加えて、シナクの足に追いつける冒険者は、現状、この拙者しかおらん。

 ゆえに、この二人が組むのは必定」

「……はいはい。

 あー、もう。

 この人も、いいだしたら聞かないからなあ……」


 迷宮内、管制所。

「今日はもう、通常通りの仕事、あるの?」

「あっ、シナクさん、リンナさん、おはようございます。

 ええ。

 部分的に復活、っていうところですかね?

 とはいえ、大量発生の後片づけにまだまだ人手を取られるんで、適性ランクが低い方はできるだけそっちにいくよう、案内をさせてもらってます。研修を受けている新人さんたちにも声をかけてもらってますけど……お二人ほどのランクなら、逆に探索の方にいってもらわないとギルドとしても損失になるので、いつも通りにお願いします。

 こちらが、今日の分の開始地点になります」

「はい、どうも。

 昨日はやけに静まりかえっていたけど、今日のエンカウント率はどうなるかなー……」


 迷宮内、後片づけ作業現場。

「……でなー。

 これが前の大量発生モンスターの卵から生まれたやつらでなー……」

「おお、カラフルで愛らしいのう。

 名は、なんというのか?」

「まだなー。

 正式には、命名されないけどなー。

 鳥と蜥蜴の中間にいる生き物だからなー。

 おれたちはトリトカゲと呼んでいるなー」

「トリトカゲ、か。

 これは、虫以外のものも食べるのか?」

「虫や肉が好きだけど、草や木の芽も食べるなー。

 迷宮内で餌が見つからないときは、肥料に回すモンスターの内蔵を分けてもらっているなー」

「そうかそうか。雑食か。

 これはまだ、子どもなのじゃな?」

「これくらいまで、大きくなるなー。

 これの羽根は扇子とかにすると、いろどりが綺麗でかなり高く売れるなー。

 ギルドも繁殖することに、賛成してくれたなー」

「……うむ。

 大きさとしては、微妙なところじゃな。

 これらは、足は速いのか?

 鞍をしつらえれば、体重の軽い女子どもであれば乗れるのではないか?」

「足は速いし、二本足で走るせいか、小回りが効くなー。

 いわれてみれば、迷宮内の移動にはうってつけなー。

 鞍なー。

 こいつらが大きくなるまでに手配して、試してみるなー」


 「ティリ様ー!

  いつまでもさぼってないで、お仕事してくださーい!」


「いかんいかん。

 正道に戻らねばな。

 では、ダウドロ家の末子とやら、なかなかに興味深いはなしであった。

 このままいけばこのわららも遠からず冒険者となる身、いずれまた会うこともあろう。

 そのときまで壮健であれ」

「皇女のねーちゃん、またなー」


 迷宮内某所。

「……あれ?

 人狼のおっさんじゃないか。どうしたんだ? こんなところで?

 ってか、ギルドの人は、こっちには誰もいないっていってたけど……」

「ああ。

 まあ、いろいろ、思うところがあってな。

 気晴らしに、ときおりギルドを通さずに迷宮に潜っているんだよ。

 ところでおめえ……いつ、ソロをやめたんだ?」

「ま、成り行きってやつでな。

 この人の強引さに、押し切られた形だ」

「魔法剣の、か。

 そういや、あんた……生き返ったってはなしだったな」

「正確にいうと、生き返ったわけではないのだがな、人狼の。

 しかし、こちらのも……前のと、たいしてかわりばえがしないものじゃのう」

「例の、別の世界とかいう戯れ言か?

 本当か嘘か知らねえ、詮索するつもりもないが……知らない間に、この迷宮も複雑なことになってきているよな……。

 以前は、強いやつが儲ける、弱いやつが死ぬ。

 実に、シンプルな世界だったもんだが……今ではギルドが変に出張っちまって、ごちゃごちゃと細かい取り決めばかりが増えやがる」

「だが、そのおかげで死人はほとんど出なくなった」

「それも一つの成果ではあるんだろうがね。

 おれみたいなシンプルな男には、ちょいと今の迷宮は、複雑すぎるのさ」

「おぬしがかわりばえしないといった前言な。あれは、訂正する。

 拙者が知る人狼のゼニッツァーはどこまでもふてぶてしく、そんな気弱なことを口にするタマではなかった」

「はは。

 違いない。

 らしくないことは、自分でもわかってるんだがな……。

 ま、お二人さん。

 せいぜい、仕事に励めや……」


 王国軍野営地、某所。

「聞いたか?

 あの不気味な双子の魔法使いの噂」

「魔法兵の頭だっていう、あいつらのことか?」

「昨日、珍しく二人して外に……ギルドとの会談に、ヘレドラリク卿に随行していったんだが……」

「別に、不思議ではないだろう。

 あれでも、軍の高級将校扱いだからな」

「いったのは不思議ではなくとも、帰ってきたのは不思議さ。

 何せ、女の方だけが……何十歳も年を取ったように、皺くちゃになって戻ってきたとよ。

 フードを目深に被って隠そうとしたが、隠しきれなかったらしく、何人もの兵が目撃している」

「なんだそりゃ?

 別人と、見間違えたんじゃないのか?」

「だと、いいんだけどな」

「なにしろ、魔法使いのことだ。

 なにがあっても不思議ではない」

「塔の魔女と術比べをして負けた結果だと、噂するやつもいる」

「塔の魔女?」

「この近くに隠棲している、どえらい魔女らしい。

 あの賢者様が一目みて、感激してボロ泣きしたくらい、えらい魔女様ってはなしだ」

「あの賢者様がか!」

「そんだけ偉いのに不老不死、外見は長身巨乳サド目のキリっとしたいい女らしいな」

「なんで、そんなに詳しいんだ?」

「ヘレドラリク卿に随行した護衛経由でな、ぱーっと広まった。

 その魔女様、どうやら、ギルドとの会見の場に現れて、あの双子をやりこめた後、ヘレドラリク卿の作戦にも物言いをつけたらしいぞ」

「隠棲しているといいつつ、えらく俗事にかまける魔女様だな」

「なんでも、迷宮に多大な関心を寄せているそうだ。

 それで、迷宮攻略に関しても、軍よりはギルドのやり方をよしとしていらっしゃるらしい」

「その人、そんなに偉いのか?」

「昨日、巨大なゴーレムがすぐそこに、いきなり立っていたろ。

 それも、その魔女様が軍を脅すためにやったことらしい」

「あれを、やったのか。

 そりゃ……軍の魔法使いなざ目ではないくらい、すごいな……」

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