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28.らんく・おーるDからのすたーと。

 迷宮内、第二食堂。

「うむ。

 食堂内は、実質、食べ放題のシステムというておったな。これは、これからのことを考えると、ありがたい。

 メニューは……タンパク質が多めで、野菜類もたっぷりとれるものになっている。ビタミンや繊維質も充分に摂取できる。おそらく、経験規として学んだ結果がなのであろうが、きわめて理に適ったメニューだ。

 これもまた、実にありがたい」

「……なに、意味の分からないことをいってやがるんだ、この新入り!」

「はて、貴殿は? 失礼だが、ご尊名を思い出せぬ。

 以前、どこぞで挨拶をかわしたことがあっただろうか?」

「ご期待にそえず申し訳ねーが、はじめてみる顔だよ!

 はん!

 ご尊名、だと?

 すかしやがって!」

「そのような大声をはりあげなくとも貴公の声は聞こえておる。それにこの食堂は公共の場、そのような大声をあげては礼法にもとるというもの。もそっと、音量を自重なされ。

 ほれ、周囲の者どもが怯えているではないか……」

「お前が怯えろよ!」

「余が?

 なにゆえ?」

「おれが脅しているからだよ!」

「おお、貴殿の狙いはそこにあったのか!

 いや、理解した理解した。

 そういえば貴殿、失礼を承知で申し上げるが、

確かにあまりにも粗末な身なりをしておるな。そうであったそうであった。こちらではまだまだ貧富の差が激しかったのだったな。あと数年も待てばこの余が前世の記憶を利用して大改革を断行しご都合主義的に国全体を富ませることになっておる。しばし待たれよ。いや、待たせるのも気の毒であるな。なにより貴殿は、今、ここで金子を切実に欲しているわけである。よかろう。どのみち余には幸いにして経済的にはよほど恵まれておる。何もいわずにこの金子をとっておけ。なに、これは施しや善行などではなく、これからはじまる余の快進撃の先取り予告編にすぎん。へたに遠慮する必要はないぞ。うん」

「……な……な……」


 「……すげぇ……」

 「おれ、金貨なんてはじめてみた」

 「あの強面のガダル、がやりこめられてる」

 「ぷ。

  カツアゲにいったら逆に憐れまれたでござる」


「な……な……」

「うむ。声もでぬほど感激しておられるか。いや、感謝の言葉なぞ無用。むしろこのような子細なことしかできぬ余の不甲斐なさをこちらが詫びたいくらいの気持ちである。

 では、余はこれから食事を摂ってこれからはじまる快進撃へ備えねばならぬ。名も知らぬ貴殿よ。これからも息災であれ」

「……ちょっと待てやこらぁ!」

「はて、まだ余に何用かあるのか?

 おお。そうか、まだ金子が足りぬの申すか。だがこの先、他に窮状にある者に遭遇しないとも限らぬし、余の持ち合わせも無尽蔵ではない。この世界の物価についてはあいにくと不案内であるのだが、今渡した金貨のみでのも庶民にとっては一家が一月以上暮らせるほどの金額であると聞いておる。よほどのことがなければそれでも十分に当座はしのげるはずであろう。あとは自力でなんとか……」

「……そういうことじゃあねーだろう、ごらぁ!

 お、お前ぇ……わけのわからん御託をながながとくっちゃべって、こ、このガダル様の顔を潰しやがって、このままじゃあ、どうにも腹の虫がおさまらねえ!」

「ああ。そういうことか。

 貴殿は金子を欲しておるのではなくストレスを解消するために弱い者をいたぶりたかったのだな。なるほどなるほど。確かに身なりがよく恰幅がよく、どうみても運動や戦闘に不向きそうに見える余は、そのような視点からみればかっこうの獲物であろう。わかったわかった。ようやく貴殿の狙いうところに合点がいった。その心性、心底下劣であると思うが、同時に、ここまで増えたギャラリーにあますところなく余のチート能力を披露する好機であるともいえる。よかろうよかろう。ガダルとやら、貴殿にその気があるのなら、渾身の力を持ってこの余を打ち据えるがよい。素手で武器でもかまわん。それで貴殿の気がすみ、余にとっても新しいフラグを立つ可能性が増える。両者にとってメリットがあることであるからして、へんに遠慮をすることはないぞ。うん」

「ちょ……調子の狂う野郎だな……。

 まあいい。

 殴っていいってんなら……」


 ゴンッ!


「……ぉがぁっ!」

「貴殿が余をどうにかしたいというのなら重畳、いつでも好きにするがよい。

 ただし、余の方は、貴殿の力ごときでは寸毫も傷つかぬ自信がある。

 この余の肌に攻撃を届かせた者はこの世でただ一人。余とは別種のチート能力を授かったあの男のみよ。

 余は生まれながらにして凡俗には手の届かない場所にいると思し召せ」

「こ、この……あいかわらず、わけのわからない……」


 「お、おい、ガダル!

  剣は、剣はやばいだろ!」

 「洒落ではすまされんぞ!」

 「みんなで一斉にガダルに飛びかかれ!」

 「教官だ! 教官を呼べ!」


「構わぬ!」

「……おっ……おめぇ……」

「やってみよ、ガダルとやら。

 この余がみずからやれと命じたのであるから、貴殿が罪に問われることはない。この余の発言は、この場にいる全員がはっきりと耳にしておる。余自身もまた、聞かれればそのまま、事実を証言することをここで誓おう」

「おめぇに、後があればなぁっ!」


 ガキィィンッ!


「な、なんで……」


 ガン!

 ガン!

 ガン!


「これこれ、そうムキになるものではない。

 そう力任せにぶつけるだけでは、その安物の刃が欠けるばかりだ。それどころか、最悪、ポッキリ折れてしまうかもしれん」

「この……ふざけやがって……この! この!」


 ガン!

 ガン!

 ガン!

 ガン!

 ガン!

 ガン!


 「お、おい……。

  なんであいつ……なますになってないだ?」

 「頭といわず胴体といわず……滅多打ちいしているのに……」

 「……あたってねーのか?

  ガダルの攻撃?」

 「でも……ガダルの野郎は、真っ赤な顔で汗まみれになっているし……」

 「ああ。

  とうてい……芝居をしているようにはみえないな……」


 ガキィンッ!


 「……あっ」

 「ガダルの剣が、折れた……」


「ガダルとやら。

 これで気は済んだか?」

「……はぁ、はぁ」

「ご覧の通り、余は生来の能力として、あらゆる攻撃をはねのける。

 しかし、逆に攻撃能力に関しては、大いに難がある。隠さずにいえば、ここに入るときの成績は適正オールDといういささか不名誉な出来であった。これよりその不名誉を払拭するため、筋トレに励まねばならぬ身でな。本音をいえば、一刻一秒でも惜しみたい気分である。

 余はこれよりたっぷり朝食をとり、鍛錬に勤しむ所存。これにて失礼させてもらうぞ。

 ふむ。

 実質、研修開始一日目の最初のイベントとしては、なかなかのシナリオであった。これにより余の、鉄壁王子の名もまた一層、広まることであろう」


 迷宮内、教官詰め所。

「……というようなことが、ついさきほど第二食堂であったらしい……」

「われらが駆けつけたときには、床に座り込んで茫然自失となっているガダルと黙々と食事を続けるルテリャスリ、ルテリャスリをこわごわと、遠巻きにして眺める他の研修生たちがあるばかりで……」

「どうやら……あのルテリャスリが王子本人であることは、これで確証がとれたわけだが……」

「名を騙ることはできても、あの特殊能力までは真似できんからな……」

「あれが王子本人である方が、むしろよっぽど頭がいたいな。いっそ偽物であれば、いくらでも対処のしようがあるのだが……」

「一番の問題は……本人の言動をみる限り、かなりまじめに研修を受け、冒険者になろうとしていることだ。

 あんなの……どう扱えばいいんだ?」

「まあ……普通の研修生として扱うより他、ないでしょう。

 うちでは、もっと偉い血筋の方も受け入れている前例があるし……」

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