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27.とおく、みえないたたかい。

 王都、某高級宿屋。

「お、来た来た」

「どっちからだ?」

「っと……両方、だな。

 どうやら向こうさんで大きな動きがあったらしい……」

「片方回せよ」

「あいよ。

 じゃあ、コニス嬢の方」

「ほい。

 ほお……包囲網の件、実行は可能な限り引き延ばすとよ」

「こっちは……二度目の大量発生、しかし、損害は軽微、死者なし負傷者多数……」

「その件は、コニス嬢の書簡でも触れているな。簡単に、だけど。

 詳しいことはギルドから知らされるでしょうから、概略だけにとどめます、とよ」

「そのギルドからの要望な。

 紙が、まだまだ足りないとよ」

「……うーん。

 わからんでもないんだが……」

「いっぺんに大量に買い付けると、物不足になって高騰するからなあ……」

「今まで通り、値に跳ね返らない程度に買いつけて送る。それより他、なかろう」

「なに、ギルドの渉外は、われら王都組だけではない。

 他にも同じ要望を出しているはずだから、案ずることもなかろう」

「派遣軍の規模は五万人を超える。

 軍人さんが日常的に消費する物資、それを専門に扱う商人の動きが激しくなるはずだから、これを機会に出資してみてはいかがか?

 だとよ」

「コニス嬢か。

 軍隊関係は既存の専門商がガチガチに固めているが……」

「……需要が急激に増大すると、これを商機とみて、無理な商売をしようとするやつも当然、出てくる。

 そういうのに狙いをつけて、資金の提供を持ちかければ、あるいは……」

「儲かる、な。

 場合によっては、乗っ取れる」

「こっちは……今、資金だけは潤沢だからな。

 確かに、遊ばせておく手はない」

「それ以上に、いざというとき……嫌がらせが、できるようになる」

「軍需物資の値段操作や……」

「搬送時に、わざと遅らせるとか……」

「これも、カードの一枚になりえるな」

「なにより……巨額の資金を自分の裁量で動かせるんだ!

 商人としちゃあ、やりがいがあるってもんだ!」

「違いない。

 と……なんだ、こりゃ?」

「どうした?」

「あの無敵王子が派遣軍の総司令になったってことは知っているな?

 その王子が……どうやら、冒険者登録して迷宮の新入り用修練所入り、だとよ。どうやら……軍隊とは、完全に別行動をしているらしい。

 ギリスの嬢ちゃんも戸惑っている様子でな、王子になにか深い思惑だだかがあるんじゃないかって疑っててて、より詳細な王子についての情報を送るよう、要求してきている」

「あの、奇行と妄想で有名な無敵王子のこったからなあ……それぐらい、やりかねんと思ってしまうわけだが……」

「そういや、あの王子のこと、一応、公式には箝口令がしかれているから、王都以外にはあまり広まってなかったな」

「一応、高貴で噂好きなおれたちのお得意さま、貴族やら官僚やらの奥方様にも、王族の情報それとなくあたっておくか……」

「第一報としては、おれたちが知っている王子の奇行を書き連ねておけば大丈夫だろう」

「ま、万が一、なにか裏があってもなんだしな。

 慎重を期して、両方、やってこう」

「あと、派遣軍の動きだがな。

 町の周囲を、かなり精密に測量してきたそうだ」

「では……予測通り……」

「軍は……町ごと、迷宮の出口をいつでも閉鎖できるような、そんな防衛施設を建造するつもりだろう」

「他の地域に被害を広めない……という目的はわかるが……」

「……はは。

 町は見捨ててもいい、か……」

「それ以外にも……今日の会談で、迷宮に対して物量戦で無理に攻め込む作戦も提案されたそうだが……こっちはいろいろあって、なんとか叛意させることに成功したらしい」

「物量戦……目的さえ達成すれば、犠牲の大きさには頓着しない……いかにも、軍部が考えつきそうな方法だな」

「でも、迷宮を、町ごとぐりりと囲むとなると……かなりの規模になるな」

「数年がかりの造営だな」

「その前に、迷宮がおれたちギルドの手で完全に攻略されたりな」

「「「「「ははははははは」」」」」

「そうなったら、万々歳なんだが……建築用の資材が、大量に動くことになるな」

「やはり、買いつけや資金提供をしておくか?」

「ま、できる範囲でな。

 ただ、この資材に関しては……王都経由ではなく、大貴族に賄わせるのではないのか、との予測も書いてある」

「なるほど。

 派遣軍を放り出して無理に辞任し、行軍を遅らせたペナルティか。

 ありうるな」

「そうなると、資材の調達先が分散されることになるから……」

「出資先としては、ちょい、うまみがないな」

「むしろ……資材そのものより、搬送の方をねらうか?

 これだけ大規模な動きとなると……どうしたって、既存の便だけでは対応できないだろう」

「大重量、大量な物資の搬送に強い商会をでっち上げて、国内どこでも送りますよ、と軍に売り込みをかければ……」

「さいわい……今のおれたちは、並の商人なら何代身代を重ねても得られないような大金を、自由に使える状況にある」

「……やっちまうか?」

「やらないでか」

「具体案に移るか。

 まず必要なのは、規格化された、大きくて頑丈な荷車だ。箱型で、一度荷物を入れたら鍵を閉め、目的地につくまで開かない。これを、大量に作る」

「荷車を引く馬は代えるにしても……水路はどうする?」

「荷物の載せ替えをせずに、そのまま荷車を入れられるような船を造ればいい。

 積みおろしの時だけ船を深く沈める、とかそんな仕掛けが必要になるかもしれないが……」

「船も、荷車とセットで規格化するわけか!

 いや、それ、案外いけるかもしれん。

 初期費用こそかかるものの、その分、途中の荷の積みおろしでいちいち人手がいらなくなり、経費は軽減する」

「その荷車と船を、この国中に行き渡らせる、か……。

 案外、この件がなくとも、かなりいい商売になりそうだな」

「莫大なギルドの資金が使えりゃこそ、の案だがな」

「違いない。

 だが、国内……いや、場合によってはもっと広い範囲で効率的な輸送網を作り上げることができれば……使った資金なんざ、すぐに何倍にもなって帰って来るさ」

「運ぶ方法はそれでいいとしても……肝心の輸送網や関税を通過させる方法なんかも……」

「関所については、当初は軍用物資のみを扱えば、なんとかいけるんじゃないのか?」

「ま、お国の仕事、お国の荷物なわけだしな」

「輸送網については、幸い、おれたちギルドの渉外員は、王国中の主要都市にくまなく散らばっている。それも、高額な嗜好品を扱う関係もあって、かなりのお偉いさんと懇意にさせてもらっている。足並みを揃えれば、なんとでもなる。

 それに、なんといってもおれたちには、コニス嬢が貸してくれたこの転送筒を一つづつ持っている」

「最初のうちは、書簡くらいしか送れない、チンケなアイテムだと思っていたけど……」

「送り先が固定している不便さはあるものの……ギルドにある転送筒を経由すれば、国内各地とさほどタイムラグなしで連絡できる」

「なにより、どこよりもはやく、ほとんど時差なしで情報のやりとりをできるのは、強みだ」

「それこそ、競争相手を余裕で出し抜けるわけだからな」

「違いない」

「では、その強みを最大限に引き出すためにも、これまでに出たアイデアや意見を手早くまとめてギルドあてに送るぞ」

「搬送商会については、おれが言い出しっぺだからな。

 事業計画書、この場で仕上げるよ」

「ではおれは、軍需関係に資金を注入する件について」

「ならこっちは、王子様についての噂話なぞ、ざっとまとめておきますかね」

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