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25.それぞれに、うごくひとびと。

 迷宮内、男性用宿舎。

「……ドワーフだ……」

「え?

 ああ、地の民をみるのは、初めてですか?

 冒険者は稼げると思われているのか、最近、また地上に出てくる地の民が増えてきましてね。

 では、この寝台を使用してください。

 これで一通りの案内は済ませたと思いますが、なにか質問はありますか?」

「いや……そうだな。

 教練や座学の講義は、好きに受けることができるのだな?」

「その通りです。

 修得したいスキルや知識、スケジュールなどのことも考慮して、あくまで自分で選択してください。

 ここでは、働きながら学んでいる研修生がほとんどですので、受講状況についてはあまり厳密にはチェックされていません。

 が、あまりにも長期間に渡ってなんの講習も受けていない場合には、寝台の使用料や食事代を後から請求される場合があります。

 また、研修が終わり、冒険者として独り立ちしてからも、それら必要経費を支払うことでここの施設を利用し続けることができます」

「うむ。

 食事や寝所を無料で提供するのは、冒険者になる覚悟がある者に限られる、ということか。

 冒険者ギルドが運営している以上、そうなるのだろうな」

「あとから質問やわからないことがあったら、通りかかった人たちに適当に声をかければ、たいがいは教えてもらえます。

 ここは今、雑多な場所からいろいろな人たちが集まってくる場所となっていますので、同期の互助精神が、比較的、厚くなっている。

 もちろん、全員が全員親切な人というわけにもいかず、たまには乱暴な人もいますから、気をつけてください」

「その点は、心配無用。

 何人も余を傷つけるに能わず。

 余は、そのようなチート能力の持ち主だ」

「は、はあ……。

 それでは、この先の健闘を祈ります」

「……いったか……。

 しかし、授業が完全選択制となると……クラスメートは、いなくなるわけか……。

 ふむ。

 フラグのたてどころが、一カ所、減るな……」


 王国軍野営地、某所。

「……てな次第で、うちの隊で、王国軍兵士を迷宮に送り込むための訓練を担当することになった。

 いやあ、休暇中の情報収集が、早速、役に立ったなあ……」

「質問、いいですか? 小隊長。

 ギルドとのはなしがついて、教材とか施設とか貸してくれるっていっても……自ずと、限界というものはあるわけでしょう?

 いくらなんでも、一気に百人単位の兵隊を送り込むわけにはいかないだろうし……」

「当たり前だ。

 そんな大勢で押し掛けたって、向こうだってパンクするだけだろ。

 それ以前に、そんな何百人も、おれたちだけで面倒を見切れるもんか。

 ま、まずは、向こうさんの新人向けの研修を、おれたちの隊で一通り受けてみる。

 その後、おれたちが、王国軍様式にアレンジした教練を、一般兵士に教え込む。

 そんな段取りで考えている」

「そんな規模で、いいんですか?

 それと、上の方から期限とかは、とくに切られていないんですか?」

「期限とか教育する人数とか、特にはなしに出なかったな。

 こういっちゃなんだが、上の人してみれば、おれたちの仕事は表向きのカモフラージュみたいなもんなんだろう。

 五万人の兵士を本気で迷宮攻略に振り向けるつもりなら、前々からもっと本気で準備しているはずだ。

 現地についた今になって、おれたちみたいなはみ出し部隊に声をかけてきたのが、上層部が本気ではない証拠みたいなもんだな」

「なるほど。

 でも……小隊長的には、今回も勝ちにいくんですよね」

「あったりめぇだ、馬鹿野郎。

 おらぁなぁ、負け戦が大っきらいなんだ。

 そういうことで……野郎ども!

 今回も、徹底的に勝ちにいくぞ!」

「「「「「「「「「「……おおー!」」」」」」」」」」


 王国軍野営地、将校用天幕。

「ひくっ。

 ……うっ……うっ……」

「ね……姉さん。

 いい加減、泣きやんで……。

 今回は……うん。

 ちょっと……いや、かなり……相手が、悪かった……」

「テリスにはわかんないわよ!

 わたし、あんな大勢が見守る中で……ひくっ……よりによって……あ、あんな……は、辱めを……。

 ぐすっ」

「……」

「テ、テリスは……あの女に……結局、なにもされていないから……。

 ひっく。

 それに……わたしがあんな目にあっているときも……ぐすっ……テリス……あの女から、目を離せなかったし……」

「い、いや……姉さん。

 それは……あの女が、怖かったから……」

「怖くて、強くて、綺麗だっかったから……おびえ、震えつつも、目が離せなかったのよね……。

 わかるわよ……それぐらい……生まれてからこのこかた、ずっと一緒にいた、双子同士なんだから……。

 ひっく。

 あの女のいうとおり……。

 テリスも、わたしも……今まで、あんな……自分よりも膨大な魔力を有した人間に……であったことは、なかった……。

 強きものであれ……我が家の家訓。

 わたしたち、パスリリ家にとって、魔力の大きさが、正義であり真理であり美しさである。

 だから……わたしたちも、今まで、何の躊躇もなく、やりたい放題をやってきた。

 だって……誰よりも大きな魔力を持つわたしたち姉弟は……誰よりも正しくて美しいはずだったから!

 それが否定されたら……あんな……わたしたちよりも圧倒的に、覆しようもなく優れた存在が現れてしまったら……わ、わたしたち……ぜんぜん……今まで平然と踏みつけにしてきた虫けらどもと……同等じゃない!

 パ、パスリリ家は、もう終わりよ。

 その存在理由、より強い魔力を持つこと……が、こうもあっさりひっくり返ったら……ぐすっ。

 もう……存続させる……意味が……。

 わ、わたしたち……あの女に……。

 全部、全部……全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部! 根底から! 否定されて!

 し、死んだも!

 同然よ!」

「……ねえ……さん……」

「……………………テリス……」

「……なんだい、姉さん」

「わたしを……見捨てないで……」


 羊蹄亭。

「悪いな、シナク。

 みての通り、今日は満席もいいところだ」

「王国軍、か」

「そういうことだな。

 到着したところで兵隊への慰安のつもりか、交代で休暇を取らせているみたいでな」

「五万人の何分の一でも、この小さな町にとっては……」

「ちょっとでも気晴らしに使えそうな場所は、しばらく満杯になるだろうな」

「酔って、騒いで……一人一人は、普通のやつらなんだよな」

「当たり前のことなんだがな」

「そういうことなら、しかたがない。

 今夜は素直に帰ることにするわ」

「……本当に悪いかったな、シナク!」

「やれやれ。

 ま、こんな夜もあるさ。

 確かに……王国軍兵士が道にもあふれて、町全体がざわついてらぁ。

 はは。

 道ばたで、反吐を吐いてやがる。

 そっちじゃあ、王国軍同士で喧嘩だ。

 あっ。

 腕章つけたやつらが駆けつけて、喧嘩しているやつらを取り押さえた。

 ちゃんと、治安を維持するつもりはあるわけね……。

 ま、この町も、辺境とはいえ、王国の一部だからな。無駄には荒らしたくないんだろう」

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