6.めいきゅうのそんざいがもたらすちいきけいざいへのはきゅうこうか。
「……ふぁ……」
「昨夜は、えらい目にあわされたな」
「適当なところでとっとと逃げ帰ってきたけど、あいつらふたりとも転移魔法使えるからどうにでもなるだろう」
「ちぃーっす!
……って、誰もいないし」
「なになに?
ご用の方は迷宮入り口まで、か。
いくら利用者が少ないとはいっても、不用心だなあ、このギルドも……」
「うぃーっす」
「あ。シナクさん」
「こんなところにいたのか、受付嬢。
ギルドまで無駄足踏んじまったぜ」
「おかげさまで、本日より迷宮探索事業に加え、迷宮資源開発事業も当ギルドで請け負うことになりました。
つきましては、迷宮入り口にもギルド窓口を設置することが決まりまして……」
「まあ、毎朝ギルドに寄らないで迷宮に直行できるんなら、こっちとしては歓迎だけどな。
で、その資源開発事業って、なに?」
「それはだなぁ!」
「わっ。
誰かと思えば薬師のじいさんじゃねーか……。
脅かすなよ」
「周囲の様子をよくみてみろ」
「いつもよりも、ずいぶん、人が多いな。
人夫だけでなく、煮炊きしているやつらが多いようだが……」
「昨日、おぬしがしとめたモンスター、まだまださばききれておらんのよ。デカいのはそのまま持ち運ぶのも人手がかかりすぎるので、中で適当な大きさにばらして持ち出すわけなんだがな、それにしたって素人が下手な真似をすると毛皮や皮革の価値が落ちるというものじゃ。それで、専門の職人がかなり深いところまで潜らねばならぬのだが……」
「一応、バリケードなどで区切って比較的安全な区間も確保しておりますが、なにしろ迷宮の中ですからね。
道案内と護衛の必要はあって……」
「それに、モンスターの肉の中からときおり貴金属の結晶が出てくることがあっての」
「もちろん、その権利は基本的にしとめた冒険者の方に帰属するわけですが……」
「モンスターの肉を加工して売り出すだけではなく、一定の確率で宝物も出てくるとすれば、この迷宮は宝の山ということになる」
「冒険者と冒険者がもたらす成果物をスムースに流通させるためのシステムが、今、構築されつつある、ということです」
「かくいうわしも昨日お前さんがしとめたクマを丸ごと競り降ろしてな、毛皮は専門の職人に任せたが残りの血肉はまるごと処理して瓶詰めにでもして、強壮剤ということにして金持ちどもに高値で売り払う算段じゃよ。
ふぉっふぉっふぉ」
「あー。
ようするに、おれたちの活動が、そのまんまみなさんの利権になっているってわけな。
おれとしては、どうでもいいんだけど……」
「こちら、昨日発生した報酬の詳細になります。調査費と成果物の売り上げ、ですね。まだセリが済んでいなくて値段が決定していない成果物もありますから、あとでもう少し上乗せされると思いますが……。
当ギルドは明朗会計、冒険者のみなさんを支援します」
「はいはい。
じゃあ、いつものとおり、最新の地図と認識票、ちょうだい。今日は……どうすっかな。とりあえず、五百枚な。迷宮の入り口にギルドの窓口ができるんなら、足りなくなければ取りにくればいいか……。
それからじいさん。今、虫除けとか獣避けの薬はあるか? 強ければ強いほどいい」
「もちろん、用意しておるとも。
この間渡したやつはどんな調子じゃった?」
「あー。
コウモリには、効果があったっぽい」
「そうかそうか。
ではおなじやつと、今度はこれも試してみてくれ。ワニが出てきたと聞いてな、書物に載っていた爬虫類避けを調合してみた。効果があるようならもっと作ろう」
「おう。
使う機会があれば、試してみよう」
「それからシナクさん、地下水が溜まって行き止まりになっていた場所はそのままにしておいてください。今、リザードマンとかギルマンの、水に強い種族の冒険者を手配しているところですので……」
「はいはい。
そうでなくとも、まだまだ探索が済んでいない場所がいくらでもありますからね……っと」
「シナク」
「ルリーカか。
また、朝っぱらから、いきなり抱きついてくるなよ……」
「シナク、ルリーカを、昨日の三つ叉のところまで護衛してほしい。
そこに転移陣を設置するよう、ギルドに頼まれた」
「それくらい、お助け人夫と一緒にいけよ。あそこだと、途中までトロッコに乗せて貰えば、そんなに歩かないですむ。
でなけりゃ、バッカスか夫婦あたりに頼め」
「バッカスは奥さんが産気づいたとかでしばらくお休み。
レニーとコニスは、もう迷宮に潜っている」
「じゃあ、人夫だな。
おれは昨日、夫婦が引き返した地区を探ってみるかな……」
「あ。あの……シナクさん。
さしでがましいようですが、できれば今日はルリーカさんと一緒にいってくれませんか?
ここ最近、強力なモンスターが立て続けにでていますし。ギルドとしては討伐されるモンスターが多いのは歓迎するところですが、冒険者の方々の生還率もだだ下がりになっていますので……。
ルリーカさんの護衛業務ということで、ギルドの方からも報酬を用意させていただきますので……」
「おれがオーバーキルのルリーカの護衛、ねえ……。
単純に攻撃力を比べたら、おれなんかよりもルリーカのが数段上をいっていると思うんだが……。
まあ、ギルドが報酬をくれるっていうんなら、お仕事だ。
いっしょに行くか」
「ささ、ルリーカさん。汚いところですがこちらに」
「この毛皮のうえに腰掛けてください」
「……お前ら……。
おれのときと、随分扱いが違うじゃねーか……」
「いや、ぼっちの旦那。
そうはいってもこちらのルリーカさんの家はこのあたりでは知られた魔法使いの名門。おれたち鉱夫あがりの下人とは、身分が違いやす」
「旦那は殺しても死にそうにないっすが、ルリーカのお嬢ちゃんはほっそりして今にも折れそうじゃないですか」
「聞いたはなしじゃあ、レニーのやつもどっかの名門の出だそうおだし、コニスも若い女だ。
お前ら、あいつら夫婦にも同じような対応しているの?」
「いえいえ。滅相もない」
「レニーの旦那は駆け落ちして実家と疎遠になっていますし……」
「コニスさんも、若くてきれいなことは確かですが……」
「人妻だからなぁ」
「……正直なお答え、どうもありがとうございました。
っと、こっからは歩きだな」
「シナク、手を貸して」
「お前もなあ……転移魔法ばっか使ってないで、この程度の高さ、自分の足で乗り越えろよ……。
魔法ばっかに頼っていると、体がなまるばっかりだぞ。
いざってときに反応できないのは、おれらの仕事だと命取りになりかねん」
「今後、善処する。
今だけは、手を貸して」
「はいはい。
お前らも、にやにやしていつまでもこっち見ているんじゃねー。
お前らにはお前らの仕事があるだろう!」
「おう!
資材をおろせ!
昨日、デカいのが出たから、これから設置するバリケードは今までのよりずっと頑丈なものにするぞ!」
「で、ここが、昨日はなした三つ叉だ。
人夫どもが作業しているし、護衛はここまででいいな?」
「いい。
恒久的な転移陣を設置するためには、しばらく時間が必要。
シナクは自分の仕事をはじめて」
「おう。
じゃあおれは、まだ探索してない一番左の道に進んでみるわ」