18.れすきゅーぱーてぃー。
迷宮内、管制所。
「現在の安否確認状況は?」
「人夫さんたちはほぼ全員、無事。現在、続々と帰還中。
帰還済みパーティ五十八、帰還中パーティ百二十四、連絡を取れないパーティが二十八!」
「……二十八も!」
「その連絡が取れない方々の現在地座標はわかりますでしょうか?」
「きぼりん……さん?」
「座標が解るのであればわたくしがここから直通の転移陣を描きそのまま現地に移動しますしかるのに救助活動を行いましてまたここに帰還するというプランを提案いたします」
「その手があったか!
お願いします!
いや、ちょっと待ってください!
きぼりんさんだけだと、要救助者全員を連れ出せない……。
帰還してきたパーティの中から救助活動への志願者を募って、何人かここに連れてきて!」
迷宮内、某所。
「新入りたち!
応急手当のいい実験台だ!
手早く、的確に、教えられた通りに負傷者を治療しろ!
やってもやってきりがないくらいに、どんどん負傷者はやってくるぞ!」
迷宮内、管制所。
「救助活動志願者、お連れしました!」
「時間がない!
説明は、きぼりんさんに直接聞いて!
志願者の方は、きぼりんさんの後につづいて転移して、そこできぼりんさんの指示に従ってください!」
「ちょっと待った!
薬屋さんから、在庫の虫除け、全部持ってきました!」
「荷を解いている余裕はないわ!
箱ごと、きぼりんさんたちに!」
「はい! 投げます!」
「おうよ!
こいつがあれば、やつらも寄ってこないからな!」
「まだまだありますから、それは火をつけて、そのまま向こうに置いてきてください!」
「了解した!
さあ、いこうぜ!
一刻でも急げばそれだけ助かる人数が増える!」
しゅん。
迷宮内、入り口広場。
しゅん。
「……帰還……」
「わ。
みんな、いる」
「ぼろぼろの人、多いね」
「虫除けを持っていないか、持っていても使う間もなくイナゴに体当たりされたのでしょうね」
「わたしたち、運がいい方だったんだ……」
しゅん。
「よし!
はやく、管制に!」
「シナク教官!」
「シナクさん!」
「ふがー!」
「おや、カールズパーティか。
お前ら、無事だったんだな。
悪いが、今は緊急時だ」
「ああ、まだまだ拙者らにもできることがあるはず。
はやく、管制に!」
「わたしもいきます!」
「自分も!」
「わたしも!」
「ふごー!」
迷宮内、管制所。
「「何か出来ることはないか!」」
「シナクさん!」
「リンナさん!」
「みなさん、ご無事で。
特にリンナさんは、助かります。
まだまだ要救助者が……」
「転移して、むこうにいるやつらを連れ帰る。
それでいいのだな?」
「はなしがはやくて助かります。
今、きぼりんさんが……」
「はなしはあとだ。
さっさと、座標を」
「……はい!
ここに残されているのは、六名!」
「心得た!」
「シナクさん、これ!」
「……おっと!」
「虫除けっす。
まだまだあるから、向こうで使い切ってください!」
「そういうことか。
了解!」
「わたしたちも同行します!」
「よし! では全員、拙者のどこかに捕まれ!
転移する!」
しゅん。
迷宮内、某所。
しゅん。
「……きぼりんさんは、帰還用の転移陣を!」
「心得ました」
「くそ、イナゴどもで前が見えねえ」
「虫除けに火をつけろ!
はやく!」
「やつらは、パーティーは……」
「いたぞ!
あそこに、全員倒れてる」
「よし、火がついた!
はは。
イナゴども、いっせいに遠巻きにしてやがる……」
「さ、今のうちに、倒れているやつらを……」
「……転移陣、描き終わりました」
「今いく!」
「よし、全員、いるな!」
「こちらには五名の方が残されていると聞いております」
「おし、人数も合ってる。
さっさと帰るぞ!」
迷宮内、某所。
しゅん。
「くそっ! イナゴが!」
「はやく、虫除けに火を!」
「つけた!」
「残っているやつらは……」
「シナク教官!
あそこです!」
「不意つかれて、イナゴどもに頭突きでもされたかな……。
六名、います!」
「全員で、引きずってでも連れてこい!」
「シナクと拙者がひとりづつ……あとは……」
「うがー!」
「ガルーガちゃん、凄い……。
三人も、一人で……」
「自分も、一名を……」
「では、また全員、拙者のどこかに触れて……。
その前に……爆炎豪雨!」
どっごぉぉぉぉん!
「去り際のみやげだ!
転移!」
数時間後。
迷宮内、管制所。
「要救助者数、ゼロ!
必要な隔壁もすべて閉鎖完了!
負傷者多数なれど……今回の大量発生も、ロスト、ゼロで乗り切りましたぁ!」
「「「「「「「「「「「……うおぉぉぉぉぉぉぉ……」」」」」」」」」」
「すげーぜ、おい!
二度の大量発生を乗り切ったぜ!」
「しかも、死者なしでだ!
なんだよ、これ!」
「ギルドだ! ギルドの指示の早さが……」
「いや、魔法使いたちが、連続で転移魔法を駆使して……」
「前の大量発生よりは、負傷者が多かったが……」
「今回のは、イナゴだったからなあ……」
「あのでかいのに、気づかぬうちに、頭をごつんとやられたら、その場で昏倒だろ」
「強運だ!
このギルドには、強運の神がついている!」
「けっ。
みんな、好き勝手いってくれて……」
「……はぁはぁ……。
まあ、助かって、余裕がある証拠だ……」
「大丈夫っすか、リンナさん……。
息が、あがっていますよ」
「……なにしろ、いまだ、完全に復調しておらんからなあ……。
それよりも、シナク。
すまなかった」
「……なんすか?」
「事後承諾になるが……おぬしの体内の魔力も、相当に使用させてもらった。
かなり、体がだるいはずだが……」
「そうっすね。
緊急時だから、まあ、しかたがないんじゃないっすか……。
リンナさん、水、いりますか?」
「……いただこう」
しゅん。
「おお、ルリーカ。
お疲れだ」
「シナク、リンナ、お疲れ」
「ルリーカは、全然汚れてないな」
「このようなとき、結界を張って移動するのは基本」
「ふふ。
さすがは本職。
拙者とは違い、魔法の使い方がじつに巧みだ。
ルリーカ、水、いらぬか?」
「いる」
「ほらよ」
ぱし。
「……ぬるい」
「違いない」
「……はは」
「ところで、シナクよ。
やはりおぬし、魔法を学べ。
せめて、転移魔法だけでも。
使えるのはずなのに、使えないようだと……この先、後悔する局面が、いくらでも出てくるぞ」
「あー。
……そう、っすね。
まあ、考えておきますよ」
「そのときは、ルリーカも教える」
「むろん、拙者もだ。
ルリーカ、二人でシナクのやつをしごこうな」
「しごく」
「そのせつはわたくしも微力ながら協力させていただきます」
「きぼりんまでかよ。
……はは。
きぼりんは、ルリーカとは違って、だいぶ汚れているな」
「名誉の負傷でございますだいぶんイナゴに体当たりされましただけどそのおかげで多くの人を救うことができました命のないこの身にとっては最高の栄誉でございます」
「そいつぁ、よかった……。
やっぱお前、だんだん人間っぽくなっているよな」
「きぼりんにとっては最高の褒め言葉でございます」
「……疲れた……」
「緊張したぁ……」
「でも……」
「うん。
なんとか、やりきったね」
「みんな、冷静に対処できた」
「まだまだ反省点も多いけどね」
「それは、おいおい分析しましょう」
「次回のために」
「そう、次回のために」