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16.ふたりぱーてぃ。

「あれ? リンナさん?

 朝からこんな町外れまできて、いったい何の用です?」

「おぬしに用があって来たに決まっておろう。

 なあ、シナクよ。

 おぬしは、この拙者を拾った責任があると思うのだが……」

「元気になった途端、それですか?

 前々からことあるごとに、一緒に稽古しようとかなりしつこく……」

「まてまて。

 それは、もう一人の拙者のことであろう。

 この拙者は、預かり知らぬこと……」

「ああ、そういや、そうか。

 こっちにしてみりゃ、どっちもリンナさんだから、ときおり混乱するんだよな」

「思うに、もう一人の拙者は、稽古にかこつけておぬしを魔法剣士に仕立て上げようと画策しておったのだろうな」

「そうなんですか?」

「ふむ。

 他ならぬ、拙者の考えることだ。容易に想像がつく。

 剣と魔法、この両方を使いこなせる者は、きわめてまれでな。

 その点、おぬしはすでに軽戦士として一流であるわけだし、魔力も、並の魔法使い以上のものを秘めておる。これほど条件の整った逸材をこの拙者がみすみす見逃すとは思えぬ」

「はなしが長くなるんなら、歩きながら聞きますが……」

「そうだな。

 迷宮まで、歩きながらはなすこととしよう。

 で、この拙者としてもおぬしを魔法剣士として仕込むことに、まったく関心がないとはいわぬが……」

「お断りします。

 魔法って、あれ、たとえ素質があっても、まともに使えるようになるまで年単位の時間がかかるってはなしでしょ?

 おれは、今のままでも十分にやれますし、必要ないです」

「まてまてまて。

 結論を急ぐな。

 そのはなしははなしとして、今日は別のことを頼みに来た」

「別の……頼み? ですか……。

 なにか、いやな予感しかしないんですが……」

「一応現場に復帰できたとはいうものの、実はまだ、本調子にはほど遠くてな。

 それに、モンスターも、以前の世界よりはよほど手強くなっておる。

 そこで拙者としては、それまでの節を曲げてソロではなくパーティを組むことにした」

「ああ、それは、大変に結構なことですね。

 それでリンナさん、誰と組むことになったんですか?」

「おぬしだ」

「……は?」

「だから、おぬしだ。

 おぬしも、いつまでもソロでは安全面での不安があろう」

「あー……おれ、なにも聞いてないんですけど……」

「で、あろうな。

 拙者も、たった今はじめてはなしたばかりだ」

「……おれの意志は無視ですか?」

「おぬしには、瀕死の拙者を拾った責任がある」

「どういう理屈ですか、そりゃ……」

「責任をとれなければ、拾うべきではなかったな」

「……そんな、犬や猫のはなしじゃないんだから……。

 その点については、必要なら、あとでまたはなすことにして……。

 おれだって、理由もなくいつまでもソロをやっているわけではありません。

 おれの足についてこれる者が、滅多にいないから……」

「拙者が雷踏足を使えば、速度ではおぬしにも勝ろう」

「……そうだった。

 この人、パラメータ補正系の補助魔法が滅茶苦茶得意なんだった……」

「なにをぼさっとしておるか、シナクよ。

 もう迷宮に到着したぞ。

 ほれ、冒険者カードを出せ。

 拙者が本日の分の受けつけを済ませておこう」

「あっ、こらどうも」

「ふむ。

 これは……すごいな、シナク。

 こんなランク、はじめてみたぞ」

「……だー!

 さりげなく催促されたもんだから、ついうっかり冒険者カードを渡しちまったぁ!

 ……リンナさん、くれぐれも、おれのランクについては内密に……」

「そうさな……しばらく、拙者とパーティを組んでくれるのなら、考えないこともない」

「……あぅ……」


 「ああ、そうだ。

  しばらくこの二人でパーティを組むこととあいなった!

  そうだな。

  もはやぼっち王の異名はふさわしくはなくなるな!」


「……うわぁ。

 必要もないのに、あんな大声で……。

 あの人、絶対、既成事実を周知させるために、わざとやってるよな……」

「おう、シナク。待たせたな。

 それ、おぬしのカード、返すぞ」

「……ああ、そりゃどーも」

「なんだ、朝から元気がないではないか!

 それ、今日は三十四番転移陣を出たところから先だそうだ!」

「……どなどなどーなどーなー……」


「……よっ!」


 ずしゃっ!


「……ふーむ。

 使用しているところを実際に目にしてみると、その術式付加とやらは、実に重宝きわまりないものだな」

「でしょ?

 おれも、実際に使ってみるまでは、ここまで便利なもんだとは思わなかった。

 これ、遠く離れた場所を攻撃できるってだけではなく、扱いに慣れると、自分の意志で攻撃範囲を選択できるようになるんですよ」

「どういうことだ?」

「簡単にいうと、障害物の向こうにあるものを、攻撃できるようになる。

 さらに熟練してくると……」


 ざしゃ!


「この通り。

 この巨大甲虫みたいに、外側の殻だけを残して中身だけを攻撃できるようになります。

 最近、外側が硬かったり厚かったして、中まで攻撃が浸透しにくいモンスターが多くなってきているので、この機能には重宝しています」

「……ふーむ……。

 豪氷柱雨!」


 キキン!


「それは、また……。

 シナクよ、あとでその術式、検分させてもらってもよいだろうか?」

「それは、かまいませんが……リンナさん、この間まで教官やってましたよね?

 これまで、この術式をみる機会はなかったんですか?」

「修練所では、拙者自身のリハビリもかねて、もっぱら基本コースを担当しておったからの。

 最初から術式に頼っているといつまでも基本がしあがらぬし、新人たちも、ある程度しあがるまでは、術式付加の武器を禁じていた。

 それで、これまでこの手の術式にも触れる機会がなかったわけだが……」

「なるほどねえ……よっ! はっ!」


 ざしゅ! ずっ!


「ちょっと、忙しくなってきたようで……」

「で、あるな。

 また、一息つけるようになるまで、はなしの続きは預けるとしよう。

 なに、たとえ囲まれたとしても、おぬしに背中を任せることができるのなら、どうにでもなる」

「まったく!」


 ずしゅ! ざんっ! ばずっ! しゅんっ!

 ボン! ヒィィインッ! ピキン! ドォォン!


「とりあえず、一段落か?」

「です……かね。

 いや、虫系って、いったんではじめると、大量発生してくるからなあ……」

「一体一体は大したことがなくても、休むことなく数がでてくると、確かに、きついものがあるな」

「案外、ロストするときってのは、強敵を前にしたときより、この手の、大したことがないモンスターを相手にしたときの気の緩みのが、大きな原因となるような気がします……って、すいません! 他ならぬリンナさんの前で!」

「かまわぬ。

 おおかた……もう一人の拙者の死に様も、そのようなものであったことだろうよ。

 なんといっても……慢心と安心、気のゆるみがなによりも怖いな」

「まったくです。

 こんだけの数を一掃したことですし、一回一息いれますか」

「そうするか。

 気に余裕があるうちに……」

「では……」


 ばりっ。


「例の、札か」

「ええ。

 近くに何物かが近寄ってくると、警報を発します」

「ルリーカも、まあ……次から次へと、よくぞまあ、微妙に便利なものを作ったものよの」

「迷宮の魔力があってこそ、ですけどね。

 リンナさん、水、いります?」

「いや、いい。

 自分で持参してきたものがある。

 それよりシナクよ、さきほどの、術式……」

「ああ、そうでした。

 これ、なんですけどね……」

「どれどれ……うーむ。

 短い術文に、よくぞこれだけの機能を詰め込んだものよの……」

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