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5.そのげんそうを(rya

「で、これ、誰?」

「ルリーカ、人を指さしたりこれ呼ばわりしたら、駄目だよ」

「それはとかく、シナクくん。

 どうやら、心当たりがあるようですが……もしよかったら、紹介してくれませんかね?」

「お、おう。

 あー。あのなー。

 吹雪のとき、森で迷ったおれを救ってくれた人で、今まで名前を聞き忘れてたけど、ちょうどさっきはなしていた塔の魔女さんだ。

 ……たぶん」

「……たぶん、って……」

「これ……この人から異常な魔力を感知できるのは、本当。この人が塔の魔女でも、不思議ではない」

「ルリーカさんがそういうのなら、信憑性がありますね。ルリーカさん、この方の魔力がどれほどのものか、専門外の我々にもわかりやすく説明していただけませんか?」

「ルリーカの魔力を一とするのなら、その億倍以上のオーダー。詳細には計量不能。

 強いていうのなら、伝説の五賢魔クラス」

「ちょっ……億倍以上、って……。

 人間に、そんなの可能なの?」

「一定レベル以上の魔法使いが適切な知識を手に入れると不老不死になれる。これを仙と呼ぶ。仙になった魔法使いが際限なく知識と魔力を蓄え続ければ、その魔力は理論上無限大となりうる。

 そうした強力な魔法仙の中で、特に名の知られたものが五賢魔。

 具体的にいうと、界渡りのトカスナ、災厄のデジュシュ、超越のタツユキ、創造のポヌフ、不眠のタン」

「あー。

 そういやこの人、塔の魔女以外にも、不眠の魔女とか名乗っていたな……」

「了解。

 塔の魔女は不眠のタン。

 ほぼ確定」

「いやー……ははは。

 なんか……いきなりスケールが大きくなってきて、ぎてぜんぜん実感が沸かないんだけどぉ……」

「大丈夫ですよ、コニスちゃん。

 ぼくも、まったく実感が沸きません。

 それでシナクくん、きみは吹雪のとき、この塔の魔女さんに命を救われた、ということなんですね?」

「そうそう。

 ひどいしもやけ……凍傷とかいってたか? になっていた部分、主に手足だったそうだけど、それも新しいのに取り替えて貰って、で、目がさめても吹雪が続いていたから塔の中を案内して貰ったりなんだりして……で、吹雪がやんだから、こっちに戻ってきた」

「随分と非常識なことをさらっといってくれるわね、このシナクくんは……。

 凍傷になった手足を新しいのにっ、て……その新しい手足ってのは、どこから持ってきたの?」

「そういや、どこから調達してきたんだろ?

 え? なに? そ、そしきばいよう?

 ってか、こんなに近くにいるんだから、自分の口で説明しろよ! おれの頭の中にだけしゃべらないで!

 えーと、この自称塔の魔女さんがおっしゃることには、そしきばいようとやらで必要な部分を複製して、それを移植したそうです。

 ついでにいうと、手足丸ごと取り替えたたわけではなくて、凍傷になっていた皮下脂肪からより表層の部分のみを移植した、だそうだ。

 ……なんのこっちゃ?」

「伝説によると、不眠のタンはその名のとおり、不眠不休で長い年月にわたり魔法に関する研究を行い続ける存在。生物を扱う魔法にとくに長けていた、ともいわれている」

「それで、その……シナクくんの恩人であり、偉大なる魔法使いであるところの塔の魔女さんは……なんで、シナクくんの背中に隠れるようにして、背を丸めて縮こまっているんですか?」


「……うん。わかった。

 そう伝える。

 なんでも……引きこもり研究生活が長すぎて、他人の視線が怖いんだそうだ」


「は……反応に困りますね、これは……」

「おー。

 そういや……耳、真っ赤だ」

「おれ、レニーがリアクションに困っているところ、はじめてみた気がする……」

「それで、シナク……。

 この女、なんでこの場にいるの?」

「ルリーカは、そういうことを聞く前に人の膝の上から降りるように。こら。おれを抱きしめても駄目。

 ええっと……自分の噂をしているのが聞こえてきたから、転移魔法で颯爽と登場して驚かせる予定だったけど……いざこの場に来てみると、理屈抜きに怖くなってとっさにおれの背中に隠れた、と……。

 ……なんだかなー……。

 ふたりきりではなしていたときなんかは、あんだけ自信満々な態度だったくせに……」

「この方、その……本当に、五賢魔とかいう人たちの一員なんですか?」

「魔力的にみたら、そうであってもおかしくはない」

「五賢魔の方に関してはおれには判断つかないけど、塔の魔女であることは確かだと思うぞ。

 実際におれ、そこにいたし、中もずいーっとイヤになるくらい案内されたし……」

「シナクくんがそんな嘘をつく理由もないし、その人がいきなりここに現れたのも事実だから、五賢魔うんぬんに関してはどうでもいいんじゃないかな?」

「なになに?

 五賢魔五賢魔いっておるが、あいつらはそんなにご大層なやつらではないぞ。界渡りははた迷惑な風来坊だし、災厄は自殺願望がこうじて何でもかんでも見境なくぶち壊そうとする偏執狂だし、超越は自分のことにしか関心がない超ナルシストだし、創造は後先考えない発明狂だし……」

「なにそれ? 声真似?」

「うん。

 この人に伝えられたことをなるべくそのままの調子で再現……てっ。てて。

 こら、魔女! 背中をつねるな!

 ルリーカも対抗心燃やして無意味にわき腹をつねるんじゃありません!」


「レニーくん。

 小さいのと大きいの、ふたりの魔女にサンドイッチされているシナクくんをみて、どう思うよ?」

「ぼくは特に特別な嗜好は持ち合わせておりませんので、非常に、うらやましくありませんね」

「じゃあ、この三人は放置して、うちらはそろそろ帰ろうっか?」

「そうですね。そろそろいい時間ですし、明日も朝早いですし」

「ちょっと待て、そこの夫婦。

 この状態のおれを見捨てる気か!

 それからコニス! さりげなく短刀持ち去ろうとするな! そいつは置いてけ!」

「……っち……」

「舌打ちした! 舌打ちしたよこの人!」


「マスター、これで精算してください。

 お釣りはいりませんから」

「あいよ。

 でも、本当にいいのかい? あいつら、あのままにしておいて?」


 「いてててて。

  こら、おまえら、いい加減にしないと……」


「どういう人なのかいまいちわからないんだけど、それでもなんだかんだいって、あんま、悪いことするようには見えないんだよね。すくなくとも、シナクくんに対しては……」

「必要以上の人つき合いを避ける傾向のあるシナクくんには、かえっていいクスリでしょう」

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