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12.せんかぶつのひょうか。

「先走るなよ、おい。

 今の時点では、たまたま……この教本の内容が、帝室に伝わる兵法書を彷彿とさせる……って、それだけのことだ。偶然の一致……とんでもなく頭が回るやつがいて、いにしえの戦争名人と同じ境地に達した、って線もある。

 いずれにせよ、おれたちは戦争屋だ。

 情報の評価や考察は参謀なり幕僚なりのお仕事、今の時点では、判断材料を持ち帰るだけにしておこうや。

 憶測は別にして、だ。

 もう、帝国が、公的にその知的種族と外交チャンネルを開いているとなると……いろいろと、ややこしくなるな」

「どうしてです?」

「帝国が、公館を構えてまでその知的種族とやらと交渉を開始している、ってことは……帝国が、その種族を主権を持つ集団、交易相手として、事実上、認めているってことだ。

 ここまでは、飲み込めるな」

「ええ」

「で、だ。

 独立して、主導権を持った一定数以上の人口を持つ集団を、大陸法では、規模の大小に関わらず国家に準じたものとして扱うことになっている。

 つまりだな。

 宗主国である帝国様からみりゃあ、王国とその知的種族とは、同列の従属国同士、て、ことになる。

 で、その知的種族は……迷宮内に、領土を持っているわけだ」

「そう……なりますね」

「って、ことは、だ。

 この先、おれたち王国軍が勝手に迷宮に兵を入れたりしたら……その知的種族にたいして王国が、宣戦布告抜きに領土を侵犯した……と、そのように解釈されても、不思議はないんじゃないか?」

「……あっ!」

「帝国は、従属国同士の戦争状態自体は禁じていない。しかし、実際にやったら……経済制裁その他、きっつぅーい罰則が待っている。それこそ、よほどのことがないかぎり割に合わなくて、よほどヤケにでもなってなけりゃあ、本気で開戦しようって気が起こらなくなるらいの罰則だ」

「帝国支配による、大陸平和。

 ここ百年以上、本気の戦争がない理由ですね」

「当然……王国も、そんな虎の尾を踏むような真似、したくはないはず……なんだが、なあ……。

 だったら、よう。

 なんだって王国は……おれたち戦争屋やあんな五万もの大軍を、こんな田舎に派遣したんだ?」

「……」

「あたりまえのこったがな、あれだけの人数を動かすとなると、それだけでとんでもない額の金が飛ぶ。軍隊は、金食い虫なんだ。

 加えて、虎の子の魔法兵とかお飾りとはいえ王子様まで出張って来ているんだぞ、今回は。

 ここに来ました。なにもありませんでした。はい、帰ります……で、終わるわけはないんだ。どう考えても。

 それじゃあ……どう考えても、そろばんがあわねえ。

 あー……畜生っ!

 お上は……いったい、なにを考えていやがるかなあ……」

「小隊長がいらつくのもわかりますが、おれたち下っ端が上の人の意向を予想しても、どうにもなりませんよ」

「下っ端いうなぁっ!

 まあ、いい。

 確かに……考えても仕方がねえ、ってのは、当たっているからな。

 ……残りの戦果を、検分してみるか」

「これ……医療キット、ですか」

「ほう。

 強い蒸留酒で、傷口を洗うのか」

「説明書によると、それで病魔をあらかた殺せるそうで……本当ですかね?」

「本当かどうかは知らないが、それなりに効果はあるんだろうな。

 おれも、どっかの土地の民間療法で、似たようなのがあると小耳に挟んだことがある。

 それから……お札?」

「パラライズの効果を局部に限定させたもの、のようです」

「……痛み止めか!」

「こっちは……止血用?」

「なんと、傷口を凍らせて出血を防ぐとよ!

 はは!

 こんな便利なもんがありゃなあ、おい!

 ……ブルナやガスリ、アキハラ、ドグレ……いったい、どんぐらいのやつらを助けられたことか!」

「昔のことをほじくり返したっていいことなんざありませんよ、小隊長。

 それに……これらのお札は、例のよってあくまで迷宮内でしか効果がありません」

「そう……だったな。

 いや、しかし……教本といい、この医療キットといい……。

 いっちゃあなんだが……ここのギルドや冒険者は、王国軍よりよっぽど高い水準にあるな」

「教本は、王都の士官学校で教える内容よりもはるかに上をいってますし……うちの正規軍の衛生兵も、この医療キットほど、効果的な治療はできませんね。手足を押さえつけて、泥がついたままの傷口を縫うのが関の山です」

「とはいえ……この教本の内容を、肝心の冒険者たちがしっかりと理解して生かせているか、せっかくの医療キットを使いこなせているのか、ってのは、また別問題だろうしな。

 軽率にここで評価を下すには、時期尚早、ってかあ……」

「ですね。

 ただ、ひとついえることは……」

「ああ。

 ここのギルドは、冒険者は……決して甘く見ていい存在じゃあねーわな……。

 いずれにせよ、明日か明後日には本隊がここに到着する。

 それまでに、おれたちができることはといえば……」

「ええ!

 これ以上、まだなにか嗅ぎまわろうってんですか!

 地元の人たちを下手に刺激しないうちに、やめておいた方が無難だと思いますけど……」

「うるせえ、って。

 今までだって、別段、非合法なことや無礼なことはいっこもやってねーぞ、おれは」

「……この土地では、という条件つきですがね。

 今後も、どうか穏便に願います」

「おお! 穏便に、な!

 もっと確度の高い情報を求めて……ちょっくらギルド本部を訪ねてくる」


 ギルド本部。

「……観光客用の、資料……ですか?」

「ええ!

 さらに欲をいえば、迷宮内を見学できればいいかなー、なんてことを思っているわけですが……そういう見学コース、ないもんですかね?」

「えーと……すいません。前例がないもので……。

 ちょっとお待ちくださいね。今、軽く上の者と相談してきます……」

「……総合窓口の受付嬢でさえ、唐突で図々しい要求に笑顔で対応、あくまで礼節を忘れず……。

 受付嬢の躾も、レベル高けーわ……」

「小隊長、図々しいって自覚、あったんですか?」

「うるせえ」

「……お待たせしました。

 この子を案内につけさせますので、見学したい場所などのご要望があれば、いってみてください」

「……部外者が見てはいけない場所とか、ないんですか?」

「ええっと……安全性を確保するため、立ち入りをお断りする場合は出てくると思いますが……秘密保持のため部外者の立ち入りをお断りすることは、ないと思います。

 当ギルドは王国から、少なくはない資金援助も受けて運営されていますので、納税者の方々には可能な限り情報を公開する方針を採用させていてだいております」

「ほう……そいつぁ、王国府にも見習って欲しい方針ですな」

「……小隊長!」

「いいから、いいから。

 で、この可愛らしいお嬢さんが、おれたちを案内してくれるわけかな?」

「どうも、お客様方。

 この可愛らしいフェリスがお客様のお相手を務めさせていただきます。

 決して、このギルドで一番暇しているからお客様をご案内するわけではないですよ?

 そのへん、どうか誤解のないように……」

「はははは。

 ゆかいなお嬢さんだ」

「……大丈夫ですかね、この子?」

「案内嬢に、おおくは期待してねーよ。

 じゃあ、お嬢さん。

 さっそく……そうさな。

 いろいろ、この目で見たい場所は多いんだが……まず、この教本が、実際にはどのように受け止められているのか。

 そいつを、知りたい」

「お客様方、教本を、売店でお買い求めになられたのですか。

 それでは、新人研修の現場にご案内いたします」

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