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11.ごかいはつきもの。

「……ほぉー。

 なかなか、うまいもんだあ」

「うわぁ!」

「ああ、すまんすまん。

 俺様たちゃ、ケチな観光客でしてな。

 あたりをうろうろほっつき歩いてたら、たまたまお嬢さんがこのノートになにやら熱心に書き込んでいらっしゃる。

 驚かすつもりはなかったんだが……近寄ってみてみると、かなり細密なスケッチが描いてあって、思わず感嘆の声を漏らしてしまった、って次第でさあ。

 お嬢ちゃん、そのノートに描いているのは、ひょっとしてこの迷宮で狩られたモンスターなのかな?」

「ああ、モンスターも描いてますが、その他にいろいろ……なんでも描いているっす。

 これ、わたしの日記兼雑記帳みたいんもんで……」

「ああー……日記、かぁ。

 それじゃあ、気軽にそれ、見せて欲しいなー……なんて、不躾なことはいいにくいなあ。

 いやなに、これまでどんなモンスターがこの迷宮に出没したのかなーって、そんなことに興味がありまして……」

「ええっと、全部は無理っすが……モンスターを描いたページだけならいいっすよ。

 おじさんたち、観光客といってましたが、迷宮のモンスターを目当てにわざわざこんなところまで来たんすか?」

「お……おじ……」

「実際、おじさんでしょう。小隊長」

「うるせ。

 いやいや、迷宮の中にはあまり入るなって、ここまで案内してくださった冒険者の方に釘を刺されましてね。

 かといって、ほかに見るところなんてあまりないようだし……と、思っていたところでお嬢ちゃんをみかけたわけで、正直、特にモンスターに興味あるわけでもないですがね」

「そうっすか。

 モンスターがいっぱい描いてあるページっていうと……ここ、とか……ここ、とか……」

「ほうほう。

 お嬢ちゃん、やっぱ、絵が巧いや。いや、お世辞ではなく。よく、特徴を捉えている。

 こうしてみると、モンスターは……普通の動物みたいなのと、見たことも聞いたこともないようなへんてこな形をしたのと、二種類あるようだねえ」

「そうっす。

 と、いっても……一見、こちらの動物と似通った形をしているのでも、実物は極端に大きかったりするんで、このスケッチだけではちょっとわかりずらいと思いますけど……馬ほどもある蜘蛛やカマドウマが連続して出てきたこともあったし、こーんな大きさのクマやワニがでてきたこともあったし……とにかく、迷宮から出てくるモンスターっていうのは、凶暴で怖いものがほとんどっす」

「なるほど、大きさかぁ……。

 それを討伐する冒険者さんたちも、大変だねえ。

 それこそ、みなさん命がけのお仕事でしょうに……。

 ちなみに、そのこーんな大きさのクマなんかのときには、何人がかりで討伐しました?」

「ああ、あれは、一人っす」

「……へ?」

「一人勝ちのシナクさん、って高名な冒険者いるっす。いつもソロで迷宮に潜って、そんでがばーっと賞金さらっていくからそう呼ばれるようになったんすけど……もう一方の異名、ぼっち王の方が、今では有名っすかねえ」

「ええっと……お嬢さん。

 冒険者、ってえのは……その、全員、一人勝ちの旦那みたいなのばかりなんすか?」

「まっさかぁ!

 あの人は、特別っすよ。

 普通の冒険者は、たいてい何名かでパーティを組んで、迷宮に潜っているっす」

「あっ……そっかあ……。

 そうだよねえ。いくら冒険者が強いっていっても、そんなのがゴロゴロいたらやばいよねえ……ははは。

 ちなみに、その、一人勝ちの冒険者の人ってのは、魔法、使えたりするの?」

「魔法は、使えないっす。

 ただ、迷宮内でのみ使える術式付加の武器は、持っているっす」

「術式付加の武器?」

「小隊長、さっきのはなし」

「ああ!

 あー……あれな!

 迷宮内で使えるお札と、同じ原理なわけか!」

「そうっす。

 シナクさんだけではなく、いまではたいていの冒険者が術式付加の武器を携帯しているっす」


「小隊長、今まではなしを聞いてみて……どう思いました」

「いやいや、田舎のギルドだと思って侮ってはいかんな。

 あんな娘っ子どもが意外なスキルを持っていたり、冒険者のレベルも予想以上に高そうだったり……なにより、ギルドがこれほどしっかりと迷宮全体を取り仕切っている」

「同感です。

 朝のあの行列も……おそらく、冒険者各自に行き先を指定して、探索する場所を指示するのが目的かと……」

「軍のそれとは、やり方も目的も違っているわけだが……それなりに機能的なシステムを考案して、実働部隊である冒険者を管理して、動かしている。

 いやいや、これは、侮れませんよ」

「これは……もう少し、情報収集する必要があるかと」

「だな。

 たしか、入り口のところに売店があるとかいっていたな……」

「迷宮内のみで使えるお札、持ち帰りたいっすね」

「ああ。

 うちの魔法兵にみせれば、こちらの魔法使いがどれほどものか知る手がかりになるしな」


「……結構、品数が多いな」

「保存食に、衣服……ああ、これは、今朝、みんなが着ていた……」

「冒険者向けに、わざわざ作ったらしいな。

 うむ。かなり安い。

 それに、動きやすくて丈夫なんだろうな」

「目的を考えると……そう、なんでしょうね。

 買ってみますか?」

「そこにあるの、一通り、買っておけ。

 詳しい分析は後回しだ。観光客が土産物を買いあさるのは、別段、珍しくもなかろう」

「ですね」

「そいつら買ったら、一時撤収してどっかに落ち着いて、分析作業にとりかかるぞ。

 思ったよりも多様な情報が手に入った」

「了解」


「……意外に、宿を探すのに手間取ったな」

「宿の数自体が少ないっていうのもありますが……ほとんど、空き室がありませんでしたね」

「でもまあ、狭いながらもなんとか個室が確保できてよかったわ。

 そんじゃあ、売店で買ったのを見聞してみるかあ……。

 服……は、いいや。

 保存食……ほう。なるほど。モンスターの肉を無駄にしていないわけね。

 お札は……帰って、魔法兵に見せて……っと、お前、なに一人で読みふけっているんだよ」

「……はっ。

 いや、小隊長。

 この写本、ちょっと凄いですよ。

 冒険者の新人に向けた、教本らしいんですけどね」

「教本だぁ? なんだ、ここのギルドは、新人教育まで引き受けるほど面倒見がいいのか?

 どれ、ちょいと見せてみろ。

 ……ふんふん。

 ……………………なんだ、こりゃあ?」

「ね。凄いでしょ?

 こんなの……王都にだってありやしませんよ!」

「ああ……こりゃあ……。

 誰が書いたのか知れねえが……迷宮という特殊な環境に特化した部分をのぞけば……」

「リスクコントロールに、ダメージコントロール、突発的なトラブルへの対処法、その他諸々。

 ええ。

 立派な、兵法書です」

「少し改訂して、うちの軍の教本に採用したいくらいだな」

「まったく。

 すくなくとも参謀本部の連中は、これをみやげに持ち帰ったら、大喜びしますよ」

「悔し涙がちょちょぎれる、の間違いじゃないのか? 嫉妬で……。

 うーん……どっかで、これと似たような文を読んだような記憶もあるんだが……どこでだったっけかなー……あー、でそうで、でてこねー……」

「言い回しなんかは、微妙に違いますが……。

 論旨の流れ方なんかは、帝国の兵法書にかなり似てますね」

「それだ!

 帝室のみに伝わる、ごく一部しか内容が出回っていないアレ!

 してみると……あのギルド、帝国の援助を受けているのか?」

「まさか! ……とは、いいきれませんね。

 帝国人も何人か来ていることは、確認できてますし」

「帝国人が? なんでこんな辺境に?」

「なんでも、迷宮内で見つかった知的種族との接触事業を行っている最中だそうで、だいぶ前から官吏も赴任してきて、公館を構えています」

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