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8.はもん。

「シナクさん、わたしからもひとつ、確認したいことが」

「ああ、これはどうも、ギリスさん」

「シナクさんって、ごまかしたこと、話題を逸らしたいときなんかは露骨に多弁になりますよね。

 それはいいんですが……シナクさん。

 彼女とは、本当に、数日前にはじめてお会いしたんですよね」

「誓って!

 いや、誓うまでもなく、本当に、わずかここ数日の関係でしかありません。

 それまでは、ティリ様の存在すら、おれは知りませんでした。

 いや、これは……ティリ様の伯父上とおれとの関係を軽ろんじてとかいうわけでもなく……。

 ああー。

 うまくいえないけど、おれにとってあのじじいはじじいでしかなく、帝室とかなんとかは、いまだにまるで実感がなくて……。

 それなのに、いきなり、そのじじいの血縁者が会いに来たって……ねえ?

 いったい、どんな感慨を持てばいいのかもわからず、自分の中で消化できていないわけで……」

「もういいです。

 つまり、シナクさん自身も、いろいろと持て余している、と……。

 その狼狽ぶりは、本物だと判断します」

「……ふぅ。

 なんだか知らないけど、ギリスさんにそいってもらえると、すっげぇ安心できる。

 っていうか、さ。

 おれとじじいのこと、ここにいる人たちの半分くらいは、知っているはずでしょ?

 なんで今さら、そんなに大騒ぎするの?」

「わはははははは。

 だって、なあ。

 知識として知っているものと、現実にこうして帝統がわざわざ訪ねてくるのとでは、インパクトがだんちだからなあ」

「はい、バッカス。

 ここぞとばかりに正論をいわないでくれ。

 当の本人であるおれだってそのインパクトに叩きのめされている最中なんだから」

「シナクがまたひとり、女の子にフラグをたてて帰ってきた」

「はい、ルリーカ。

 訳のわからないこといわない。

 フラグとはなんですかフラグとは。

 おれはここ数年、旗なんかまともに手にしていませんよ、ええ」

「そのじじいとやらに関して、まったくの初耳なのだがな」

「あー。

 リンナさんは、そうでしたっけ?

 詳しい事情は、他の人からお聞きください。

 そうですね、レニーかコニスあたりがおすすめですよ。

 ある意味、この二人がティリ様をここにお連れした張本人みたいなもんだし……」

「シナクさん……お恨み申し上げます……」

「うわっ、レキハナ官吏!

 いやあ、本当、心中お察し申し上げます。

 重ねていいますが、こうなるように仕組んだのは、レニーかコニスですからね!

 おれは、どちらかというと最初から反対の立場だったんで……。

 いや、押し切られた責任を問われてしまうと、一言もないわけですが……」

「で、どーぞくちゃーん。

 その、押し切られた理由てぇ、結局、なんなの?

 これでシナクくん、家出してきた高貴な家の出の娘さんがいたら、すぐにおうちに帰るよう即すくらいの良識はあったでしょ?」

「ああ先生、それです。それ。

 あと数日中に、五万人を越える王国軍が、この町に到着します。すでに港町デラルデラムの郊外に到着し、野営しているところをおれたちはこの目で目撃しています。

 他にもいろいろ細かい理由はあるのですが……一番の理由は、つまりはそのことに尽きます。

 詳しいことは……ちょうどいい機会だ。

 やはりいいだしっぺのレニーに、解説してもらいましょう」


「……なるほど。

 どうせいうことを聞かないのなら、取り込んでこちらのカードにする、ということか……」

「要約すれば、そういうことになりますか」

「理屈としては理解できるが……実際に、そううまくいくものなのか?」

「うまくいかせるしなかいでしょう、リンナさん。

 なにしろ、王国軍は、すぐそこにまで迫っています。あと数日中に、この町に到着するんです。

 われわれには使える手札があまりにも少なく、一枚でも多くの手札が欲しい」

「それも、ただそこに居るだけでこの町を変えてしまうような大軍がね!」

「それに、このことは、このティリ様にも一通りおはなしし、了承を得ています」

「うむ!

 よきに計らえ!」

「いっちゃあ、なんだけど……。

 どうみてもこれ、純真な若君、いや、姫君をたぶらかす悪家老の図だよなあ……」

「悪家老、結構じゃないですか、シナクさん。

 それで万事丸く収まるのなら、ぼくは悪家老役でもなんでもしますよ」

「もともと、レニーくんは見かけによらず黒いしね!」

「しかし……王子率いる、五万を越える王国軍……か。

 おれたち冒険者には、実感がわかないスケールだな……」

「この町が二つちょい、軽くすっぽり入るくらいの人たちが軍備を整えて押し寄せてくるわけだね!」

「なに! 五万とは、そんなに大勢になるのか!」

「確かに、それは……来るだけでも、えらいことだなあ……」

「こうして雁首揃えていることだし、レニー、ちょうどいい機会だ。

 ここまで到着した国王軍が、どういう行動をとるのか、ひとつ予測をたててみないか?

 なにしろこの中で、軍隊のやり口に詳しいのは、お前くらいのもんなんだから」

「そう……ですね。

 この町に到着したら……おそらく、町のすぐ外に野営地を設営しつつ……首脳部が王国府発布の軍事計画書を携えて、役場とギルド、双方に会見の申し込みをしてくるでしょう。

 同時に、工兵を動員して、半恒久的な軍事基地の建設に取りかかると思います。

 みなさまご存じの通り、この町の建物はすでに満員御礼、ほとんどの不動産がふさがっている状態ですから、その上五万以上の人間を受け入れる余地がない。

 また、防衛という点からいっても、軍独自の施設を欲しがるはずです」

「建設……この真冬にか?

 雪だって、こんなに積もっているし……建材だって、どこから……」

「彼らは、王国軍です。

 強力な魔法兵を擁しているから、雪や天候などどうとでも出来ます。

 建材については……おそらく、国王の強権を発動して、取り寄せることになるでしょう。

 ちょうど……王国に引け目を感じている大貴族が何名か、いることですしね。

 彼らは保身の為に、多少の無理な命令でもほいほい受諾することでしょう」

「王国軍って……すごいんだな。

 その、数だけではなく」

「その、数だけでもすごいんですが……そうですね。

 数、プラス、王国の権勢……少なくともこの周辺では、無敵の存在です。

 少しでも気を抜けば……われわれ非力な者なんか、すぐにでも飲み込まれてしまいますよ」

「……なるほど。

 いざというときの切り札が必要なわけが、よくわかった」

「王国軍は、基地を建築するだけで満足するのか?」

「もちろん、それだけですむはずがありません。

 王国が一番欲しいのは、あの迷宮の利権です。

 今のところ、ギルドを経由して税を吸い上げるくらいしか方法がないわけですが……。

 例えば、迷宮が王国軍だけでも手に負える存在であると判明すれば、即座に法律を改定してでもギルドを排除してくるでしょう。

 王国とは、この国の法を定め実行する機関、その大本です。

 目的のためにはその程度のことは躊躇なくやってみせます」

「今回の王国軍派遣は……それが実現可能かどうか、確認するための先兵ってところか」

「事実上……そう、なるでしょうね」

「その……五万の軍勢でかかっても……攻略できないものなのかな?

 あの……迷宮は?」

「その答えは、みなさんがご存じでしょう?」

「「「「「「「「「「迷宮は、そんなに甘いものではない!」」」」」」」」」」

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