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6.いえでむすめのかくまいかた。

「シナクさん。

 逆に考えると……これは、チャンスです」

「なんだ、レニー。

 いきなり……」

「ティリ様のお言葉を信じるとして、シナクさんと同等の身体能力を彼女が持っている、と、仮定します。

 まず、彼女は、ギルドにとっても大きな戦力になります」

「まあ……否定は、できないわな」

「つぎに、彼女の出自は、王国軍を牽制するための切り札になりえます」

「おい!

 いや……でも……。

 有効、といえば……有効……なのか?」

「最後に……例えばシナクさんは、日々儀式だ礼法だと日常の一挙動からして厳密に作法で規定されているような生活に、耐えられますか?」

「無理無理!

 絶対、無理!」

「このティリ様が逃げ出してきた世界とは、そういう有様だったわけです。

 この家出旅行自体を肯定することはしませんが……。

 ティリ様が生まれ育った帝城は、ティリ様にとっては心休まるいとまがない場所であった、ということです。

 ティリ様は、おそらく……そのご気性に即した居場所を求めて、これまで放蕩を繰り返していたに違いありません。

 こういってはなんですが……そもそも帝国には、ティリ様に相応しい居場所なぞなかったんですよ」

「そうだ! その通りだ! おぬしは実にいいことをいう!」

「最後に……これから、われわれが何事か言い聞かせたとして……このティリ様が、おとなしく耳を傾けて、唯々諾々と従ってくれると……そう、思えますか?

 いっておきますが、ティリ様は……そのご気性だけではなく、シナクさんとほぼ同等の身体能力までお持ちなんですよ? さらにいうなら、帝国の皇女という、比類なき出生でも、あらせられる。

 そんな存在に対して……どうやって、こちらのいうことをいいきませようというのですか……」

「そ、そりゃあ……」

「こういってはなんですがね、シナクさん。

 どうせ、コントロールできない存在なら……やりたいようにやらせた上で、せいぜい利用するのが上策というものですよ。

 幸いなことに、ティリ様には今まで説明してきたような利用のし甲斐がある。

 われわれはティリ様を利用し、その見返りとして、できるだけティリ様が自由に動けるようにサポートする。

 なんなら、あくまでお互いの利害を尊重した上の取引だとでも思ってください」

「……うっ……」

「それとも、シナクさんは……。

 何かもっといい代案、解決方法を、お持ちなのですか?」

「……うー。

 あとでどうなっても、おれはしらねーぞぉ……」

「結構ですよ。

 ギルドとレキハナ官吏には、ぼくが掛け合います」

「で……なにが、どうなったのじゃ?」

「ええ、ティリ様。

 ティリ様が可能な限り自由に動けるよう、ぼくらがサポートすることとあいなりました」

「ふむ!

 よきにはからえ!」

「ああ……。

 なんか、踏み越えてはいけない一線を、今、踏み越えた気がする……」

「シナクくん、シナクくん!

 家出娘をかくまうことになっただけ!

 そう考えると気が楽になるよ!」

「帝国で一番偉い家からの家出娘だがな!

 ……はぁ……」


 翌朝。

 港町デラルデラム郊外。

「なんだかんだいって、シナクさんも、昨夜は遅くまでティリ様とはなしこんでいたじゃないですか」

「じじいのはなしをせがまれていただけだよ。

 それに、あの娘の出生が問題なのであって、あの娘個人に含むところがあるわけでもないしな。

 あんだけ強い思い入れがあるのにも関わらず、じじいとあの娘は、直接顔を合わせたことがないんだと」

「そりゃあ……年齢を考えると、そうなるでしょうねえ……」

「シナクくん! レニーくん!

 橇の手配がついたよ!」

「おー、今いくー。

 しかしまあ、王国軍、まだ出発していないのな」

「これだけの図体ですからね。

 足並みをそろえるだけでも、いろいろ煩雑なことが多いんでしょう。

 もともと、通常の行軍とは違って、急いでどうなる案件でもありませんしね」

「そんなもんか」

「そんなもんです」


「橇での旅というのも、これはこれで趣があるものだな」

「寒くはないですか? ティリ様」

「子細、問題ない!

 そもそも、自分の足で駆けておるほうが、よほど強く風が顔に当たる!

 そうであろう、シナクよ!」

「まあ……そうっすね」

「気のない返答じゃのう、シナクよ。

 わらわとおぬしとは、精神的な紐帯で結ばれた同胞であろうというのに……」

「いや……いっとくけど、おれ、ティリ様ほど野放図で非常識な存在ではないつもりですよ!

 いや、マジで!」

「あはははははは!

 シナクくん、自覚がまるでないあたりが、実に笑えるね!」

「笑うなコニス!」

「しかし、これで三、四日、か……」

「あくまで、お天道様次第ですがね。

 しばらくは、雪以外なにもない平原だ。

 長旅の疲れが残っているだろうし、横にでもなっていたらどうです」

「そうじゃな。

 休めるときに、休んでおくとするか……。

 かの地のことは、三日もあればいくらでも聞きだす時間があるであろう……。

 ……すぅ」

「ありゃりゃ。

 寝つくの早いなあ」

「コニス。

 顔に適当な布かなんか、かけておけよ。

 不用心に顔晒してっと、すぐに雪焼けすっぞ」

「はいはい。

 なんだかんだいって、シナクくんもやさしいよね!」

「そんなんじゃねーよ……」


 ギルド本部。

「……それで、その子を連れてきた、と……」

「ええ。

 そういうことに、なりますね。

 一応、帝国の公務館にはいきさつを記した文と、レキハナ官吏にあてた書状を置いてきましたけど……」

「それで……。

 レニーさんは、この子の冒険者登録を、しろと?」

「ティリ様は、迷宮の中をみたがっておいでです。

 その願望を実現するためには、一番てっとり早い方法でしょ?」

「でも、その子……帝国の、皇女様であらせられるわけで……」

「本人はそう自称しておりますし、このティリ様が嘘をつくいわれはないかと」

「うむ。

 わが名はシュフェルリティリウス・シャルファフィアナ。

 それに、相違ない」

「……はぁ」

「ギリスさん。

 冒険者の登録は、前歴問わず。

 そのような、原則でしたよね?」

「ええ。

 先ほどから……なにかいい逃げ道はないかと、模索していたのですが……。

 どうやら、登録手続きをお断りする、いい口実は、皆無なようです。

 登録手続きを、行いましょう。

 今、人を呼びます。

 ……フェリスさん、すぐ来てください!」

「はーい! よろこんでー!」

「フェリスさん。

 この方を新人さんたちの教練所にお連れして、所定の登録手続きをしてください。

 ゆめゆめ……粗相のないように」

「ギリスさん、任せてください。

 このフェリスの手に掛かれば……」

「無駄口は叩かない。

 いわれたことを即実行」

「イエス、マム!

 では、こちらにどうぞ!」

「うむ!

 苦しゅうない!」

「……ふぅ。

 あの……シナクさんは……」

「ええ。

 面倒なことになりそうだと踏んで、さっさとお逃げになりました」

「憎たらしいほど的確な状況判断能力と逃げ足ですね!」

「そりゃあ、もう。

 彼はどちらも一流ですから。

 ただ、その……若干の、例外はあるようですが……」

「例外……ですか?」

「どうも彼は、私生活で女性が絡むと、判断能力も逃げ足も鈍るようでして……」

「……レニーさん?」

「ギリスさん的には、シナクくんがこの場に来た方がよかったですか?」

「レニーさん!」

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